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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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86 やられたっ!?

 情報と行動指針の共有ができたところで、いざ難所の樹林に突入です。利用する人が激減している割には整備がされているな、というのが第一印象だった。


 道に限らず放置されていれば自然による浸食がすすんでいくものだ。草原などでもそれなりだが、木々の生い茂る森ともなるとその浸食スピードは一層早くなる。そのことを考慮すると、予想以上の手の入りっぷりだ。


「いつもこんな感じ、ではないみたいだね……」


 気になって近くにいた騎士に尋ねてみれば、即座に首を横に振られてしまった。


「いえ。私はこれまで二度この樹林を通ったことがありますが、いずれも枝や蔦が道の真ん中近くにまで張り出してきていました」


 剣よりも鉈の扱いが上手くなる、そんな冗談とも言い切れない状態だったらしい。そして一時間、二時間が経っても枝葉が切り落とされた状況は続いていた。


 もしかして、ボクたちが通るのに合わせて整備してくれたのかな?……いや、ないか。ただでさえディナル側はドコープを見下しているのだ。ガルデンの当主が訪問する際にも同じような有様だったというし、今回の主役は子どもたちだから格という面では更に下になる。わざわざ人手と金をかけるようなことはしないだろう。


「偶然先に誰かが通っただけかもしれないけど、一応用心しておこうか。ボクは森の奥側を中心に警戒することにするよ」

「了解です。隊長と副隊長に伝えておきます」


 カッポカッポと馬を道の左側に寄せつつ、じっと木々の隙間からその先を伺う。も森の中の動きに長けている魔物が道を通りやすくするとは思えないから、やったのは人間の可能性が極めて高い。

 楽観視するなら先ほども言ったように誰か、行商人か付近の猟師たちでも通ったのだろうということになるが、盗賊団が身を隠すためのアジトが作られていた、なんていう最悪なケースも考えられなくはないからね。

 よって、そんな最悪の場合にも対応できるように心構えをしておかなくてはいけない。


 なにも見つけることができないまま森から視線を外すと、ぐるりと馬車列を見回してみる。その瞬間、チリリと首筋の産毛が逆立つような不快感を覚えた。


「敵襲ー!」

「なっ!?」

「うわあっ!?」


 果たして、叫べただけでも良かったと言えるものなのだろうか。道の右側から投げられたいくつもの網によって、あっという間にボクたち一行は絡めとられてしまっていたのだった。


 してやられた。まさか立木が少ない右側の方に潜んでいるだなんて!しかも問答無用でいきなり捕縛をしかけてくるとは思いもよらなかった。

 このまま馬に乗っていても動き辛いばかりだ。すぐに降りてその体に隠れるようにしゃがみこむ。それとほぼ同時に木々の枝の上に数人が姿を現す。全員口元を隠しており、頭には布を巻いている。


 小さい。小柄なシュネージュルちゃんよりもさらに背が低いくらいだ。すわゴブリンかと頭をよぎるが、仮にキングが従えていたとしてもやつらが投網を使って一網打尽にするなどという作戦を思いつくはずがないので却下。

 そうすると彼らはエルフやドワーフと同じく妖精人とも呼ばれるピグミーだろうか。ホビなんちゃという種族ではないので念のため。


 ピグミーを一言で説明すると、小人だ。成人しても身長は一メートルほどにしかならない。その小柄さを活かした俊敏な動きが得意で、更には手先も器用とあって斥候役(スカウト)探索役(シーカー)として冒険者で大成する人もいる。

 一方で、盗賊や暗殺者として闇社会で生きる者たちもいるそうで……。まあ、そちらはどの種族であっても同じようなものか。

 ボクたちを捕らえた連中もそういった闇社会、裏社会の人間なのだろうね。


「くっ!何者だ!?我らをドコープ連合国からの使節団と知っての狼藉か!?」


 前方で騎士の隊長が誰何(すいか)の声を上げる。と、襲撃者たちはギャハギャハと品のない調子で笑いだす。


「ギャハハハハハ!あっさり捕まった間抜けな連中だと思えば、ドコープの田舎者どもかよ!」

「ウヒャヒャヒャヒャ!使節団ってことはお偉様の御一行ってことだろ!こいつは傑作だぜ!」


 その点に関してはぐうの音も出ない。潜んでいるとすれば森の奥側だとばかり思っていたボクたちの失態だ。


「まあ、そこは認めないとね。今後に活かせないどころか同じ失敗を繰り返しちゃう。という訳で突然だけどレッスンその一、失敗はしっかりと認めよう」

「は?」

「え、エルネ殿!?」


 すっくと立ちあがったボクを敵味方問わず驚いた顔で見つめてくる。いや、ただの網だからね。毒が塗られていたでもなし、破いたりしなくても普通に端っこを潜れば抜けられますとも。

 まあ、位置的に端っこの方にいたというのもあるけれど。


「続けてレッスンその二、諦めないこと。どんなに危機的で絶体絶命に思えるような状況でも、意外と何とかなったりするものだよ。だから決して諦めないこと」

「……ブッ!フハッ、ガハハハハハハハハ!!おいおい、マジかよ。この女今の状態から俺たちに勝つ気でいるみたいだぜ!!」

「アッヒャヒャヒャヒャヒャ!!ダメだ、笑い過ぎて腹痛え」


 うわー、こいつら心の底から状況が覆ることはないと信じ切っているよ。そんな訳ないのにね。さっきも言ったけれどやつらが投げてきたのはただの網だ。騎士たちがその気になればあっという間に切り払って自由になれることだろう。

 それをしないのは馬車の中にいるアルスタイン君とシュネージュルちゃんを危険に晒させないためだ。今の時点でなら叱責に反省文の提出、一時的な降格と減給くらいですむだろうけれど、二人に万が一のことがあったら近しい親族が揃って首を差し出さなくてはならなくなってしまう。


 それはきっと子どもたちも望んでいないはずだからね。なんとか穏便に事を運ぼうとしていたのだ。

 ちなみに、この穏便の中には襲撃者たちの命も含まれている。優しい?そうだね、二人に人が死ぬところを見せたくはないという思いからなので。


 その襲撃者たちだが、木の枝に立って姿を見せているのが五人いるのだけれど、少なくともその倍の人数はいるはずだ。なぜなら、投げられた網の数が八つだったからだ。

 他にも一斉に投げるためのタイミングを計る人間が必要だろうし、これ以上後続がいないかを確認する人員もいただろう。


 気配を探ってみればぐるりと反対側、つまりは森の奥側へと移動している者たちが複数いるね。

 ……おや?その更に奥から素早い動きで接近してくる何かが!?


「全員、戦闘態勢!奥から魔物が来るよ!」


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