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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
61/108

61 そろそろ平常運転

 宴か、もとい反省会が終わってからの数日間は不測の事態も発生しなければ、不穏な出来事が起きることもなく平和に過ぎていった。


 ちなみに、相次いだ異常にストレスがたまり疲弊していたのだろう、開始からわずか一時間ほどで会場となった大食堂は死屍累々といった有様となってしまいましたとさ。

 ボク?生後ゼロ歳の身体が飲酒に耐えられるとは思えないので、丁重にお断りしていたよ。酔っぱらって住家とかを破壊するのはドラゴンあるあるらしくて、集落にいた頃にはそんな失敗談をいくつも聞いていたのよね。


 話を現在に戻しまして。平和だからといって解散!とはいかないのが面倒なところで。まあ、大半を各領地の裁量に任せているとはいえ、砦の維持はドコープ連合国の安全政策の根本の一つだからねえ。

 今回の件は異常に非常と無常が掛け合わされたようなものだから、最低でもウデイアの領都からの指示がない限り現状の戦力を維持する必要があるみたいです。


 しかしその一方で、一旦状況が落ち着いてしまえば元の人員で回せるようになってしまうものでして。

 そんな訳でボクは暇なのをいいことに、冒険者たちと一緒に自主トレをしたり兵士たちの訓練に混ぜてもらったり、厨房で手伝いをしながらその技術を盗もうとしてみたり、最近流行りだったり人気だったりする冒険譚の調査をしてみたりと、割と忙しく過ごすことになっていた。


 やっていることの後半部分がおかしい?

 なにをおっしゃいますやら。美味しいご飯は日々の生活を豊かにするのです。前世に比べると調味料の類が少ないのか、どうしても味がぼやけてしまうことが多いのよね。ああ、ソイソースが懐かしい……。

 そんな状況だから少しでもご飯を美味しくできる技術は貴重なのだよ。スキアラバ、ヌスミトラネバ……。


 そして冒険譚の調査の方は、集落を出る際にパパンやママンたちから直々にお願いされていたものだったりする。「もう自分たちで書いちゃえば?」と思った人は正直に手を挙げて。はーい、ボクもそうです。

 なお、こちらは既に何人も挑戦済みだそうで、ことごとく失敗して黒歴史を量産しただけという「不幸な結末を迎えたのだとか。自分たちが強すぎてピンチになるという感覚が分からず、手に汗握る展開からは程遠くなってしまうそうです。

 そんな事情もあって、新しい冒険譚の発掘は旅をする中で必須の活動に位置付けられているのです。


 さて、本日は砦を出て周辺の調査と監視を行っているグループに同行しているよ。ただし今日もメンバーはいつもとはちょっと違っていて、砦とペカトの兵士たちの混合となっていた。

 砦周辺の荒野を歩く場合と、村々を巡る時では注意するものや意識する項目が変わってくようで、お互いにそれらを教え合いながら調査を行っていくのだとか。要は所属の異なる兵同士の交流を踏まえた活動だわね。


「今更だけど、そんな国防にもかかわりかねないことをボクのような冒険者が聞いてよかったものなのでせうか?」

「一通りお互いの話が終わった後でそれを聞くとか、本当に今更なんだが!?」


 いやあ、エルガートさんも思わずツッコミを入れてくるという話だよねえ。

 ただ、ちょうど彼らが出発しようとしているところに鉢合わせたので「一緒に行ってもいい?」と尋ねたら、「ええで」と即答で許可を貰えたのも事実だったりするのだけれど。


 で、調査の結果分かったのは、既に砦の周囲には平常時に出没していた魔物たちが戻ってきているということだった。


「これでいてやつらは危険には敏感だからな。そんな連中をこれだけ見かけるということは、草原地帯から出てきた魔物は全て討伐できていると考えても問題ないだろう」


 物陰に隠れたボクたちの視線の先にいたのは角笛水牛(ホーンバッファロー)の群れだ。ざっと見ただけでも十数頭はいるね。ドコープ連合国や西のディナル農耕国の広い範囲に生息しているそうだ。

 名前通りの牛型の魔物で、頭部からは笛のようになった角がニョキっと二本生えております。

 え?角を加工して作る笛なのだから当たり前?違う違う。なんというか根元の方が細くて先にいくほど広がっているのだ。これを鳴らして敵を威嚇したり、仲間に危険を知らせたりするのだとか。


「とっても大事なことなので確認させて。ホーンバッファローは食べられますか?」

「食える。そして美味い」


 その言葉に思わずみんなで頷き合って親指をグッ(サムズアップ)してしまう。


「ホーンバッファローを一人で危なげなく倒せるようになるのが、砦に駐留する部隊ないし応援に向かう部隊に所属できる最低条件なんだ」


 自分の食い扶持は自分で確保できること、ということなのだとか。並みの肉食魔物よりもよほど強い、ということも理由の一つのようだけれど。特に突進攻撃は対処を誤れば致命傷になってしまうほど危険なものだという。


「デカいデカいと思っていたんだが、ソードテイルレオやファングサーベルを飽きるほど見た後だと、それほどでもなく見えてしまうな……」

「それはさすがに比較対象が悪過ぎると思うよ」


 牛型魔物なのでホーンバッファローもそれなりには大きい――普通にボクの身長以上の体高があるよ――のだが、草原地帯の魔物に比べるとどうしても一回りか二回りは小さく見えてしまうのだ。


「あの時エルネ嬢が来ていなけりゃ今頃砦は全滅、ペカトを始め南部の村や町も軒並み壊滅していたかもしれないな……」

「まあ、あの戦いっぷりは目を疑うというか、幻覚でも見ている気分だったが」

「分かる。緊張と恐怖でついに自分の頭がどうかしてしまったのかと思ったくらいだぜ」


 砦の兵士の皆さんや、背筋がむずがゆくなるからしみじみと語るのは止めてくれないかな?

 あと、褒めているようで微妙に貶してきてない?


「ところで、あの群れはどうするの?」


 どうにも気恥ずかしくなり、強引に話題を変える。決してホーンバッファローのお肉の味が気になって仕方がないとかそういうことではありませんからね。


「残念だが定着にはもう数日かかりそうだ。下手に狩って散らばられても困るから、今日のところは放置だな」


 危険の予兆を知らせてくれる存在でもあるから、やみくもに狩るような真似はしてはいけないということか。食料の備蓄がまだある以上、見逃すのが妥当という判断になったみたいだ。


 ちょっと残念。

 ……ちょとだけだよ!


〇宴会で死屍累々

 エルネが飲まないことを知って、「彼女がいる今なら最悪なんとかなる!」という兵士長の判断の元、あえて潰れるまで飲まさせてガス抜きをさせた、というのが真相。

 なお、当日に夜間監視業務が当たっていた数名には後日特別な休養日が与えられたとか。

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