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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
60/108

60 反省会と書いて宴会と読む

 残念ながらというか当たり前というか、模擬戦は中止となった。

 参加者全員がボクの大声で頭くらくらになって戦いどころではなくなっていたのだから仕方がないよねえ。至近距離にいたゴンザレスの四人なんて気絶してしまったくらいだ。後遺症が残らなくて良かったです。


 まあ、ペカトの兵士たちにボクの強さを実感してもらうという最初の目的は果たせたようなので、とりあえずは良しとしましょうかね。

 なお陣地の奥、第二の間や第三の間には落とし穴――底に棘付き――を始めとした色々な仕掛けが施されていたり、即死級の魔法を全力で撃ち込むといった緻密?な作戦が練られたりしていたらしい。

 ……模擬戦ってなんだろう?


「途中でお流れにはなったが、得られたものは多かった。協力に感謝する」


 大食堂に集まった全員の前で、兵士長から感謝の言葉を頂く。模擬戦中に起こったことは、これにて全部水に流すという表明だね。


「そう言ってもらえるなら、気も紛れるよ」


 対するボクは肩をすくめながら答える。結果としてやらかしてしまったことは事実だからね。同じ過ちを繰り返さないためにも、そこはしっかりと受け止めておかないと。


 そうして始まった反省会だけど、しょせんは名目でありすぐに飲めや騒げの大宴会へと変貌してしまった。草原地帯に生息する凶悪な魔物の群れに取り囲まれたことに始まり、解体と素材取り、更には今日の模擬戦とイベントが目白押しだったものねえ。息抜きとガス抜きは必要だろう。

 さて、でき上ってしまう前に何人かに声をかけておくとしましょうか。


「や。この席いいかな?」

「おわっ?……あ、ああ。どうぞ」


 最初に向かったのはペカトの街の兵士たちが集まる一角だった。隅っこの方で他に比べて明らかに盛り上がっていなかったから、少し気になってしまったのだ。

 最初の魔物との戦いに参加できなかったことや、模擬戦のきっかけを作ってしまったことを気に病んでいるといったところかしらね。

 ちなみに、砦の兵士や冒険者たちからすれば、解体デスマーチを一緒に乗り越えた戦友なのだけれどね。お金になるのが分かっているから無碍にも扱えず、あれが一番大変だったとこぼす人たちも多かったもの。


「まずはお疲れ様。最後はあんなことになっちゃったけど、身体の方は平気かな?」


 顔と名前が一致するエルガートさんを窓口にして調子を尋ねる。


「見ての通り全員なんともないな。わざわざ気遣ってくれてありがとう」

「それなら良かった。砦に来てからもだけど、その前も周囲の村々を巡視していたんでしょ。ずっと働き詰めだったみたいだから、ちょっと心配になっていたんだよね」

「いや、それを言うなら砦の皆や冒険者たちの方が――」

「ストップ。確かにこっちはこっちで大変だったけど、比較して優劣をつけるようなものではないよ」


 その時、比較的年嵩の数人が「よく言ってくれた!」的な表情になったのを見逃すボクではありませんよ。


「砦っていう最前線で魔物の脅威から国を守ることは大事だよ。でもさ、同じくらい街や村の治安を守っていくことも大事なことなんじゃないの?」


 要は戦いにおけるパーティー内の役割分担、それと同じだ。

 まあ、中にはゴンザレスのような特化型のパーティーもあるけれど、彼らの場合は盾役が最も得意なオールラウンダーの集まりと表現する方が妥当な気もするのよね。

 それはともかく、街の守備塀だからとおかしな劣等感を持つ必要はないはずだ。


「それは……、理解している、つもりだ」


 俯きながらなんとか絞り出すように言葉を口にするエルガートさん。仲間たちはそんな彼を心配そうに見ていた。

 うーむ……。どうやら彼にはそれでもなおこだわってしまう個人的な事情や理由があるみたいだわね。まあ、様子見かな。あちらから請われているならいざ知らず、そうでもないのに無神経にずかずかと踏み入るものでもないだろう。


「あまり思い悩まずに、周りに頼ってみたらどうかな」


 などと当たり障りのない言葉を投げて、席を立つことにしたのでした。


「おおっと!最強少女のお出ましだなあ」

「やあやあ、ってうわ、酒くさっ!?どんだけ飲んでるのさ?」


 続いて向かったのは人だかりの中心、なのだけれど最初に声をかけてきた人がこの通りな状態でして。次から次へと入れ替わり多くの人がやって来ているし、大丈夫?潰されてない?


「よい、しょっと。ふへえ。ようやく着いたあ……」


 なんとかかき分けて辿り着いた卓には、ゴンザレスの四人が座っていた。


「ありゃ?エルネのお嬢ちゃんじゃないかい。こっちから挨拶に行こうと思ってたのに先を越されちまったねえ」

「どうも。浴場で何度か一緒になってたよね?ザリーンさん、で合ってるかな?」

「合ってるよ。そういえば顔を突き合わせてちゃんと名乗ったことはなかったね」


 にししと笑い合うボクたち。男女間の人数差もあって、女性は基本的に同じ時間帯にお風呂に入っていたからね。名前は知らなくてもだいたい全員の顔は知っているという間柄だった。


「いきなりだけど調子の方はどう?どこか身体におかしなところはない?」

「この通り全員元気なもんさ。医者からも問題ないってお墨付きをもらったよ」

「そっか。気絶しちゃってたから、どうなったのか気になってたんだ」

「後遺症の類も全くないから安心おしよ。それよりも、こっちの迂闊な行動のせいで迷惑をかけたねえ」

「いやいや、殺しはダメだけど使える手段は何でも使っていいという内容だったんだから問題ないでしょ。あの場に引き留めておくという意味では最善手だったと思う」


 そういう意味では、即死級の魔法をお見舞いしようと画策していたらしいどこぞの冒険者パーティーの魔法使いの方がよっぽどアウトだろう。


 ちなみに、あの時ゴンザレスのリーダーが使用した【トァーント】という闘技は、対象の注意を自らに引き寄せるというものだった。更に怒りの感情を強制的に強めることで、本来は闘技や魔法などを使用させないといった効果もあるとのこと。


 ボクの場合はこの身体にまだ意識が馴染み切っていなかったために碌な抵抗もできずにかかってしまった一方で、ドラゴンという種族が備え持つ高い抵抗力のせいで不完全な効果を及ぼしたのだと考えられます。

 ……まあ、一番の理由は「ドラゴニュートで前世の記憶まであるボクが負けるはずない」という油断や慢心だろうね。いやはや、言い訳もできないです。


「まあ、魔物とは違って人相手だと思った通りにはならないと分かったのが収穫だということで。ボクも精神系の攻撃の危なさを痛感することができたし、それで手打ちにしてもらえると嬉しいかな」

「それをお願いするのは私らの方だと思うんだけどねえ。だってさ、ゴンド」

「……ああ。申し出をありがたく受けさせてもらおう」


 こういうのは時間が経てば経つほどこじれやすくなっていくものだからね。これで一安心。


〇即死級の魔法を全力で撃ち込むといった緻密?な作戦


 実際問題これくらいやらないとエルネを止めることはできないので、方針としては大正解です。

 まあ、仮にやってしまっていた場合、服がボロボロになって――怪我?薬があるので大丈夫。そもそも重症には至りません――あられもないサービスショットを披露することになり、後々男性陣及び発案者のウナがとんでもない報復を受けることになったでしょう。

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