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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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 本隊が逗留しているだろう村は、樹林を抜けてすぐの所にあった。


「あ、そういえば目立たない方がいいよね?」

「!!……確かにその通りです」

「それならば服も隠した方が良いのではありませんか?小さな村ですが王宮で働く文官の衣装を知る者がいないとも限りませんぞ」


 いや、ギリギリではあったけれど気が付けて良かったよ。もしかすると余計なトラブルを引き寄せていたかもしれないからねえ。

 他国の使節団の一員であるボクたちがこの国の王宮で仕事としている才女――しかも貴族――と一緒にいるだなんて、悪意を持つ者からすれば絶好の攻撃材料になってしまうのですよ。


 頭からすっぽり隠せてしまうようなローブをアイテムボックスから取り出し被せることで、女性を隠すことに成功したのでした。

 旅立ちの際にたくさんの服をプレゼントしてくれたアオイさんに感謝だわね。……棘付き肩パッドはいらないけど。


 ちなみに、この時一騒ぎあったのだけど長くなるので省略します。騎士二人はそれとなく察していたようだけれど、大っぴらに披露されるのはまた別の話だったみたい。


 村に入る手続きはスムーズに進んだ。急な逗留ということで本隊はかなりのお金を村に落としていたようだ。加えて、狩ったばかりのキングレイテストホッパーを安値で譲ると伝えたことも功を奏していたね。自警団らしい門番係の対応が明らかに良くなったもの。

 袖の下っぽく見えたのか、騎士の二人だけでなく樹林で助けた女性もいい顔はしていなかったけれど。だけど我慢して欲しい。いつまでも巨大な虫の死骸を持って歩きたくないので。


 一応確認ということで呼ばれてきた副隊長さんと一緒に村の中へ。

 昨晩の様子を聞いてみれば、アルスタイン君もシュネージュルちゃんも文句を言わずに出された食事を食べて、提供された村長宅の客間で就寝したそうだ。宿屋はなかったのか、それとも貴族には対応できなかったもよう。小さな村では割とよくあることだ。

 それでも十日近くに及ぶ野営訓練を体験したことで、生活環境に対する敷居がいい感じに下がっていたのだね。それどころか自分たちから進んで交流を行っていたらしく、村人たちが感激していたとのこと。


 ああ、女性が眉をひそめていたのはそういう部分もあったためなのか。

 再三の説明になって申し訳ないが、ディナル農耕国は身分差や階級差が厳しい。これは王家が大王国時代の大貴族であることにも由来しているといえる。

 そんな国の中枢である王宮で働いていたのだ。良くも悪くも身分差が体に染みついているのだろう。


 困惑する女性を生温かく見守りながら、村長宅でアルスタイン君とシュネージュルちゃんに帰還の報告と面会を行う。


「エルネ以下樹林探索部隊三名、ただ今帰還し本隊に合流いたします」

「ご苦労様」

「三人の無事な帰還を嬉しく思う」


 なにゆえボクが代表して報告をしているのか?『戦闘指南役兼警護特別顧問』という長ったらしい役柄を押し付けられているため一番立場が上という扱いになってしまうからですよ、ちくせう!

 樹林で助けた彼女が一緒でなければ、同行した二人に挨拶もお任せできていたのだけれどねえ……。もっとも、軽装とはいえ騎士然とした二人――いや、実際に騎士なのだけれども――を差し置いて冒険者風なボクが報告を行っていたことでかえって怪しく思われている気がするよ。


 ちなみに、お互い貴族なので最初に名乗り合うことが正式な作法となるのだが、これをあえて省くことで「内々の話にしますよー」とか「大事にはしませんよー」と暗に表明していたりする、らしい。


「詳しい内容は後ほど二人から説明いたしますので、まずは大まかにだけ話をさせていただきます」


 シュネージュルちゃんが予測した通り女性が捕らえられていたこと、犯人は悪魔で既に倒してしまったこと、更には方位芯もどきを渡してピグミーの破落戸(ごろつき)たちを呼び寄せようとしたのは、悪魔による策略だったことなどを語っていった。


「そういった事情から悪魔を倒すことを優先したため、やつの狙いや目的については不明なままとなっています。申し訳ありません」


 悪魔は人の負の感情を糧にする、といった逸話がある。そのせいか自身の悪事を語って聞かせたり、わざと種明かしをしたりすると言われているのだ。

 実際フェルペもやたらと饒舌だったし、あの少女悪魔も聞いてもいないことをぺらぺらと喋っていた。もう少しうまく立ち回っていれば、色々なことを聞き出すことだってできていたかもしれないのだ。今後の課題点だね。


「まさか悪魔が糸を引いていたとは……。もしかするとこの件は単なる誘拐騒ぎではないのかもしれませんな」


 難しい顔つきで意見を述べたのは使節団の影のトップでもある交渉担当官だった。本当は出しゃばるつもりがなかったのだろうけれど、アルスタイン君とシュネージュルちゃんが情報過多でフリーズしちゃっているからねえ。仕方なく会話を進める方に回ったようだ。


「あ、あの!」


 しかしそこに水を差す人が。誰かと思えば樹林で助けた女性だった。


「助けられた身でこのようなことを口にするのは失礼だと理解はしているのですが……、今の報告を鵜呑みにされてしまうのですか?」


 そういえば彼女には疲弊した精神状態を考慮して犯人のことには一切触れずに、「もう大丈夫」としか言っていなかった気がする。ボクを見ただけでも錯乱していたのが、意見を言えるまでに回復したのだから感慨深いものがあるね。

 なお、その言葉を分かりやすく言い換えると以下のようになる。


「は?さらっと悪魔を倒したとか言ってるんですけど?え?マジでそれ信じちゃう訳?」


 うん。とっても失礼だよね。

 ただし悪魔という存在はある意味反則(チート)のようなものなので、こう言いたくなってしまうのも無理はない。彼女の言葉を咎めようとする人が誰一人いなかったのがその証拠だ。

 一応、キングレイテストホッパーとの戦いは目撃していたが、あれは半分自滅したようなものだったから。


「え、ええと……、不安に思われる気持ちは理解できますが、そこは信用してもらっても大丈夫です」

「こう見えて師しょ、エルネ殿の力は隔絶しているので!」

「そうです。なんといっても一人で南の草原地帯に住む凶悪な魔物を倒せるくらいですから!」

「うちの騎士たちも誰一人敵わなかったほどだ!」


 慌ててシュネージュルちゃんとアルスタイン君がフォローしてくれているが、こっちはこっちで信頼度が高過ぎやしませんかね?

 あと、口調が崩れてきているよ?


〇女性のメンタル回復の割合

 小屋到着時のメンタル残量  … およそ一割


 体力回復薬・傷治療薬    … 一割回復

 主に騎士たちの優しい対応  … 一割回復

 エルネの料理        … 一割回復

 精霊からもらった腕輪の効果 … 五割回復


 今話の時点でおよそ九割まで回復しています。

 なお、完全回復していたらならば空気を読んで悪魔を倒したことについて口を挟んだりはしていたなったことでしょう。

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