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88 夏祭り当日

 今日は夏祭りです!


「楽しみだな〜。焼きそばにチョコバナナ。花火もキレ──」


 そんな具合で話す私の肩をガシッと掴む、岩手帰りの綾織ナズナ。


「ねぇ、シオン」

「はい、マム」

「折紙アレンは、ちゃんと誘ったの?」

「はい、マム」

「本当に?」


 ツーっと汗が垂れる。


「あわわわわわわわ」


 泡を吹いて倒れるとナズナがもうっ! と言いながら私の無い胸をしばいて抗議した。


「あれだけ言ったのに! ちゃんと誘いなよって!!!」

「だ、だって忙しかったんだもん!」

「祭りとかカザネちゃん手伝っててでしょ? せっかく頑張ったのに!」

「む、向こうも忙しいらしいし」

「勉強付き合ってたんでしょ!? いくらでも暇があったんじゃん!」


 そこに、帯刀しているスズカが通りかかる。


「スズカぁ〜……ナズナが正論でいじめる……」

「話しかけないで。いつあの女が攻撃してくるかわかんないんだから。てか、アタシが先に斬り殺す。そしてアンタは意気地無しナメクジ」


 意気地無しナメクジ……。


「どうせ私はナメクジですよ……」


 つんつん地面をつついていると、ナズナがため息をついた。


「あたしだって岩手から飛んでかえってきてさ、親友にいじわる言いたくないよ」


 寝っ転がって死んだフリをしていると、隣にナズナが寝転がって、おでこをあわせてくる。


 あったかい。


「でもさ、好きな人には幸せになってほしーじゃん」

「うぅ……ナズナぁ……」


 おぉ親友よ。私はナズナの有る胸に顔を埋め、わんわん泣いた。


「おい、談話室で百合百合すんな。妄想が捗るだろうが」


 姫野きしょ。じゃなかった、おかえり。


 降神オリガにブチ切れて先に帰還したスズカと、最期まで訓練のためイギリスに残った姫野。姫野は遅れて帰還した。


「おいおい。勝手に死んだことにされたオレに向かってきしょはないだろ」

「うっさいなー。あっちいってよ」

「あーそーかい。じゃー折紙でも誘って花火大会行こっかなー」


 ドキッ……。


 まずい、先に誘われたら誘えなくなる。アレン、この家庭教師の期間、私のこと家庭教師としか見てなかったから、マジで、ちゃんと伝えないとやばい……。


「なー、ナズナちゃん。なんでこんなわかりやすいのにアイツ気づいてねーの?」

「知んない。二人ともバカだからじゃない?」


 ナズナにバカ呼ばわりされる日が来るとは……。


 でも確かにそうだ。私はこの期間、勉強に付き合う家庭教師だとか、バイトに部活──。そんな色んなものを言い訳にした。


 ほんとは誘うための計画、いくつも立てた。


 屋上で星を見ながらとか。

 早朝、散歩しながらとか。

 その他も、いっぱい。


 でも、最後の一歩が出ない。


 なんでだろう。……なんでだろう。


 青春は怖い。


 魔剣で切られるのなんて、なんも怖くないのに。


 好きな人に、好きって言うのが、こんなに怖い。


「分かるよ、分かる」


 ナズナは、丸めた私の背を撫でてくれた。


「その痛みがね、青春って言うんだよ」


 この痛みが──。


「魔剣で斬られても、ぶん殴られてもヘラヘラしてる奴がへこんでるなんておかしな話だよなぁ」


 姫野はそう言ってカバンから何か取り出した。


 帽子をかぶった、テディベア。


「全員にあるけど、お前には先にやる。それに呪いを込めた」


 は? 呪い?


「お前と折紙が絶対に上手くいかない呪い」


「えっ」

「えぇ〜……」


 非難轟々だったけど、姫野は珍しく堂々としていた。


「だからもし上手くいかなかったら、そのクマちゃんのせいにしていい」


 あっ──。


「定期テストでは、オレの好きな(ひと)が世話になったからな。その礼だ」


 ナズナがすっと立って姫野の背をパシンと叩いた。


「やるじゃん。南部鉄器あげる」


 複雑な心境で南部鉄器を受け取る姫野。


「ま、お前がどう考えてるのか知らねーけどさ、あの折紙アレンが恋愛ごときでうだうだすると思うか? あいつは普通の男じゃねえ。オレが見込んだオトコだ。ダメでもともと。何度も何度も当たって、ぶち当たれ」


「何度も──そんなにチャンスがあるのかな」


「なーに言ってんだ。それ、お前の得意な粘着ストーカー戦術じゃねーかよ」


 私ははっとした。たとえはゴミみたいに最悪だけど、言ってることはあってる。


 恋も戦争たたかいも一緒、か。


「一緒なら、一緒だ」


 トートロジーに疑問符を浮かべるナズナ。でも、それは自分だけが分かればいい。


 私は立ち上がる。


 この時間アレンは──。


「シ〜オン。なんか、この炎天下でトレーニングしてる人が第一競技場にいるらしーよ」


 上の階から顔だけ出した藤堂イオリが、どこまで知っているのか、そんなことを教えてくれた。


 こんなクソ暑いのにトレーニングするバカなんて、あのバカしか居ないよね。


「ありがとう!」


 私は走り出した。まだお昼だ。


 花火大会には、間に合わせる!

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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― 新着の感想 ―
[一言] おうおうおう。 「問題ちゃんと終わらせられたら夏祭りで○○奢るよ」って言えば多少学力アップ+デートの誘いがいっぺんにできたじゃんよ(;'∀')
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