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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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90 いつからお宝が物だと錯覚していた

「という訳で、あいつらはこのアイテムが指し示す方にあるらしい宝を求めてやって来たらしいよ」


 尋問を行っていた騎士の一人と一緒に報告すると、アルスタイン君やシュネージュルちゃんだけでなく交渉担当官に果ては騎士の隊長と副隊長までもが、唖然とした顔になっていた。

 まあ、自分たちへの襲撃が「食料がなくなった時にたまたま目についたから」などというふざけた理由だったのだから仕方がないわよね。


「仲間から非難されるほどに急いでいた……。エルネ殿、その男というのは……」

「残念ながら死んでる。森の奥でロングアームに殺されたうちの一人だったってさ」


 直接話が聞ければ一番だったのだけれどね。そうでなくてもまともな精神状態だったのかどうかを知るだけでも随分と違っていたはずだ。魂は天へと上り、その身はもう地面の下だ。


「急がなければならぬ理由……」

「何か思いついた?」

「早い者勝ち、つまりは競争させられているのかと思ったのですが、恐らく違いますな」

「うん。それなら他にも同じような者たちがいないとおかしいものね。それに競争相手がいるならなおさら仲間に詳しい話をしていないのは変だよ」


 やはりいくら考えてもそこが引っ掛かってくるのだ。まあ、しょせんは悪党どもの集まりだから仲間などと言いながらも信用できなかっただけなのかもしれないのだけれど。


「あの……」


 行き詰った重苦しい空気の中で、おずおずと上げられた手が一つ。


「シュネージュル様、どうかした?」

「えっと、その、お宝というのは物じゃなくて、人とか動物ってことはありませんか?」


 その言葉にハッと顔を見合わせるボクたち。


「なるほど、人質か!」

「それなら急ぐのも納得できるし、下手に誰かに喋ることもできない!」


 いやはやこれは盲点だったね。

 しかし、そうだとすればこの先には誰かが捕らえられていることになる。


「師匠!すぐにでも助けに――」

「ダメだよ」

「どうして!?」


 アルスタイン君に最後まで言わせずに拒否すると、シュネージュルちゃんも目を見開いて驚く。


「この樹林は凶悪な魔物でいっぱいなんだ。危険を冒して誰かを助けるよりも、君たちを安全な場所にまで連れて行く方が大事だよ」


 この二人の身に何かがあれば、最悪戦争が起こりかねないからね。そこまではいかなくても、護衛の騎士たちを始め――ボクを含む――使節団参加者は全員責任を取って命を差し出さなくてはいけなくなるだろう。


「命の重さを等しく思うその考えは大事だし素敵なことだよ。だけど、その立場によって優先順位は変わってくるものなんだ」


 とはいえ、せっかく育っている博愛の心を無碍にしていては、将来民の命をないがしろにするようになってしまうかもしれない。


「ねえ、隊長に副隊長。樹林を抜けてから人里までどれくらいかかる?」

「そうですね……、確か街道を一時間ほども進めば村があったように記憶しています」

「そこまでの道中の危険度は?」

「樹林さえ抜けてしまえば至って平穏なものですよ」

「エルネ殿?どうなさるおつもりですか?」

「樹林を抜けたところで二手に分かれようか。本隊はそのまま村を目指して、ボク以下数名でお宝の在り処に向かう」


 ボクの言葉に子どもたちが顔を輝かせる一方で、隊長たちの表情は厳しくなる。


「危険ではありませんか?」

「もちろん危険だよ。ボクたちはもちろん、そっちも残党の三人を引き連れていくことになるんだから」


 加えて、兵士が駐留しているような村であればそのまま引き渡せばいいけれど、自警団しかないような小さな集落ならずっと監視を続けていなくてはいけなくなるのだ。


「どう?護衛の責任者として、二人の率直な意見を聞かせて?」

「最初の奇襲だけでなく縄抜けを企てていたりと油断のならぬ者どもですが、戦闘能力自体は大したはありません。エルネ殿と数名がいなくとも十分に対応可能だと考えます」

「そうですな。危機に陥っている者から目を逸らしたままでいるなど騎士としてあるまじき行い。どうか我らを代表して救いの手を差し伸べてください」


 決まったね。まあ、お宝が人質だと決まった訳ではないのだけれど、そこは言わぬが花でしょう。


「アルスタイン様とシュネージュル様も、これでよろしいですか?」

「うん!師匠、ありがとう!」

「エルネさん。よろしくお願いします!」


 やれやれ。そんな笑顔を向けられては頑張らない訳にはいかないね。

 そうと決まれば急いで出発だ。なにはともあれ樹林から抜け出ないことにはお話にならない。


 ようやく動き出した隊列の最後尾で、ボクはダヴァン号に乗りながらアイテムを観察していた。目の前をヒイヒイ息を荒げながら走る残党たちの話によれば、これまでの移動中にも針の向きは微妙に変化していたという。

 移動の基本は道に沿ってだからね。真っ直ぐ針の指し示す方向に直進できることなどまずありえないのです。


「うん。少しずつだけど向きが変わっていってる。お宝の隠し場所は樹林の奥で間違いなさそう」


 もしかすると樹林を越えた先という展開をこっそり期待していたのだけれど、残念ながら楽はできないみたいだ。

 ところで、人質になっているということは誘拐されたということよね?


「エルネ殿?大丈夫ですか?」


 横合いから声が聞こえてくる。ボクと同じく最後尾で残党たちを見張っている人だ。


「ほえ?どうかした?」

「いえ、随分と険しい表情をしておられましたので」


 彼いわく思い詰めた顔になっていたらしい。

 ……んー、特に意識していなかったのだが、前世の記憶が刺激されたのかな。実はボク、前世では自我が生まれるより前に『竜の里』なる場所から盗み出された――その時は完全な卵でした――みたいなのだよね。その先でお母さんに会えた訳だから結果としては万々歳なのだけれど、どうやら嫌な記憶としても刷り込まれていたようだ。


 なお、『竜の里』へ帰還した記憶は一切ない。思い出せるのはお母さんたちと大陸中を冒険して回ったものばかりだ。

 でも寂しくなんかありません。この世界での故郷、ドラゴンの集落での楽しい思い出がたくさんあるからね。


 はてさて、パパンやママンたちは今回の冒険のお話をどんな顔で聞いてくれるのだろうか?

 その時のことを想像すると、愉快な気持ちになってくるボクなのでした。


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