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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
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71 増援が合流しました

 騎士団からの応援が到着したのは、領都までの道程のちょうど半分に差し掛かろうかという時のことだった。既に夜の番を行い始めてから五日目となっており、ボクの寝不足とそれに伴う不機嫌はピークに達していたから正直助かったよ。

 あと少し遅ければ七等級冒険者の内の誰かがぶっ倒れていたかもしれない。


 ボク?ドラゴンの肉体はこれくらいのストレスでどうにかなるほど柔ではないので。

 ともあれそんな事情もあって、騎士たちは困惑するくらいの大歓迎を受けることになったのだった。まあ、あちらはライジャンの大失態で「どうお詫び申し上げればよいのか!?」と悩んでいたようだから。想定と百八十度違った応対をされれば戸惑いもするわよね。


「あふ……。これでやっと寝られるようになるかな」


 アプリコットさんの部屋でゴロゴロしながら呟くボク。さすがはお姫様が泊まる部屋だけあって、床の敷物ですらふかふかだ。

 あ、無断侵入している訳ではないよ。明日以降の打ち合わせを行うために執事さんがいなくなるので、代わりに護衛のボクが同室に詰めているのだ。


「エルネさん、お疲れさま。今日は部屋にお湯を運ばせるから、ゆっくり疲れを取ってちょうだい」

「それはありがたいけどどうして?……ああ、ウナ姐さんから聞いたんだね」

「ええ。あなたは無類のお風呂好きだからそれでご機嫌を取りなさい、とね」


 思わず「言い方!?」とツッコミたくなる助言に苦笑しかできないよ。多分アプリコットさんが不興を買うことのないように、わざとそう言えと伝えていたのだろう。ハイランク相当の冒険者パーティーを束ねて支えるサブリーダーを務めているのは伊達ではないということだわね。

 それにしてもそこまでお風呂好きだと言われるほどでは……、あったわ。この世界では綺麗で温かな湯を用意すること自体が困難だ。それなのに大量のお湯に浸かることを好むのだから変わり者扱いされるのも当然だった。


「そこまで知られているなら仕方ないね。ご機嫌を取られてあげましょう」

「ありがたきしあわせー」


 わざとらしく言い合ってクスクス笑い合う。あのウナ姐さんと交流が続いているだけあって、この人もわりかしお茶目でノリがいいよねえ。

 もちろん他に人の目がないからこそ可能なやり取りだということはボクも彼女も理解しているよ。仮に今日合流した騎士たちにでも見られたりすれば、大騒ぎになること間違いなしだろう。


「さあてと、今日は上手い具合に意識を逸らすことができたけど、いつまで彼らの我慢が続くかしらん?」


 表向きは七等級の二パーティーと同じ荷馬車の護衛だが、ボクだけ明らかに待遇が違うことは少し見ていればすぐに気が付くはずだ。

 アプリコットさんの要望書は早馬で騎士団へと直接届けられたとはいえ、どこで誰に見られてしまうのか分からないところがある以上、省ける部分は省いて書かれていたと思う。そしてその省ける部分というのはボクのことに他ならない。


「……エルネさんには申し訳ないけれど、もって二日というところだと思うわ」

「それはちょっと見積もりが厳しくない?」


 残りの行程がおよそ五日だからその半分にも達していないよ。

 ちなみにボクの予想は、三日目に執事さんに事情を問いただし、四日目に「領都ではアプリコット様に対する言動に気を付けるように」的な苦言込みの注意をしにくるとみています。つまり多少のアクションはあっても、ブチ切れて勝負を挑んでくるようなことはないと思っているのだ。


「騎士は他領の当主やその関係者に中央の重鎮の護衛についたり、更には他国からの使者と接したりする機会もあるから、軍部の中でもとりわけ礼儀に厳しいのよ。今トニアが釘を刺しているはずだけど、エルネさんの態度が無礼だと内心では憤っていると思うわ」

「……それでよくライジャンみたいなのが幅を利かせられてたね?」

「十年ほど前かしら、砦の兵士たちとの訓練で大敗したことがあったの。それを機に再編が行われたのだけれど、分家の一つがその騒動に上手く入り込んで勢力を伸ばしたのよ」

「潮流に則って強さは申し分ない上にそこが後ろ盾になっていたから多少のトラブルでは罰せなかった、ということで合ってるかな?」


 厳しい顔つきで深々と頷くアプリコットさん。最悪の場合、騎士団内に勢力を伸ばしたその分家が丸ごと例の誰かの手先になっている可能性があるのだからさもありなんというやつですよ。

 領都に戻ってからもやることが一杯だわね。せめてエルガートさんとの仲が進展するように祈っておいてあげましょう。


 そんなあまり気分のよろしくない未来予測があったものの、その日は温かいお湯で身体を綺麗にできて満足なまま眠りにつくことができたボクなのでした。

 そして翌日のこと。


「うわー、めっちゃ睨んできてるー」


 アプリコットさんたちが乗った先頭の馬車、その後方にある出っ張りににちょこんと腰かけていると、ビシバシと怒気の込められた視線が突き刺さってくる。

 馬車列の中をてってこ走っては異常がないかを確認して回っているので邪魔に思われたのかもしれない。とはいえ、こういう依頼内容だから勝手に変えるというわけにもいかないのよね。

 なお、七等級冒険者パーティーの二組は各々馬に乗って――荷馬車の御者を含む――それぞれの荷馬車の周りに陣取っていた。馬の扱いに長けていることが彼らを登用した大きな理由だったそうだ。


「これは本当に明日には文句を言ってきそうだわ。……うん?」


 ふと左の方から騎士たちとは違った視線を感じる。見れば街道から少し離れて森が続いている。

 確かウデイア領内でも有数の大きさの森で、魔物との戦いがあるとすればここの近辺だろうと言われていた場所だ。そうか、いつの間にか難所に差し掛かっていたのだね。

 肝心の視線だが数が多い。少なくとも十は下らないだろう。まあ、それだけの数だからボクにでも気が付けたのだけれど。


 問題はその位置関係が変わらないということだ。木々の張り出し具合によって多少の違いはあるが、視線の元ととなっている連中はボクたちと並走するように動いているみたい。


「ほっ」


 軽く掛け声を出して飛び降りると、てててっと駆け足で馬車の前方へと回り込む。


「エルネ様?どうかなされましたか?」


 御者席に座る執事ことトニアさんが首をかしげて尋ねてくる。この人も大概に多才だわね。ただし、根っからの文官系なのか荒事に関しては完全に素人だ。現に森からの視線には全く気が付いていない。


「森の中を魔物が群れで移動してる。多分、狙われてるよ」


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