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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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83 戦闘指南のお仕事

 午前中は高速行軍と言っても差支えがないほどの速度での移動に、午後からは翌日の朝にかけては野営に現地の環境を利用した模擬戦と、ドコープの国内にいる間は街に宿泊する休養日を除いて割と本格的な訓練が続くことになる。時には居合わせた冒険者たちまでもが参加したりするからねえ。

 表敬訪問の使節団とは一体?

 

 まあ、それだけ緊急時に即応できるように備えているということでもあるのだろう。

 あとは……、対人戦となった時の心構えを養おうとしているのかしらね。何度も言うようにドコープ連合国は冒険者を優遇している。これが功を奏しているのか治安の面はかなり良い部類に入るのだ。野盗や盗賊といった連中はまずいないし、街中でもたまにチンピラ冒険者が騒ぎを起こす程度だ。


 ところが、一歩国外へ出るとそうもいかない。特に西方諸国では旧態依然とした王侯貴族による支配が続いている。農産物が有り余っているディナル農耕国ですら、身分格差から飢える者がいるのだ。

 そうした食うに困った人々が行き着く先が盗賊だであり、彼の国でそうした連中と出会わないですむという保証はどこにもないのだ。


 だから訓練しておく。いざという時に身体がすくんでしまわないように。もしもの時に心が壊れてしまわないように。


「アルスタイン様、打ち込みが甘いよ。もっと全力ぶつからないと今の君の身体では簡単に押し返されちゃうぞ。……っと!シュネージュル様の仕掛けるタイミングは良くなってきたね。だけど魔法を発動させる場所を見過ぎかな。それだと何か仕掛けようとしているのがバレバレだよ。〔基礎魔法〕のいいところは魔力の消費が少ないことと発動が簡単なこと。これは言い換えれば集中が甘くても発動可能だってこと。その利点を上手く生かして視野を広く持つの。うん。今の一撃はいいね。しっかり体重が乗っていたから重く感じたよ」


 剣で斬りかかってくるアルスタイン君をいなしながらシュネージュルちゃんの魔法を避ける。二人との訓練で恒例となった本気の模擬戦だ。彼の剣は刃のある真剣だし、彼女も魔法を当てにきている。対するボクも動きに遅延が出ないよう煌龍爪牙を持って相手をしているよ。

 二人との訓練は出発以前から行っていたこともあり、動作も思考も格段に良くなっていた。が、配置と役割的にシュネージュルちゃんが合わせるばかりになっているのが気になるところだね。もう少しアルスタイン君が周囲の状況にまで目を向けられるようになれば、より効果的に連携した動きができるようになると思う。


「そろそろ限界かな?」

「まだだだあ!うわっ!?」


 挑発に乗って前に出ようとする力が入った瞬間に合わせて、こちらは逆に脱力してやる。すると急に支えがなくなるので体勢が崩れてしまうのだ。

 一方のボクは転倒しないようにだけ気を付けておけば、押し出される力を受けるがままに滑るように後退していくだけだ。仮に両脚だけで支えきれないようなら尻尾を使うことだってできるし、最終手段としてこっそり羽ばたくことで姿勢を安定させることだってできてしまう。


「ぬわっ、とっ、とっ、とおおおお!?」

「おっと、危ない」

「ぐえ!?」


 本格的にバランスを崩してつんのめりなったところで、するりとアルスタイン君の背後に回って襟首を掴んで転倒だけは阻止する。刃のある剣を持ったままなので思わぬ怪我をする可能性があったためだ。

 抱きとめる?未成年とはいえ男の子だよ。お胸様はアンタッチャブル領域です。


「わお!」


 思わず気が抜けかけたその時、右脚の真下の地面の感触がなくなる。シュネージュルちゃんの【アース】の魔法か!

 凄いね。これ以上はないというほどにドンピシャなタイミングだったよ。


「だけど、残念」

「あー!?」


 今度こそ勝ちを確信していただろうところを本当に申し訳ないけれど、ボクには尻尾があるのよね。結果は覆ることなく、反対に【ダーク】の魔法で目くらましを受けたシュネージュルちゃんが降参を宣言することになったのだった。


「ぐぬぬ……。今日こそは勝てると思っていたのに」

「エルネさんずるい……」


 あはは。珍しくシュネージュルちゃんが拗ねているよ。そしてこの作戦を考えたのはアルスタイン君だったらしい。こういってはなんだけれど、ちょっぴり予想外だったよ。


「勝利を確信した瞬間こそ、ってやつだね。狙いはとても良かったよ。問題点を上げるとすると、軸足を狙わなかったことだね」


 穴が開いたのが利き足の方だったから、尻尾で支えるまでの間も慌てずに踏ん張れたのよね。


「でもエルネさん、両利きの人もいますよ?」

「どんなに器用な人でも利き足と軸足はあるよ。現にボクがそうだからね」


 両足のどちらからでも攻撃が繰り出せるように日々訓練しているけれど、それでもふとした瞬間には左を軸足としているということがままある。

 さて、せっかくだから彼の方の欠点も告げておこう。


「アルスタイン様の課題はもっと周囲を気にすることだね。今のままだとシュネージュル様が合わせるばかりになってる」


 それでも先ほどのようにいいところまで持って行けるのは、シュネージュルちゃんの洞察力とか判断力が優れているためだろう。だけど、それでは彼女の持つ利点や特性を活かしきれない。


「例えば、魔法を放つタイミングで後ろに下がれるようになれば、巻き込む心配がなくなるから威力の高い魔法を使用することだってできるようになる」


 アプリコットさんやウナ姐さんのように上級の魔法(ハイクラスマジック)まで使いこなせれば、あえて発動させずに待機するなんて芸当も楽々こなせるようになるのだろう。が、シュネージュルちゃんにそれだけの力量はないからね。そこは前衛の側が適切に動いてあげる必要があるのだ。


「それじゃあ今日の訓練はこれで終わり。あとはしっかりと体をほぐしておくこと。水分補給も忘れないようにね」

「分かったぜ師匠。じゃなくて、分かりました。ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 アルスタイン君はこっちの方が苦労しそうだねえ。もっとも、性根の方は問題ないからあとは慣れるだけといったところかな。


「さて、頑張ったご褒美に美味しいお肉を取って来てあげようかな」


 侍女たちが二人の世話を焼き始めたのを確認して、ボクは一人野営地を離れることに。

 なお、運良く狩れたホーンバッファローを担いで戻ったら、皆に腰を抜かすほど驚かれてしまうのでした。


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