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90 VS折紙アレンⅢ①

 炎天下だと、思考が鈍る。だけどあえてこの環境を選んだのは、短期決着を目指すためだ。


 そう、一番大事なのは花火大会だから。


 でも向こうが勝ったら家庭教師とか言い出すし……。勝ちも重要になってきた。


 ほんと、アレンって何考えてるかわかんない。花火より勉強……? そんなタイプじゃないじゃん!


 でもまあいい。勝てばいいんだ。


 こっちの手の内は定期考査でほとんどバレてる。


 三十一式(パニッシュメント)が私の出せる最大の火力だけど、今はどういう感情を「衝動」にコンバートすればいいのかわからない。


 今、私の中の感情は色々複雑だ。


 人間関係とか、恋とか、戦争とか。


 こういう時に「衝動」を使うと、中途半端なバフがかかる。リオン先輩と散々部活で試して、そういう結果が出た。


 それに、アレンが継戦戦術で来るのだとしたら、一撃必殺の後のダウンタイムが大きな隙になる。


 だったら十二式アクセル


 ダメだ。普通に考えて練度は向こうの方が上。いくら補習で身体が鈍ってるとて、彼は定期テスト四位の実力者だ。


『かかか。お主は準優勝であろう』


 その声に身体がびくんと跳ねる。


「ミーちゃん」


『久しぶりの戦いで、我を使わないとは、随分世の中を舐めておるな』


「え、でも、相手が死んじゃう」


『我が初めてお前を乗っ取った日。目の前のやつと初めて戦った日、お前がなんと言ったか忘れたか?』


 ──全員死ぬ気で立ってんだッ! 手ぇ抜いてんじゃねーよこのカスッ!!!!


 言い過ぎである。


 でもそうだ。忘れてた。


 準優勝なんかしちゃって、手を抜いてやろうなんて調子に乗ってたのかも。


「アレン、本気でいいんだよね」

「ああ。手を抜いたらお前のことカスって呼ぶぞ」


 絶対いや!


『我はお主という個体を気に入っている。それは、何もかもに手抜かりをしないからだ。その意味は、わかるな?』


「うん、わかった。でもちょっと、引き出し方がわかんないから、少し模索するね」


『かかか。聞けばいいものを』


「私オタクだから。こういう考察って、自分でした方が楽しい」


『まったく、変なヤツだのう──』


 ミーちゃんはそれ以来黙った。でも確かに思い出す。自分の中に、極大質量の何かが在るということを。


「浅倉ァ〜。審判やるか?」


 姫野がそう声をかけてきたので、お願いする。


「おっしゃ! んじゃあ、位置につけ。カウント。五、四、三、二──」


終わりのない衝動アンストッパブル・インパルス──Rivalry」


不刃流アンワイズ──」


 零。


「九十七式。恋の終止符(ラストリゾート)ッ!!!!」


 いきなり切り札(ラストリゾート)!?


 どんだけ花火大会行きたくないのよ!!


「相殺ッ!!三十一式っ!!限界無しの天誅執行アンリミテッド・パニッシュメントッ!!!」


 ──GRAAAAAAASH!!!!


 最大火力と最大火力が一点に集中して、小規模のソニックブームが発生して、金属が共鳴する。


「あいつらの愛情表現歪んでるよな」

「ホントね。バカよ、バカ」


 うるさいなぁ! バカで結構!!


 九十七式(ラストリゾート)は一発撃ち切りだ。その間隙を、私が貰うッ!


 ミーちゃん。借りるよ。


 できるかわかんないけど。


 この試合、絶対勝たなきゃだから!


「おい、浅倉の左腕、なんかただでさえ墨色なのに、赤黒くなってね????」


 詠唱が頭に流れる──。


「Enchanted Arm──Amplifier(増幅装置)


 墨色の指先から、黒い稲妻が肩まで生じて、それが幾筋も走ると、やがて黒の雷撃は、金属光沢をもつ漆黒のガントレットへと姿を変えた。左腕を肩までを覆ったそれは、いかにも身体に悪そうな瘴気を放っている。


「おーい、浅倉、人間辞めんなよ!」

「大、丈夫ッ! ギリギリ、自我ある!」


 ギリギリ自我あるようなことすんなよとは自分でも思うけど──これヤバい。質量という概念が、腕の中にあるみたい。


「それがシオンの全力の姿か」

「女の子的にはナシなんだけどね!」

「俺はいいと思うぞ」

「きゅ、急にそういうのやだ」


 アレンが褒めてくれたアレンが褒めてくれたアレンが褒めてく──きゃー!!!


「アイツらあれで付き合ってないの、法律で捌いた方がよくね?」

「まあ、そういう世界もあるのよきっと。アタシ達だってそうでしょ?」

「ふーん。そ──。ん? え? あ!?」


 うわ、観客席の方で面白そうな流れが……。でも私は今の試運転で、意識がぶっ飛ばないうちに、アレンをぶっ飛ばさなきゃ。


 泥の中に突っ込んだように重たい左腕をずずっと上げる。藤原イズミ戦のラストを思い出す。


 あの時の沸騰する意識を、腕に、指先に、注ぐ──。


「Extra Order──Imperial Dawn」

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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― 新着の感想 ―
[一言] やべぇなぁこの愛!! 勉強時間なんぞに大事な時間を奪われたくないその我儘衝動をぶつければええんやないかな??
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