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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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87 襲撃に次ぐ襲撃

「なあっ!?」


 警告したと同時に騎士たちは抜剣して網を切り払う。その鮮やかな手並みに、木の枝に乗ったピグミーの襲撃者たちが驚愕している。

 ドコープ連合国には草原地帯から這い出して来る巨大魔物を迎え撃つにあたって、網を多用する戦術があるのだ。動きを阻害して一方的に攻撃できるチャンスをつくることができるからだ。

 しかし相手は砦や城に匹敵する巨体だ。投げつけられたものを弾き落としたり跳ね上げたりして、逆に自分たちが網をかぶってしまうこともある。そうした際に素早く脱出できるように、騎士や兵士たちは網を切り払う訓練を受けているのだ。


 さて、驚いていられるだけの余裕があった彼らはまだマシだろう。問題は森の奥に入り込んだ連中の方だ。


「ギャギャギャギャギャギャギャ!」

「う、うわああああああああ!?」

「こ、こいつら上から!?」


 どうやら一足早く魔物と交戦、というか襲われているらしい。だが、その台詞によって魔物の種類を絞ることができた。


「敵はロングアームの可能性が高い!木のそばにいる者は樹上からの攻撃に気を付けろ!」


 隊長の声に目を凝らしてみれば、人間大の何かが木々の間を飛び交っているのが見えた。ロングアームは四つある腕の関節を自由に外すことで腕を伸ばすことができるため、飛ぶかのように樹林の中を移動できるのだ。

 そしてその内の数体が真っ直ぐにこちらへと向かってきていた。


「迎撃はボクに任せて皆は防衛に専念して!」

「了解!」


 ボクの呼びかけに騎士たちが馬車の周りに集まる。これでピグミー連中が何かしでかそうとも対処できるだろう。それでは、ボクはボクの仕事を始めますか。

 接近してくるのは……、たったの二体か。どうやら手近な獲物へと狙いを変更した浮気性なやつがいたみたいだ。


「それはそれで楽でいいけど。【ウォータ】もひとつ【ウォータ】!」


 次々と枝を掴んでは飛び移ってくる猿の魔物に向かって魔法を放つ。


「ギャッ!?」

「ウキギ!?」


 顔に命中した一体は次の枝の目測を誤り墜落し、腹に命中したもう一体は地上には降りれたものの、その衝撃と痛みに悶絶している。追撃のチャーンス!


「ほっ!」


 地面を蹴って――あと、こっそり羽ばたいて――樹林の中へ。墜落したそいつはかなりの勢いがついていたのか、下草や落ち葉を巻き込んでズベシャーと地面を滑って跡を残していた。


「そい!」


 グシャッ!頭を踏みつぶして悲鳴を上げる間もなく絶命させる。そのまま数歩走り、再びジャンプ!


「ガ、ギャギャッ!!」


 もう一体は急接近するボク向けて伸ばした腕を鞭のようにして振るうが、その軌道ゆえに到達するまでには時間がかかる。そしてボクがそれを待ってやる義理もなければ道理もない訳で。


「遅いよ」


 そのまま肉薄すると、心臓に煌龍爪牙の槍穂を突き立てたのだった。

 さて、意外に思われるかもしれないが魔物にも仲間思いな連中がいる。群れや集団で活動するものにその傾向が強いのだが、ロングアームその一つだったようだ。

 あっという間に二体を倒したボクに明確な怒気をぶつけてきたかと思えば、なんと直前までいたぶっていた獲物を放りだして突撃してきたのだ。


 しかしその方法が良くなかった。得意な枝渡りではなく地面を走ってきたのだから。

 樹上での生活に特化したためなのか、名前の通りロングアームの腕は長い。つまりそれは体のバランスが悪いことを意味しており、地面を走る速度は枝を渡るよりもはるかに遅かった。


