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87 眼帯先生の仕事

「というわけで、怪しい人に襲われかけたんですよね」


 眼帯先生にお願いされて、書類整理を手伝っている私。なんとなくの流れでそう言うと、先生は驚いて手を止めた。


「はぁ……。なんでもっと早く言わない……」

「え?」

「ここの学生は自治力があるから、なんでも自分でやってしまうが、基本的に何かあれば先生を頼れ」


 この先生はもっと冷たい人なのかと思ってたけど、そんなこと無かった。


「ごめんなさい。もっと早く言いますね。十三獣王キングスのこととか、王庭十二剣のこととか──」


 すると先生がそっと私の口元に人差し指をやった。


「どこで誰が聞いているか分からない。誰も信じるな。自分だけを信じろ」

「でも先生、いま頼れって……」

「考え無しに、という意味じゃない。お前がその人を本当に信ずるに値すると思った時だけは、信じろ。それには俺も含まれる」

「先生のことはなんだかんだ信頼してます。よく見ていてくれますから」

「そうか。俺は放牧しているつもりだったがな」

「嘘ですよ。先生、問題があったらちゃんと綺麗に揉み消してくれるじゃないですか」


 言い方が悪いと怒られる。


「でも、私たちの進路が間違わないように、いつも私たちが見てないところで頑張ってくれてるのは、なんとなく感じてるんです。眼帯先生も、他の先生も」


 すると眼帯先生は少しあごを上げて、笑った。


「ま、それが先生というものだ」


 もみ消すのも? と聞くとしばかれる。


 髪が崩れる!!


「それより、お前多忙じゃないのか? こうして手伝いを頼んだ俺が言えたことじゃないが」

「めっちゃ多忙ですよ。夏休みとはって感じで……」


 朝起きて、パン焼いて、走って、朝の自習に付き合って、バイトに出かけて、昼休みにファイトクラブに顔を出して、バイトに戻って、終わったら夜練に参加して、反省会と掃除をして、また自習に付き合って、夜食作って、素振り──。


「で、寝られると思ったら先生から呼び出しですよ」

「仕方ないだろ。ラタトスクのやつで一番まともなのお前なんだから」

「え、まともですか!? やった!」

「社会適合の面でな。戦い方は異常だよ」


 しゅんとする私。でも、普段からこつこつ真面目にしてたの、評価されてるんだ!


 それが嬉しくって、私はルンルンになった。


「そういえば藤堂が打ち明けたそうだな」


 トントンと紙束を揃える先生。


「友達が魔剣だったのは、正直驚きました。でもそれで何かが変わるわけじゃないです」

「アイツは俺らなんかよりも余程長い時を生きてる。それでも、今が一番楽しいって顔してるな」


 先生は少し嬉しそうに言った。


「そりゃそうです。だって、人生の中で一番若いのは、今なんだから」


 そう言うと、それもそうだなと、先生は優しい同意をくれた。


「先生は知ってたんですか?」

「学長から預かる時にな。模擬戦とか定期考査云々の調整もしなければならないし」

「なるほどー」

「アイツが敵なのだとしたら、処分しなければならない。人間の法で裁くことは出来ないからな」

「あははは。じゃあ弁護士は私がやります」

「割と真剣なんだがな。魔刃学園も完璧ではない。この状態では、いったいなにが信ずるべき本物で、いったいなにが疑うべき偽物なのかは、全く分からないんだ」


 それは確かにそう思う。今まで気を抜いて学園生活を送ってきたけど、さっきも言っていたとおり、信じるべき相手は選ぶべきなのだ。


「本当はお前たちがそんな心配をしないでいい場所を作るのも、俺たちの仕事なんだがな──」

「先生」

「ん?」

「それも、青春ですよ」


 疑問符を浮かべる眼帯先生。


「私たちは学生だけど、魔剣師になりたい──いつか誰かを守りたい人間でもある。そんな私たちにとって、戦いも青春です。誰かに守ってもらうばかりのモラトリアムでのほほんと青春できるほど、頭お花畑じゃないんで!」


 眼帯先生はまた、笑った。この先生は、出会った時よりも、あの不倒門で初めてみた時よりもずっと柔らかくなったと思う。


「頼もしいな。お前達になら、学園を任せられる」

「なんか、もう死ぬ人みたいなセリフですね」

「死ぬ、か。俺はどんな死に方をできるだろうな」


 魔剣師が一度は考える、人生という舞台の幕の下ろし方。


 私にも、まだその答えは出ていない。


 ただ、なんとなくだけど、ぼんやりとイメージしているのは……。


 その最期が、誰かの為であったらなと思う。


「お前、今戦場での死を想像したろ」

「えっ。ソンナコトナイデスヨ」

「あのなぁ……。別に戦国時代じゃないんだから。安らかに死ぬ道だってあるだろ」

「考えもしなかった……」


 頭を小突かれる。


「戦って死ぬだけが人生じゃない。その過程をどう歩むかを、大切にしてくれ」


 先生としてのお願いだ、そう言いながら、先生はし分けていたチラシの一枚を私に渡した。


「夏祭り、ポスターで──焼きそば半額……!」

「楽しんでこい。明日くらいは、ぬるま湯の青春やってもいいだろ」


 先生……!


「……ん?」


 えっ、先生もしかして知ってる……?


 えっ? えっ?


 ははは。


 まさかね……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ええ先生ですねぇ( ´∀` ) というかシオンちゃんはもう少し寝る時間確保した方がいい(;'∀')
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