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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
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70 寝不足で不機嫌

 出立の準備はつつがなく行われ、二日後の早朝にはペカトの街を発つことになった。

 唯一の懸念(けねん)はこれかな。


「宿場町内での警備?……いけない、ここでのお披露目が何の問題もなくスムーズに行われていたから、すっかり失念していたわ」


 昨日の昼のことだ。ギルド職員のおじさんに指摘されたことをアプリコットさんに相談してみたところ、彼女にとっても完全に意識の埒外(らちがい)だったもよう。

 ちなみに、先の言葉にあったようにペカトに着いて以降、荷馬車は広場に留め置かれて一部の魔物素材は街の人たちにお披露目されていて、その警備は街の兵士たちが受け持ってくれていた。


「ペカトの街では撃退した巨大魔物の一部を公開するのが恒例行事になっておりますから、警備もお手のものということだったのでしょう。同様の手際を先々の宿場町の者に求めるのは厳しいかと思われます」

「ええ、トニア。その通りよ。加えてこの街の民は巨大魔物の脅威を日頃から感じている。そもそも盗もうなどと考える者がいないのよ」


 魔が差してしまう可能性があるとすれば街に来てから日の浅い余所者――主に冒険者となる――だろうが、そうした手癖のよろしくない三下は歴戦の兵士にの一睨みであっという間に退散することになるのが常だった。


「これは領都に近付くにつれて警戒を上げなくてはいけなくなるかしら?」

「どうしても戦いの前線から離れていくほどに気は緩んでいくものですので。かくいう私めも今回の旅でいかに己がたるんでいたのかをいたしました」


 いや執事さん、さすがにそれは大袈裟……、とも言い切れないか。アプリコットさんの身の回りのお世話が第一だとしても、辺境の最前線にまで同行してきたのだ。恐らく多方面において助言を与える役を担っていと考えられます。

 それはさておき、領都が近くなるほど不安が増すというのはいただけないなあ。


「量が量ですので、一つくらいならばバレることはないと甘く考える者もおりましょう」

「目録があってこまめに点検している様子を見せることで牽制する、それしかないでしょうね。トニア、面倒な仕事を増やして悪いけれどお願いするわね」

「かしこまりました」

「残るは夜間の警備かしら。大まかには各宿場町に常駐している兵士たちに任せるとしても、誰かは荷馬車の側に付けておくべきよね?今からでも早馬を出せば信用できる者を派遣してもらえるかしら?」


 各家への贈答品もあるので管理はこちらでするとでも言えば、無理に近寄ってくることもないだろ。それでもなんやかんやとごねるようであれば、誰かの息がかかっているかもしれない要注意人物として目星をつけておけばいい。


「なればアプリコット様、ライジャンの件を伝えて騎士団に人を出させましょう。彼奴(きゃつ)の失態は直に知られることになるでしょうから、早々に名誉を挽回する機会を与えられれば騎士団員は奮起するはずです」


 あの人は騎士団の中でも鼻つまみ者だったらしいのだけれど、それでも所属していたことに変わりはない。これ以上汚名を重ねることは絶対にできないから、そうした面からもこれ以上ないほどに信用できそうだ。

 そんな訳でボクたちが出立するよりも先に、早馬が飛び出していくことになったのだった。


「エルネちゃんともこれで本当にお別れなのね」

「君には二度、いやそれ以上に命を救われた。人手が必要になることがあればいつでも連絡して欲しい」


 見送りに来てくれたのはカロさんとウナ姐さんだ。本当はパーティーの全員で来るつもりでいたのだけれど、物々しくなってはいけないと執事さんに言われてしまい、二人が代表してということになったのだとか。

 領主の娘が出発するのに、しかも緊急ではあっても正式な公務なのに見送りの数を制限するとかおかしいよね。その理由があちらとなります。


 昇る朝日をバックに見つめ合う一組の男女。絵になる構図だわね。もちろんアプリコットさんとエルガートさんのお二人です。

 彼女に相応しいと周囲に認めさせるために、実家のルドマーを飛び出した彼が単身で乗り込んできたのは有名なお話だそうで。わずか三年で砦の後方支援を担うペカトの街の兵士の部隊長にまで上り詰めており、あと一つ大きな武勲があればそれが決め手になるだろうと噂されていた。


 なるほど、本人が焦る訳だ。

 まあ、執事さんには認めてもらえているようだし、上手くいきそうな気はするのだけれどね。


「ああ、一緒に行くやつらなら心配いらない。どうやらギルドから色々と言い含められてたようだからな」

「やんちゃなようなら砦での武勇伝を語ってあげるつもりだったんだけどね。不正していた職員のこともあったのか、先に手を回しておいてくれたみたいよ」


 どちらかと言えばそれが原因で起きたチンピラ冒険者共とのいさかいの方を気にしての対応かもね。

 というか、一体何をどういう風に言い含めたのだろう?挨拶の時に微妙に怯えられていたようだったのは、間違いなくそのせいだよね。

 うう……、ただの勘違いだと思っていたかったのに……。


 馴れ馴れしいのは鬱陶しいけれど、避けられ気味なのも困るのだよねえ。

 短くても数日間は一緒に行動することになるのだから、早目にわだかまりは解消しておかないと依頼をこなす上での障害にもなりかねない。


「ギルドの気遣いが裏目に出てきそうで辛い……」

「話してみた感じ、変なすれ方もしていないから大丈夫だろう」

「むしろ上下関係がはっきりしているから動きやすいんじゃないかしら」


 ウナ姐さんのそれは命令を出すとか指示するとかの意味合いでだよね。ボクは遊撃で好き勝手に動く方が性に合っているから、司令官役には不向きなのですよ。

 これは領都からやって来る騎士団と合流するまでは大変な旅路になりそうかも。


 結論から言いましょう。大変だったのはボクだけではなく全員だった。

 なぜなら、最初の宿場町から魔物素材を盗もうとした不届き者が出たからだ。なお、犯人は見せしめも兼ねて厳しい罰が課せられることになったらしい。領主の娘自らが運搬に同行しているものに手を出してただですむはずがないじゃないですか。

 しかし、さすがにこれは至急対策が必要ということで、翌日からはボクが荷馬車のそばや端っこで寝ることになってしまったのだ。


 野宿にも慣れているから多少不便なだけで楽勝だと思っていたら、近付いてくる気配が多くて眠れたものではなかった。一応代わりにお昼寝をさせてもらってはいたのだけれど、やはり疲労はたまっていくもので、そんなボクの不機嫌に当てられてしまい、一行はピリピリした様子で領都への旅路を進むことになったのだった。


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