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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
65/108

65 確認にすり合わせ

「あ、ヒッ!?あば、あばばばば……」


 いくら騎士として訓練を積んで命のやり取りを行ってきたとはいえそこは人間種。ドラゴンという世界最強の一角を担う存在から本気で敵対視されて平然としていられるはずもなく。ましてや何らかの外因によって正気を失っている状態だ。碌に対策もできないまま受け止めることになり、早々に気絶したのだった。

 まあ、心が壊れないように防衛能力が自動で働いた結果でもあるからね。上手くいけば深刻なトラウマを抱えずにすむかもしれない。


「ふう……」


 一仕事終えて振り返ってみれば……、あれ?

 なんだかさっきよりも遠巻きに見られているような?気のせいか怯えられていませんかねえ?


「……あ、もしかして制御が甘かった?」


 誰にともなく尋ねてみれば、あちらこちらでカクカクとぎこちない動きで首が縦に振られている。どうやら敵意の収束が甘くて、後ろにも漏れ出してしまっていたらしいです。


「大丈夫だよー。怖くないよー。ハイ、深呼吸して―」


 と皆を落ち着かせるために、あたふたすることになりましたとさ。

 気絶した騎士?もちろん放置ですが何か?敵対した相手を介抱してやるほどボクは甘くもなければ優しくもありませんよ。

 ああ、息があることの確認だけはしていたから心配ご無用だよ。彼には色々と情報をはいてもらわないといけないので。



「はあ。とんでもない目にあったわ。……とはいえ、得難い体験をすることができたとも言いかえることができるけど」


 いやいや、あれを得難い経験と言えるとは肝が据わったお姫様だわ。

 ちなみに、模擬戦の一件で耐性ができていたのか、新顔の二人以外は意外と早く回復していた。


 所変わっていつかの会議室です。違うのは集まっている面子だね。

 まずはウデイアの領都からやって来た、アプリコットさんと彼女の身の回りのお世話をする執事さんの二人。なお、彼女の隣にはエルガートさんが肩が触れ合いそうな近距離で座っていた。しかも執事さん公認のもよう。

 兵士の側からは、砦の兵士長と魔物の素材管理を担当することになった隊の部隊長の二人に加え、ペカトの街から派遣された兵士たちの代表として部隊長が二人。

 残るは各冒険者パーティーのリーダーとサブリーダーたちといった具合だ。それとボク。


「アプリコット、その話は後で。今は領都からの答えを聞かせてくれ」


 おや?エルガートさんの様子が変わったね。

 ルドマーを名乗ったことで吹っ切れたのかな?一本芯が通ったというか、どっしりと地面に根を張る大樹のような頼り甲斐のようなものが感じられる気がするよ。

 そしてそんな彼を見てペカトの部隊長だけでなく砦の兵士長たちも感慨深そうにしている。他領の統治者一族の出身なのに、ここまで打ち解けているとか凄いな。


「あら、ごめんなさい。まずは領都の見解からね。使いの者に数十のソードテイルレオの尻尾を持たせたのは英断だったわね。あれで魔物の襲撃と撃滅が真実だと理解させられたわ。ただ……、たった一人の冒険者が全滅させたということだけは最後まで誰も信じてはいなかったけれど」


 アプリコットさんの言葉に、居並ぶ一同が「ですよねー」という顔になる。うん。それは仕方がない。


「ともかく、巨大魔物以外の草原地帯の魔物による集団強襲があったことは事実であると認定し、ドコープ中央経由で他の三領に注意を促す書状を送ったわ。ソードテイルレオの尻尾を添えてね。それぞれ十本程度になるけれど、物証としては十分でしょう」


 タダで配ることになった訳だが、この砦にはソードテイルレオの尻尾だけでもその倍は保管されているからねえ。それくらいで信じてもらえるのであれば安いものだと判断したのだろう。

 むしろドコープ連合国という国で見れば、信用されないまま第二第三の魔物集団による襲撃が発生してしまう方が大問題だ。少なくともウデイアの御当主並びに上層部は、しっかりと大局を見据えることができるみたいだね。 


「ところで、今回の襲撃は何者かによって魔物の誘導がなされた可能性があると書かれていたけれど、その証拠は見つかったのかしら?」

「草原地帯との境付近にまで調査に赴いた者たちがそれらしき痕跡を複数個所で発見したと報告を受けています。どうやら、人の血がまき散らされていたようです」

「人の血肉の味を知った魔物は、人ばかりを襲うようになるという言い伝えもあるわ。人の血をまくことで砦へと魔物を誘導したと考えられなくはないわね」


 兵士長の言葉に続けて発言したのはウナ姐さんだった。なんでも彼女とアプリコットさんは同門で、その縁もあって一時期魔法の修練の相手役を務めたこともあるのだとか。ただ、その時に受けた陰口や嫌がらせが鬱陶しくて、貴族からは距離を置くことにしたのだそうだ。

 その一方で、アプリコットさんには思うところがなかったどころか懐かれて悪い気がしていなかったらしく、密かに文を送り合う仲だったらしい。


「一応聞いておくけれど、無謀な冒険者が入り込んで食い殺されただけという線はないのね?……それなら確度の高い情報として後日報告書で上げてちょうだい。……とはいえ、対策らしい対策となると調査の回数を増やすことくらいかしら。ウナ先輩、砦よりも南で調査を行えるだけの実力者となるとどれくらいが妥当でしょうか?」

「砦に派遣できるだけの力があることが最低条件かしら。冒険者であれば五等級ね。だけど調査範囲を細かく区分することができれば、六等級程度でも一部参加させることができるかもしれないわ」


 草原地帯との境界付近を五等級以上の者が担当することで、それよりも北側には六等級並みのを配置するということね。それなら人手不足を補えるし、実践的な経験も積むことができる。


「兵士長はどう思う?」

「経験が足りない者を投入することに不安がないと言えば嘘になります。ですが根本的に人手が足りないのもまた事実。相応の訓練と心構えを叩き込むことで対応するしかないでしょう」

「ペカトから人を回すことはできないかしら?」

「はっ!今のように一時的に補佐をすることならできても、戦うなれば人間相手と魔物相手では勝手が異なりますので、砦の所属となると訓練をし直す必要があります。更に業務の引継ぎもありますので、再編には短くとも三カ月はかかるかと」


 人材の育成には時間がかかるものだからねえ。大量の魔物素材という資金源があることだけが救いかしら。

 と、そんな調子で会議は進んでいくのでした。


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>発言したのはウナ姐さんだった。なんでも彼女とアプリコットさんは同門で >受けた陰口や嫌がらせが鬱陶しくて、貴族からは距離を置くことにしたのだそうだ。 >その一方で、アプリコットさんには思うところがな…
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