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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
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76 深読みしてしまう主従

前半、エルネ視点 → 後半、第三者語りのアプリコット視点となります。

 もらった魔石一個――大した金額にもならないので記念品的な感じで冒険者たちと分けた――をポッケに仕舞う、ふりをしてアイテムボックスに放り込む。


「んう?」

「エルネさん、どうかしたの?」

「ううん。なんでもない」


 横合いから飛んできたアプリコットさんの問いに首を横に振りながら返す。一仕事終えて爽やかに額の汗をぬぐっているけれど、そのお仕事はオークの死体をまとめて焼却することだったのだよねえ……。


「そう?気になることがあったり分からないことがあったら遠慮なく聞いてちょうだいね。……こう言っては失礼かもしれないけれど、あなたは時々誰でも知っているようなことを知らなかったりするから」


 あらら。小国とはいえ本物のお姫様から世間知らず扱いされてしまったよ。


「うふふ。実は深窓のご令嬢なのかもしれなくてよ?」

「エルネさんがご令嬢なら守る騎士たちは立つ瀬がないでしょうねえ……」


 ドラゴンの集落では長の娘だからあながち嘘でもなかったりする。そんなことを考えながら茶化したように言ってみれば、とても深刻そうに返されてしまったのでした。

 まあ、最強令嬢とか『野薔薇姫物語』のアンリ王女のようなものだものだし、実在していたら周囲の人々はさぞかし大変なことだろう。


「さあ、随分と時間がかかってしまったわ。急いで次の宿場町に向かいましょう」


 アプリコットさんの号令に背中を押されるようにしてボクたちは街道へと戻る。確かに動きを止めてからもう二時間ほどが過ぎている。急いで出発しなければ到着が遅くなってしまうだろう。てきぱきと馬車や馬の調子の確認を終えて、再び馬車列が動き出す。

 箱馬車の後方の出っ張りにちょこんと座りながら、そういえば騎士たちから睨まれなくなったな、と気楽に考えるボクなのでした。


「……あ、お昼ご飯食べてない」


 オーク退治でロスした時間を考えると、ここからは宿場町に到着するまでノンストップになりそうよね?止まったとしても女性陣に配慮したお花摘み休憩が限度だろう。


 一人ならこっそりアイムボックスに忍ばせてある食料を取り出して食べることもできたのだが、これだけ人目があるとそうもいかない。加えて今アイテムボックスに入っているものは全てそこそこに手の込んだ料理ばかりだった。

 取り出した途端に「それどこから出したの!?」となるのは明白だった。次からは接待に携帯食料も用意することにしよう。


 はあ。ここからの行程は空腹との戦いになりそうだよ……。




 〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆   




 そんなのんきなエルネとは裏腹に箱馬車の前方では緊迫した会話が行われていた。


「トニア、エルネさんだけどかなりの教養を身に着けているかもしれないわ。魔石繋がりで至尊の魔石についての話になったのだけれど、すぐに『野薔薇姫物語』の名が出てきたわ。しかも一冊や二冊じゃなく相当数を読んでいそうよ」

「なんとそれは……!」


 冒険譚は富裕層がメインターゲットとはいえ、どちらかと言えば平民向けの娯楽である。しかし西方諸国の貴族たちにとって、架空ではあっても自身の祖に当たるアンリ王女が主役で、ロザルォド大王国が舞台となっている『野薔薇姫物語』は一般教養に近いものとなっていた。

 これまで接してきた中で、エルネが読み書きだけでなく簡単な計算までも苦にせず行えることは分かっていたのだが、大量の本を読んで理解できるまでとなるとまた話は違ってくる。


「彼女は冗談めかして言っていたけれど、国元では本当に高貴な身分だったのかもしれないわね……」


 そもそも、書物それ自体が高価な代物だ。原版をもっている出版社は別として、それ以外では写本するしかないのだから当然のことである。近年では研究者や学徒が小遣い稼ぎのために身体強化の魔法を駆使しての写本を行うこともあるらしい。


 そんな状況であるからして、大図書館を完備――大王国時代の遺産に過ぎないのだが――して誰でも自由に利用できるとうそぶいているローズ宗主国ですら、いざという時の保険として利用者から少なくない金額の登録料と使用料を取っているのだ。

 大量の本が読める環境にあるということは、それだけの権力や財力を持ち合わせているという証明にもなるのである。 


鱗持ち(スケイルグループ)は他種族との交流が少のうございますから、その可能性も十分にあり得るかと」


 例えば体のほとんどが鱗に覆われているなど、スケイルグループのセリアンスロープは外見が特徴的な者が多い。そのせいもあってか、同族でまとまって閉鎖的な暮らしをしているとされている。

 ウデイア領どころかドコープ連合国としても伝手はなく、長年当主一家に仕えてきているトニアであっても実際に目にした回数はそう多くはない。


「砂漠の向こうの南方の国にもそうした隠れ里があると耳にしたことがあります。……調べますか?」

「……悪魔フェルペによる砂漠の街の壊滅以降、交易は途絶え大陸の南の情報は全くと言っていいほど入ってこなくなってしまったわ。彼女ほど強い人が易々と追い落とされたとは考え難いから、もしも何かが起きたのであれば隠し立てができるはずもない。いいわ、調べさせて。ただし、くれぐれも慎重にね。エルネさん並みの連中が何人も出てきたら、それだけで国の危機になりそうだもの」


 先ほどのオークとの戦いを思い出し、アプリコットは身震いをする。五十を超える数の敵が押し寄せているというのに、エルネは恐怖することもなければ気負うこともなく近付いてきた順に倒していた。その様はまるであらかじめ取り決めてあったかのようですらあった。

 しかも途中からは〔基礎魔法〕を陽動やかく乱に使う始末だった。もしも何も知らない者がそこだけを見たら、訓練か何かと勘違いしたかもしれない。それほどに圧倒的で一方的な戦いだった。

 そばで見ていた騎士たちなど、叱った時とは比べ物にならないほどに青ざめていた。


 そんな彼女と並ぶほどの、場合によってはそれ以上の力の持ち主が幾人も存在している可能性があるのだ。力を誇示することなく隠れ住んでいるの以上その気はないと思われるのだが、中には野心を抱く者もいるかもしれない。

 敵対しないのはもちろんのこと、下手にこちらの情報を与えることがないように細心の注意が必要になるだろう。


「委細承知しております。それでは領都に戻り次第手配いたします」


 トニアは文官肌で自身の武力もからっきしではあるが、強さを見る目や感じ取る能力がない訳ではない。彼に任せておけば適切な人員を見出してくれるだろう。

 つくづくエルネが好意的で理知的で良かったと、アプリコットは胸を撫で下ろすのだった。


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