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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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89 まだ出発できない

 捕縛したピグミー襲撃者たちの生き残りが持っていたという方位芯に似たアイテム、それが示す先は樹林の奥の方だった。

 そこで連中に問い質してみたところ、要領を得ないというかはぐらかしているような話をするばかりだったらしい。


「おいおい、騎士様よお。俺たちはちゃんとありのままの話しているぜえ」

「てめえらの頭の出来が悪いことを俺たちのせいにされてもなあ」

「ゲヒャヒャヒャ!まあ、そう言ってやるなよ。辺境の田舎者どもに学があるはずないだろお」


 こんな態度だから本当に真実を喋っているのかどうかすらも怪しいと思っているみたい。ちなみに、その内容がこちら。

 ある日こいつらの仲間――森の奥で死んでいたうちの一人らしい――が裏賭博の借金の質草としてあのアイテムを持ち帰ってきて、「こいつは宝の在り処を示したマジックアイテムだ!」と言ったらしい。


胡散(うさん)くさっ!?え?その話を信じたの?」


 なるほど、騎士たちが適当なことを言っているのではないかと疑うはずだわ。しかもその当人は死んでいるから確認のしようがないときている。


「具体的にそのお宝が何なのか、あなたたちは知ってるの?」

「さあて、何だったかなあ?」

「もう少しで思い出せそうなんだが、縄が痛くてなあ」

「そうそう。この縄を解いてくれたら思い出せるかもしれねえぜ」


 不遜な物言いに思わず騎士たちを顔を見合わせてしまう。

 仲間が死んで生き残っているのは捕らえられた自分たちだけだというのに、こいつらのこの余裕っぷりはどういうことなのだろう?

 正直お宝はどうでもいいのだけれど、そちらの方は気にかかるね。


「ねえ、ちょっと……」


 ふと思い浮かんだことがあり、騎士の一人を連れて距離を取る。そしてごにょごにょごにょと内緒話。


「……なっ!?それは本当ですか!?」

「正解かどうかは半々、かなあ。ただの思い付きで確証がある訳ではないから」


 なので確かめてみることにする。


「本当に縄を緩めたらお宝のことを話してくれるのかな?」

「んあ?ああ、もちろんだぜ」


 うっはー。これほど信用のならない台詞もそうはないよ。ニチャアと粘つく笑みが全てを物語っておりますですよ。


「エルネ殿!?危険です!」


 心配して叫んだ別の騎士にひらひらを手を振って大丈夫だと応える。危機意識はたるんでいないようで何よりだ。ただ、今回は無知だった部分を突かれてしまったかもしれない。

 捕らえた連中の目の前にまで近づいたところで……。


「てい」


 どげし!

 おもむろに一人の腹辺りに爪先を突き入れる。


「うげはあっ!?」

「て、てめえ!ぐぎゃっ!?」

「いきなりなにしやがべへっ!?」


 続いて残り二人にも尻尾ビンタとローキックをくれてやれば、ダメージを受けた場所を両手でおさえながら(・・・・・・・・・)地面を転がっていた。

 まるで不意討ちしたかのような言い様だが、実際はあちらが動き出してからやり返しているので、そこのところは勘違いしないでね。


「縄がっ!?」

「ばかな!?しっかりと縛り上げたはず!?」

「縄抜けだね。肩を外すとか縛られる時に隙間ができるようにするとか色々方法があるらしいよ」

「そ、そんな技術が……」


 ドコープでは騎士といえば基本当主一族といった高い身分の人たちの護衛や領都などの重要拠点の防衛が主な任務だ。あとは砦への応援ね。ただでさえ賊が少なく対人戦の経験がないことから、そうした知識がまるっと抜けていたのだった。


「兵士なら酒を飲んで気が大きくなって暴れる冒険者を捕まえたり、冒険者同士の喧嘩を収めたりなんてことがままあるから、縄抜けへの対処法とかも持ち合わせていたんだろうけどね。そんな知識が必要になるとは考えたこともなかったんじゃない?」


 トラブルの原因が冒険者ばかり?世の中には残念なことに破落戸あがりのチンピラ冒険者もいるからね。仕方ないね。


「そ、そんなことは!……いえ、頭のどこかで兵士の仕事など我ら誇り高き騎士団には関係ないと侮っていたのかもしれません」


 そう言って項垂れる。素直に反省できるのが彼らの良いところだね。最初の訓練でプライドをへし折る勢いでボコボコにした甲斐があったというものだよ。

 まあ、それぞれの領分というものもあるから、単純に協力すればいいというものでもない。交流を重ねて徐々に補完し合っていくしかないだろう。

 そんな一幕を挟みつつ、縄をしばり直した捕らえた襲撃者たち……、長いから残党でいいか。残党三人への質問を再開する。


「で、お前たちは宝について何を知ってるいるのかな?ああ、次にふざけた態度を取ったら容赦なく腕の骨を折るから」

「ひっ!」

「わ、分かった」

「ガクガクブルブル……」


 笑顔で脅せば三者三様の反応を見せていたが、今度こそ逃げられないと悟ったのか全員カクカクと首を縦に振ってはいたので理解はしていたと思う。

 ただ、一点予想外なことがあった。


「あれだけそれらしく振舞っておいて、実は何も知らなかっただなんて……」


 宝について詳しいことは一切知らされていなかったのだ。分かっているのはアイテムと情報を持ち込んできた仲間が、やたらと急かすようにしていたことだけ。あまりにも鬱陶しいから、アイテムを取り上げてしまったほどだったそうだ。

 ボクたちを襲ったのもそうやって強行軍で移動した結果、食料等が尽きてしまったからだった。網を一斉に投げるという捕縛方法は良かったのにその後の制圧を失敗したり、魔物を刺激して呼び寄せてしまう危険性を考慮していなかったりと、杜撰な面が多かったのはそうした理由からだった。

 なんとも計画性がない話だが、彼らとていつもならそんなことはなかったのだという。


「仲間からの反対を押し切ってまでとか、どうにも裏がありそうな話だなあ」


 とはいえ、その辺りの不和によって襲撃が上手くいかなかった部分もあるだろうから、ボクたちからしてみれば幸運ということになるのだろうけれど。

 それにしても、それほどまでに急がなくてはいけないお宝とは一体何だったのだろう?


 手に入れることができる制限時間があったのかな?例えば、徐々に道具の効果が弱まっていくようになっていたとか。

 ……うーん。あり得なくはないかもしれないが、仲間の不興をかってまでそれを言わない理由が思いつかないや。


 とりあえずは分かったことや残党どもを大人しくさせたことをアルスタイン君たちに報告かな。


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