91 VS折紙アレンⅢ②
■SIDE:綾織ナズナ
あたしがジャンケンに負けてみんな分のガリガリ君を買って帰ってくると、なんかシオンが人ならざるものになりかけてた。
「なんかシオン、アメコミのラスボスみたいな見た目になってるけど、大丈夫なの?」
「まあ、自我はあるみたいだしいいんじゃないか?」
牧野コウタくん、楽観主義者。
「それで、ユウリくんとスズカちゃんはなんで赤面なの?」
「知らねぇ。まあ、そっちはそっちで色々あるんだろ」
牧野コウタくん、日和見主義者。
そこに、ぽてぽてと歩く男子生徒と、背の高い女子……生徒? が歩いてきた。二人ともつなぎを着ているのでキュクロプスだ。
「おー、やってますね」
「あの戦闘外装の試着、試着にしてはやりすぎじゃない……?」
「あ、もしかしてシオンの戦闘外装の……?」
「あ、そうッス! こっちのでかいのが十四年生のコタツさんで、自分がガラスッス」
十四……? 聞かないでおこう……。
「まだ最終調整終わってないんだけど、その前に適合が必要でさ。なんか戦うって言うから試着して貰ったんだけど……」
GRAAAAAAAASH!!
BRAAAAAAA!!!
向こうから人と人の斬り合いとは思えない音がしてくる。
「ま、まあ、あのレベルの斬り合いで破れないということは上等ということで……」
「そッスね。あ、でも左腕のとこはもうちょい可変に出来ないすかね。あの真っ黒のガントレット召喚した時に邪魔にならないとこに」
「早計だな。あのガントレットがどういう物質か見るのが先だ」
「わ、そッスねぇ。さすがコタツさん」
キュクロプスっぽさ溢れる会話を間近で聞けるの楽しいなぁ。
にしてもこの戦い、定期テスト以上じゃない……?
アレンくんは一撃必殺的な技のクールタイムどんどん短くしてるし、シオンはフィールドの重力を片手で操ってるし……。
もう! 遠くに行っちゃうとか心配して泣いたのに! 人間辞めそうなのなんなのよ〜!!!
あの腕だって、女の子的には相当悲しいはずなのに、人を守るためならって、強くなるためならって受け入れてるし……。
ん?
でもこれ、成績に何の関係もない戦いだよね? 剣聖になるならないとか全然関係ない決闘だよね??
そもそも花火大会誘いに行ったんだよね? なんでこうなってるの……?
「ねぇコウタくん」
「なんだい綾織」
「シオンってやっぱバカだ」
「自明の理だろ」
はぁ〜……。
まあでも──。
周囲を見渡すと、ラタトスクの一年生だけだった観客が、徐々に増え始めた。競技場に併設されている観客席は埋まりつつあって、みんな応援したい方を応援している。
「俺、賭場開こうかな。バカ儲けられそう」
「やめときなよ。この前ライザ先輩賭博見つかって退学させられそうになったじゃん……」
「俺、そこまでの勇気はないわ……」
なんでこんなにも人が多いのか、考えた。ああ、そういえば、今日はお祭りだ。
シオンに散々言っといて、あたしはお祭りのことなんて忘れていた。
好きな人を誘えないと分かっているから、そんなの、初めっから無かったことにしてたんだ。
考えると、ちょっと憂鬱だな。
「……アレンくん頑張れ」
そんなことをふと呟いてしまうあたしのことが、あたしは嫌いだ。
ごめんね。こんな奴で。シオン──。
「ね、コウタくん。夏祭り、一緒にいく? あたし相手いなくてさ。焼きそば食べたいなーとか思うんだよね。どう?」
コウタくんもあたしも、互いを見たりはしなかった。
「行かない。好きな女誘えないへなちょこの誘いになど乗らない。あと俺は祭りとか嫌い。部屋で映画見ていたい」
くぅー。パンチライン。
「ごめん、心にもないお誘いをして」
「心にもないことまでは言わなくて良かった。傷ついた」
「ごめんごめん」
そうだよね。誰も、誰の代替にはならないし、なれない。
冗談とはいえ、コウタくんにも失礼だった。
「つーかさ」
コウタくんは試合から目を離しはしない。
「そういう気持ち伝えて、関係変わるようなヤツなの? アレって」
そう言われ、俯いていた顔をふっとあげる。
ううん、きっと、そんなことないよ。
あの子は、誰よりも優しいんだもん。
「でも好きな人の、恋の邪魔、できないよ」
「もーちょいわがままになってもいいんじゃないすかね」
アイスをかじりながら、彼はそう言った。
「俺は映画が恋人だからさ、恋とかどうでもいいけどさ。恋愛って結局、最後に一番狡猾だったヤツが勝つんじゃね?」
それは努力とかではなく、想いの強さでもない。
「なんで想ってるやつが、ただ想われてるヤツに負けんだってハナシ。まあ、これは映画オタク的な見解だけどな」
この人はつくづく痛いとこつく。
「狡猾って、なんか嫌じゃん」
「じゃあお前はただの『なんでも許してくれる最高の親友』の枠でいいわけ?」
「……」
やば、なんか泣けてきた。
「いじわる」
「いじわる言われたくなきゃ、自分に素直になるこったな」
初めてこちらを見た牧野コウタは得意げに笑った。
自分に素直に、か。
「陽が落ちてきたな」
もうすぐ、花火大会だ──。
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