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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
64/108

64 無力化させます

前半エルネ視点 → 後半第三者語りのアプリコット視点となります。

 剣を抜いて殺る気マックスの相手を殺さずに無力化させる。そんな面倒で厄介なオーダーを受けてしまったのは、美少女ドラゴニュートなボクことエルネちゃんです。


 もっとも、面倒で厄介なだけでやりようはいくつかあったりするのよね。

 例えば、さっきと同じようにスタミナが切れるまで逃げ続けるという方法。こちらから攻撃をしないので殺してしまう危険は限りなく低い。

 問題は精神操作によって何らかのスイッチが入っている可能性が高く、本人の意思や体力の限界を無視して強制的に活動が続くかもしれないことだ。他にも業を煮やして他の誰かをターゲットに切り替える可能性もある。


 威圧とかをぶつけて精神的に負担をかけるのも手だが、こちらは先にも述べたように後遺症が残りやすいという欠点がネックになるからなあ。

 とはいえ、事ここに至っては被害を完全にゼロにして四方八方丸く収めるというのは無理筋だろう。そもそもボクがいなければ数人がかりでガンガンやり合って、力づくで取り押さえることになっていたはずだしね。


「俺を舐めたやつはコロス……。俺をバカにしたヤツはコロスウ!!」

「うわあ。正気の欠片も見えないほど振り切れちゃってるよ。恨むなら誰かの口車に乗せられちゃった、過去の自分を恨んでもらうということで」


 あとはまあ、ちょっとしたトラウマになるくらいですむように祈っておいてあげるよ。


「ウルルラアアアアアアアアアアア!!」


 動き出すと同時に剣を腰だめに構えてそのまま鋭い突きを見舞おうとしてくる。容赦も慈悲もない殺意バリバリな一撃だわね!?

 一連の流れのスムーズさから、最も得意な攻撃なのだろう。意識の方が怪しくなっているから、自然と身体が最も覚えている技が飛び出したのかも。ゴンザレスのメンバーなら動き始めてからでも受け止めることができただろうが、あらかじめ予想していなければ並みの冒険者では碌な対応もできずに破れていたのではないかな。


「ボクには通用しないけどね」


 半身になってかわし、その上で尻尾を腰に巻き付けるように回すと先っぽですれ違う際に背中を小突いて押し出してやる。ただでさえ全速で踏み込んでいたところに、無理矢理加速が加わるのだ。つんのめるようにたたらを踏み、数メートル先でようやく停止した。


「おや?耐えたねえ。てっきり無様に転ぶと思ったのだけど」


 アプリコットさんの護衛に抜擢されるだけのことはある、といったところかしら。それだけの能力があるなら普通に上を目指すことができたでしょうに。

 ……ああ、その普通にやることが耐えられなかったのか。基礎の積み重ねというのは地味で実感も湧き辛いから。努力って誰にでもできることだけれど、だからこそ継続することが難しいのだ。


「まあ、楽な方に逃げたくなる気持ちは分からないでもないけどね」


 だからといって手心を加えてやるつもりはないけど。できるかどうかはともかくボクに危害を加えようと、殺そうと武器を向けたのだからその代償は支払ってもらう。

 先程の交差で彼我の位置は入れ替わっていて、あいつの背後や周囲には誰もない。


 誰かを巻き込む心配がないのをいいことに、ボクは彼に全力で本気の敵意をぶつけたのだった。




 〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆   




 その瞬間、アプリコットは恐怖で背筋が凍り付くという感覚を本当の意味で理解した。そして、それを引き起こしているのが自分よりも年若い少女だということに愕然としていた。


 彼女は現ウデイア家当主の娘であり正しく姫と呼ばれる立場なのではあるが、同時に優秀な魔法使いとしての一面も持っていた。ちなみに、不意打ち気味でかつ乱暴に扱えないという点もあったとはいえ、エルガートを悶絶させるだけの一撃を叩き込める身体能力も持ち合わせている。


 そうした身の上もあってアプリコットは少なくない数の実戦を経験してのだが、それがいかに周囲の者たちによって安全に配慮されたものだったのか、それを痛感することになっていた。

 より正確に言えば分かってはいたのだ。自身の立場上、危険に晒したとあっては関係者は文字通り――なおかつ物理的に――首が飛んでしまいかねない。接待とまではいかずとも多少のお膳立てはされていても仕方のないことだった。


 一方で、物足りないと感じていたこともまた事実だった。自身の力を最大限まで発揮してみたい欲求は常に身の内にあったし、この力を十全に活用できれば負けることはないと考えてもいた。

 エルガートへの当たりが強くなってしまうのもこのためだ。彼が自分との関係を認めさせるために苦労しているとは理解していても、己にはない自由さを与えられていることをついつい羨ましく思ってしまうのだった。


 しかし、それがいかに甘ったれた思いだったのかを痛感させられた。

 エルネと呼ばれていた少女から突如発せられた明確な敵意。それを向けられていたのは護衛としてつけられていたライジャンだ。その豹変ぶりにも驚いたが、掴みかかる彼を楽々とあしらい続ける少女にはもっと驚かされた。そしてついには本気の一撃すらも躱して見せたのだ。


 日頃から言動を問題視されることはあったが、その実力で文句を封殺してきたのがライジャンという男だった。

 緊急を要することもあって今回の砦への派遣は最少の数で行われることになったという事情があったとはいえ、代表者であり貴人でもあるアプリコットを一人で守りきることができると判断されたのだ。弱い者では務まるはずがない。


 そんなライジャンが成す術もなくあしらわれ、ついには敵意をぶつけられただけで泡を吹いて気絶してしまった。もっとも、余波とすら言えないわずかばかりに拡散したそれを感じただけで身体に震えが走るのだ。

 真正面からぶつけられてしまっては刹那の時を耐えることも難しいだろう。


 後にエルネこそが砦に押し寄せた三百にも上る草原地帯の凶悪な魔物をたった一人で壊滅させた張本人だと聞かされたアプリコットは、さもありなんと達観した表情を浮かべていたという。


 余談となるが、エルネが制御できずに漏れ出したわずかな敵意によってほとんど全ての者が自身の身を守ることに精一杯となっていた中で、エルガートだけがただ一人アプリコットを守ろうと動いていた。

 それに感銘を受けた執事のトニアが彼の後援をかって出ることとなり、以降二人の仲は急速に認められていくことになるのであるが、それはまた別のお話。


〇騎士ライジャン


 ウデイア家の傍流の生まれで金髪。これで目が青ければと落胆されながらも親族からの期待を押し付けられたことで徐々に歪んでいき……、といった裏設定を考えていたのだけれど本編で陽の目を見る日は訪れるのか!?

 ……仮に訪れたとしても余計に不幸な羽目に陥りそうなある意味不幸な人かもしれない。

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