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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
77/108

77 おや?アイテムボックスが……

 結局この日はいつもよりもはるかに遅い時間での宿場町への到着となった。

 それでも完全に日が暮れてしまう前に辿り着けたのは、騎士たちのてきぱきとした動きの賜物だろうね。そういう雰囲気というのは伝播するものなのか、冒険者たちだけでなく荷馬車を引く馬たちまでもがきびきびとしていた気がする。


 そうしてアプリコットさんたちと一緒に夜ご飯をいただいてから、与えられた宿の一人部屋へと入る。


 ばたん。ガチャリ。扉を閉めると即鍵をかける。

 何もない部屋の中央付近に立つとおもむろに煌龍爪牙を取り出す。オークとの戦いの後に魔法で水洗いしてあるので、少しの汚れも見当たらないね。


 おっと、本題はそちらではなく。「今日はお疲れ様」と告げて再びアイテムボックスの中へと仕舞う。

 そして今度は本日手に入れた魔石を取り出そうと……。


「やっぱりなくなってる……」


 したのだが、どこにも見当たらなかった。アイテムボックスそのものもそうなのだけれど、正確には存在を感じていると言うべきかな。だから中身は全部分かっているのだよね。


 煌龍爪牙に服がいっぱい、砦でもらったソードテイルレオにファングサーベル、ライトステップの素材をそれそれ一頭分ずつ。ボアローボアを始めお肉各種とハーブに料理がいくつか。回復薬などにロープといった細々とした道具類。他には小石がいくつか。

 あ、フェルペから奪ったバリスタと危険物(マジックアイテム)があった。……よし、見なかったことにしよう!

 このように隅から隅まで感知できるにもかかわらず、魔石だけは見つけることができなった。


「入れた瞬間のあの違和感は気のせいじゃなかったのかあ……」


 いつもとは違って、中に入れるというよりは吸い込まれるような感覚だったのだよね。


「それに、アイテムボックスもなんだか変な気がする」


 どこがどうなのかとはっきりしたことは言えないのだが、とにかく何かが違うのだ。

 なのに、こういう原因が特定できない時特有のモヤモヤ感とかイライラ感は全くないのだよねえ。これもおかしな話だ。


「んー……。どっちかと言うと懐かしい、みたいな?」


 しかし、ママンやパパンを始めドラゴンの集落のことを思い出すようでもないし、ユウハさんたちドワーフの里での出来事に至っては懐かしく感じるほど昔ですらない。


「んー、むー、ぬー……。うにゃ?……昔?」


 そういえばボクには他の人にはない前世という過去の記憶があったのだよね。


「いや、それでも漠然とし過ぎでしょうに。エッ君だった頃の記憶なんて、お母さんと出会った路地裏での破落戸(ごろつき)どもとの乱闘に、その後のブラックドラゴンのおじさんを懲らしめた一件に始まって山ほどあるよ!?」


 文字にするなら二百万文字は下らないよ!


「まあ、とりあえず悪いものではなさそうだけどさ……」


 マイナスの感情は一切浮かんでこないからね。むしろお母さんたちやみんなと一緒にいた時のように和むというかお日様の下の原っぱのようというか、ダンジョンの中のような……。あれ?


「いや、ちょっと待って。いくらボクがドラゴニュートでとんでもなく強いとはいえ、薄暗いダンジョンを快適に感じるとかないから!常に生きるか死ぬかを楽しむような殺伐とした趣味はないから!」


 そもそもエッ君だった頃は、今ほど強くはなかった。みんなと一緒にパーティーで戦うことでようやく強敵に打ち勝っていたのだ。


「……そうだ、『ファーム』だ」


 説明しよう!『ファーム』というのはテイムモンスターが入ることのできる特殊なアイテムだ。

 前世の世界ではどういう理屈なのだか一つのパーティーは六人までという決まりがあり、更になぜだか分からないけれど逆らうことができなかった。

 テイムモンスターも一体が一人と換算されるため、連れ歩けるのは最大でも五体までとなっていたのよね。


 しかし、ここで問題が起きる。パーティーが一杯だと新しくテイムすることができなくなるのだ。

 それなら「一枠空けておけば良いのでは?」と思われるかもしれないが、格下相手ならともかく同等かそれ以上の強さを相手にする時にはその一枠の差が決定的になってしまうことが割とよくあるのだ。なのでパーティーは六人のフルメンバーにすることが推奨されていた。


 強い相手とも互角に戦いたい、だけどモンスターをテイムするのを諦めたくない。そんなジレンマを解消するための画期的なアイテムがファームだった、という訳だ。

 他にもテイムモンスターは進入禁止の街などもあり、そうした面でも役に立つアイテムだった。


 さて、そんなファームだが、中の環境は様々だったらしい。一説によればテイムモンスターそれぞれが好む空間になるという話だったのだけれど、ボクたちの場合はお日様さんさんな草原だったのだよねえ。

 ところが、ある時それが一変することになる。お母さんが『ダンジョンコア』をテイムしてしまったのだ。

 ダンジョンコアというのは文字通りダンジョンの核となるモノのことなのだけれど、「モンスターなのか?」というツッコミは止めてください。正直ボクも良く分からない。


 ともかく、ダンジョンコアをテイムしてファームへと招き入れたところ、一角にダンジョンができてしまった。


 なにを言っているのか分からない?

 大丈夫、ボクも未だにさっぱり理解できていないから。言えることはただ一つ。考えるな、慣れろ!前世でも特にお母さん関連のことは割とそういうことが多かったので……。


 さてさて、そろそろ意識を逃避意味になっていた現実に戻すとしましょうか。

 差し当たっての疑問は、どうしてアイテムボックスから前世のファームと似たものを感じたのかだ。原因ははっきりしているよね。消えてしまった魔石だ。

 恐らくは吸収されてしまったのだろう。そしてアイテムボックスが進化?した。そういえば容量も大きくなっている気がする。


「んー……。中には入れたりはしないのか。だけど、何度か魔石を吸収させていけば可能になるかも?」


 特大サイズの至尊の魔石のように一点物の特徴でもない限り、用途不明ということもあって魔石の販売価値ははっきり言って低い。嵩張るものでもないので売らずにいたとしても不審に思われることは少ないだろう。


「謎が増えたような気もするけど、旅の楽しみが増えたと思えば悪くはないかもね」


 はてさて、アイテムボックスは一体どのような成長を遂げることになるのか?

 ベッドに入ってあーだこーだと妄想しているうちに、いつの間にか寝入っていたのだった。


〇小石

 手触りとか形など、エルネが何となく気に入ったもの。

 主に屋外で野宿する時など、焚火に放り込んで熱しておき桶に汲んだ水に入れることで、身体を拭くお湯を作るのに使っている。

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