67 実はこんなな裏話
アプリコットさんの依頼はドープ連合国首都、通称『中央』への移動の護衛だった。
「ライジャンがあんなことになった以上、どこに敵の手が伸びているのか分からない。確実に絶対信用できる人がそばにいて欲しいの」
「そこまで買ってくれるのは嬉しいけど、初対面の相手をそこまで信用していいの?」
「ええ。会ったのは今日が初めてだけれど、ウナ先輩たちからの報告書であなたの為人は理解しているつもりよ」
ウナ姐さんたちからの報告書!?ということは今ここに残っているのも、単に彼女との個人的な付き合いがあるというだけではない?
驚きのあまり残像ができそうな速度で振り返れば、カロさんと二人で神妙な顔をしていた。
「エルネちゃん、ごめんなさいね。冒険者と称して怪しい者が入り込んでいないかを探るのも私たちの役割なのよ」
「冒険者を優遇している都合上、ドコープに入り込むなら冒険者に扮するのが一番手っ取り早い。そんなやつらを早期に発見するには、やはり同じ冒険者である方が都合がいいんだ」
カウティオスを始め鉄壁のゴンザレスなど、ドコープ連合国内で活動していて更に五等級で昇給をストップしている人たちの大半がこうした任務を密かに請け負っているのだとか。
どうやらボクが思っていた以上に、ドコープという国と冒険者ギルドは密接に結びついていたようだ。
「そんな事情があったんだ。……それじゃあ砦に誘ったのもボクを見極めるためだった?」
「あ、それは単純に少しでも多くの戦力が欲しかったからよ。だってエルネちゃん、私たちが一体を倒すよりも早くソードテイルレオを二体も倒しちゃうんだもの。逃す手はないぞと思ったわ」
「あの時は藁をもつかむ思いだったからなあ……。少しでも生き残る確率を上げられるならと必死になっていたというのが正直なところだ」
まあ、あの時は魔物の総数もはっきりしていなかったみたいだしね。とにかく砦が落ちてしまうよりも前に援軍を!といった雰囲気だったし。最悪の場合、ペカトの街にいた冒険者どころか戦える者が総出で出陣することになっていたかもしれない。
まあ、仮にそうなっていたならチンピラ冒険者たち以下大勢が犠牲になっていただろうけれど。
「はっきり言って死を覚悟していたからなあ……」
「ところが蓋を開けてみればエルネちゃんが一人で殲滅……。あはははは。思い出しただけでも乾いた笑いが出てくるわ」
「そうだな。ハハハハハ……」
怖いから二人とも虚ろな顔で笑いだすのは止めて。
「もしかして、模擬戦があんな大規模になったのもボクの実力を測ろうとしたのかな?」
「正解だ。魔物の殲滅は極限の状況下でしかも夜間に行われたから、証言としては疑いの余地が残ると言われる可能性があった。だがさすがに後から合流したペカトの兵士たちも含めてであれば、その結果に反論することはできなくなるだろう。あの時そちらから提案してもらえなかったら、少々強引にでも手合わせを要請する手順になっていたよ。ただまあ、今さらながらに穏当に進められて良かったと思う。あの模擬戦も結局笑うしかない展開になっていたからな……」
うおい!エルガートさんまで喋りながら徐々に目の輝きをなくしていくのは止めて!?
「冒険者を合わせれば並みの軍勢をはるかに上回る精強な一団が単騎で押し込まれたのよね?……聞けば聞くほどエルネさんには我が国、できればうちの領にずっと留まってもらいたくなるわ。とはいえ、冒険者の移動を妨げないことはギルドとの絶対の約束だし、今回の危機に居合わせてくれただけでも幸運だと思っておくしかないか……」
背もたれに身体を預けて、天井を仰ぐようにしてアプリコットさんが言う。ちょっと過大評価過ぎないかな?
それに自分で言うのもなんだけれど、ボクみたいなのがいつまでも居座っていたら他国から警戒される元になってしまうと思うよ。
「話を戻すけれど、これから私は領都へ戻り、多分その足で中央へと向かうことになると思うの。現場の状況と何者かの手が伸びていることについての報告と認識の共有、それと対策案の提起といったところかしら」
「恐れながらアプリコット様、他家の領主様方もしくはその代理の方々との会談も行われるかと。既にご当主様のサインが入った正式な文書が届けられておりますので、息を切らせて集まってくると思われます」
「それもそうね。お父様の署名だけでは半信半疑でも、ソードテイルレオの尻尾が十本も一緒に届けられれば動かざるを得ないわよね」
ふふっと楽しそうに笑うアプリコットさんを見て、エルガートさんがちょっぴりげんなりした表情になっておられます。彼女のイタズラに巻き込まれては、彼が尻拭いや謝罪に走り回る。そんな二人の幼少期の関係が垣間見えたような気がした。
「エルネさんにはその移動の護衛をお願いしたいの。もちろん正式な依頼としてペカトの冒険者ギルドを通すつもりよ」
「んー……。八等級の冒険者が貴人の護衛だなんて怪しまれるんじゃない?そもそも依頼が通らないような気もするんだけど?」
「エルネちゃん、あなた既に六等級にまで昇級しているわよ」
「はい?」
素朴な疑問に答えてくれたのはウナ姐さんだった。ただし、その内容は素朴とはかけ離れていたけれど。
「不正を行っていた職員のことを報告してきた手紙に書かれてあったわよ」
そういえば本文の末尾に迷惑をかけたお詫びとかなんとか書いてあったような……?
「確か、この手紙だったな」
とカロさんが懐から出してくれたのでありがたく借り受ける。こういう文書は様々な折に証拠として提出できるので、きっちり保管しているのだそうだ。さすがはハイランク相当の強さを誇る冒険者パーティーのリーダーを務めている大ベテランだけのことはあるね。
「ええと……、「職員の不正と別の冒険者が絡んだことへの迷惑分として七等級に、それとソードテイルレオを単独で討伐したことを認め六等級への昇級措置とする」……これかあ」
「本当はもっと上でもおかしくないくらいだけど、エルネちゃんは冒険者になってからまだ数カ月しか経っていないから、六等級までに留めたみたいね」
それでも十分に異例の対応なのだけれどね。
等級というのは、冒険者ギルドという組織による評価であると同時に能力の保証でもあるのだ。よって本来はじっくりとある程度の時間をかけて上げていくものなのです。
ともあれ、アプリコットさんからの依頼を受けるのに支障はないみたいだ。




