84 部活の日常
「それでね、夜中にコーヒー持ってったら、すっごい真顔なんだけど、耳が赤くってね……。かわいかった」
「ヤバ……。尊いってマジ。アタシ死ぬ」
私が恋バナをするもうひとりの相手と言えば、道産子ギャルの燐燈カザネである。
彼女は体験入部の期間を経て、ボッコボコにされながらも、強くなりたいという意思を見せつけたことにより、ファイトクラブへの本入部が認められた。
ちなみにその入部試験は私が担当。結構白熱したけど、彼女の不良品の市場が想像以上に上達していて、私は後半、ほとんどの動きを封じられた。
彼女は割とスロースターターなようで、後半の修羅っぷりといったら……。
それもこれもリオン先輩の鬼畜指導のおかげだろうと思うけど……。
リオン先輩はライザ先輩から後輩の面倒を押し付けられてまたまた嫌な顔したけど、あの人面倒見いいから受け入れちゃうんだよね。
「あのさ、それってアレン氏普通にシオンたゃのこと好きくね??」
「え、でも異性が部屋に入ってきたら、私も耳くらい赤くなるよ」
「姫野は?」
「あー、変わらないかなぁ」
「牧野とか、そのほかの有象無象は?」
「変わんないなぁ」
でっしょ〜? と恋バナになるとうきうきするカザネ。
「もちっと自信持ってもいいんじゃね。シオンたゃの可愛さはアタシが認めっから」
うわ……オタクに優しいギャルってホントにいるんだなぁ……。
そう言ってふたりでボコボコにされたところをマッサージし合いながら和気あいあいしていると、ふらりライザ先輩がやってきた。
「あ、おはようございます」
「おはよっス!」
「朝から元気だなぁ。あれ、リオンは?」
キョロキョロする先輩にカザネが言った。
「リオンたゃならアタシらのことボコボコにした後に用があるってどっか行きましたよ?」
そういえばカザネに筋トレのメニューだけ伝えて去っていったなぁ。
「ははーん。オリガに会いに行ったな。あの色ボケが来たらリオンまでボケボケになるから」
「え、オリガさんのこと知ってるんですか?」
「そりゃね。わたしに知らないことは無いから。ただでさえオリガなんて目立つのにね」
エクスカリバーの所有者が秘匿って話はガセ……? でも私が出会う人って大体事情通だったりするんだよなぁ。
「おりが?」
「えっとね、秋学期からの魔剣実技の先生」
「ほえー。リオンたゃが自分から出向くなんて珍しいね。いつもここでサンドバッグ打ってるのに」
サンドバッグもしくは部員をね……。
「リオンはオリガが大好きなんだ。不刃流の研究室を選んだのも百パーセント私情だね」
「めっちゃかっこよく自分の成長のためって言ってたのに……」
「まあ無理もない。魔力なしからすれば魔力なしであの場所まで上り詰めたってだけで憧憬の的になる」
オリガさんが……魔力なし??
「え、でもめちゃくちゃ魔剣使ってましたよ」
「あ、もう会ったんだ。ならむしろ知っているはずだよ。──オリガが普通の魔剣を使ってはいなかったということを」
「あっ──」
たしかに、彼女はエクスカリバーを使用した。あれは王庭十二剣のひと振り。そして王庭十二剣というのは、魔力を流さずとも単独で魔剣として動く魔剣──。
「あの女は尋常じゃない。わたしが同時に展開できる魔剣の限界まで頑張らないと押せないんだ」
「マ? ライザたゃって剣聖候補っしょ!?」
「候補ってだけ。オリガは魔力なしだから剣聖にはなれない。だけどね、世の中にはそういう尺度では測れないことがある」
八神ライザは私に向けて目配せをした。この間寮の部屋に行った時のような。
──ライザ先輩は何かを水面下で進めている。今ここで情報を伝えるのも、きっとそれが必要だからだ。
……もしも戦争というのが本当にあるのなら私は止めたい。でも、阻止できないならどちらかにつくしかないのかな。
「──ライザ先輩はオリガさんと敵対しますか?」
私は今ここで聞いておくべきことを聞いた。今ここで聞いておかなければ、もうきっと、こうして無垢に問うことなど叶わない気がしたから。
「時と場合による。──そうとしか言えないかな。現状オリガが日本に何をしに来たのかが、漠然としか分からないから」
「漠然とは、分かっているんですね」
そのただ事でない空気を察したカザネはキョロリキョロリとしている。
「奴は姉を探しているんだ。ずっと」
降神オリガの姉は、降神マユラだ。
幼い私を守って、そして消えた剣聖。
「あの女はそのためなら何でもする。その『なんでも』をしに来たんだ。きっとその『鍵』が揃ったからね」
鍵──。
「わたしか、生徒会か、オリガか、学長か。どの勢力がそれを手にするかは分からない。けれど確実に内側で何かが起きる。小さくて大きな──戦争だ」
カザネは泣きそうな顔をしているので頭を撫でてあげた。
「じゃあ、リオン先輩を兵士にしようと?」
「そ。言い方は悪いけどその通り。探してたんだけど、オリガに取られちゃったな」
君はどうする?
私はそう問われているような気がした。
だけど、まだ私の答えは出ていない。
それよりも今は、どうしてもわがままを言わせて欲しい。
「花火大会」
「ん?」
「返事は、花火大会が無事に終わってからでもいいですか? きっとそこが分水嶺になる。カザネも、頑張って準備してるんです」
言うと、ライザ先輩はいつものようにニタニタと笑った。
「ああ。分かった。学生の青春を守る──久しぶりにやりがいのある仕事だ。八神の名において、花火大会を守るよ」
その言葉に感謝を返した私は、ライザ先輩と数戦スパーリングをした。
世界のことも大事だ。でも、それと同じくらい、自分のことも大切にしよう。
他の誰でもない、自分のために。
「花火大会楽しみだねっ」
鼻血を流しながらボコボコにされたカザネが言う。うん……そだね……。
私は彼女にティッシュ箱を渡した。
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