「仲間思いなのは結構だけど、長所を捨ててちゃ勝ち目はないよ」


 ああ、もしかすると数の差で押し勝てると思ったのかもしれないね。この時点でもやつらはまだ十を超える数が残っていたので。


「ギィ!」


 ギュン!と腕が伸びてくる。

 おっと、さすがに接近戦を挑むほどおバカではなかったか。しかも木々を盾にできる位置取りをしているのが小狡い。


「ほいさ」

「ギャギャギャアアアアアア!!!?」


 が、攻撃に合わせるようにハルバードをぶつけてやれば、爪が折れて指は落ち、掌が裂けた上に拳は砕けていく。武器の性能差に考えを巡らせる頭がなかったことが敗因だわね。

 それにしても血を流させ過ぎているのは問題だ。かなり血の匂いが濃くなってきている。これまでにも述べてきたことだが、血の匂いは他の魔物を呼び寄せる誘引剤となってしまうのだ。


 ここはひとつ小細工が必要かしらん?

 幸か不幸か怪我をしたことでロングアームたちの戦意がそがれてきている。これなら上手くいくかもしれない。


「どう逆立ちしたところでお前たちに勝ち目はないよ。死にたくなければとっとと消え去れ!」


 気迫をまき散らすように放出する。あ、気絶しては元も子もないので少し控えめにしております。

 それが功を奏したのか、約半数にあたる六体が踵を返して逃げ出していく。更にそれを見た残りもものたちも挙動不審となり、ついには一体を残して森の奥へと消えていったのだった。

 よし。血の匂いの元が分散したことで追加の襲撃(おかわり)の可能性は随分と減ったはずだ。あとは居残った一体だけれど……。


「お前、仲間を逃がす時間稼ぎをするつもりだね」


 もしかすると群れのリーダーかそれに準ずるものだったのかもしれない。

 うーん……。こういう覚悟を決めたやつというのは厄介なのよねえ。怪我をすることも死ぬことも恐れないから、思わぬ損害が出てしまうことがあるのだ。


「……ふう。いいよ、追ったりしないからどこんでも行きな」


 ボクが出した結論はこれで終わりにするというものだった。既に大勢が決したロングアームとの戦いよりも、ピグミーの襲撃者たちの対処を優先したいという思いもあったためだ。

 訝しむようにしながらもじりじりと後退りをしてから腕を伸ばして一気に距離を取ると、ロングアームは振り返ることなく去っていった。


「やれやれ。無事に撃退できてよかった。……そこの木の陰にいるやつ、せっかく助かった命を無駄にしたくなければ動かずにじっとしておくんだね」

「チイッ!くそが!」


 しかし、警告に従わずに短剣を構えて飛び出してくる。その腹部から下は真っ赤に染まっていた。


「なるほど、じっとしていても死にそうだったということね」


 それなら回復薬を持っているかもしれないボクを殺してでも、と考えたようだ。


「どこまでも自分本位で身勝手なやつ。まあ、こんな場所で旅人を襲っている連中がまともな訳がないか」

「うるせええええええ!!」

「お前がね」


 するりと突進を避けるだけで男は足をもつれさせてどうと倒れる。すると最後の力を振り絞ったものだったのか、今度は起き上がることもできないでいた。


「う、うあ、あ……」

「さようなら、名前も知らない誰か」


 悪いけど、ボクは殺そうとしてきた相手を介錯してやるほど優しくはないのでね。

 精々死ぬまでの短い時間で悔やむがいいさ。


〇優しくないエルネ

 彼女の前世はVRゲームのテイムモンスターでありNPCに近い特殊なAIが搭載されていました。よって生き死に関しては、プレイヤーだったお母さんことリュカリュカよりもドライです。

 ちなみに、エルネは確かに回復薬を持っていますが、それなり程度の品質のものであり瀕死の人間に使用したところで一時的な延命ができるだけの効果しかありません。

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― 新着の感想 ―
 さてさて、今回の襲撃はどこまで仕組まれていて、どこまでが偶然でしょうねえ?  この直後にあっちの騎士が救援に来たら、笑うしかねえわいな。
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