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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
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59 模擬戦 その三

 くるりとトンボをきるように飛び上がった瞬間、ゴンザレスの四人が駆け出すのが見えた。微妙に立ち位置が変わっていたからもしやとは思っていたけれど、まさか本当にあちらから動いてくるとは驚きだ。

 てっきり受け身なばかりの人たちだと思い込んでいたのだよね。盾役だけに。


 ……えー、数多の方向から放たれる矢から逃れるためには、周囲の人間の位置を把握しておく必要があった。しかしその一方で、迫りくる矢をしっかりと見切る必要がある。

 そこでボクが編み出したのが、周囲の景色を絵のように止まったものとして考えるということだった。それを適宜更新してやることで、居場所に変化がないかを探ることにしたのだ。要は間違い探しだね。

 こうすることで飛んでくる矢へと意識を集中させて視ることができるようになり、対処能力は大幅に向上することになったのでした。


 まあ、今のように固定砲台化した射手ばかりだからできるやり方ではあるのだけれど。もしも動き回りながらどんどんと矢を打つ位置を変えるタイプの人が十人もいれば、この方法は破綻していただろうと思う。


 時間を今に戻しまして。ゴンザレスは二人ずつ左右に分かれて近付いて来ている。さすがはハイランク相当の実力者だけあって動きにそつがないや。

 彼らに力量差があるのかどうかを知らないボクとしては、どちらかの迎撃に力を抜くようなことはできない。これ、地味に行動に制限がかかるのよ。ボクの場合は連撃にはリズムが重要で、そのためどうしても強弱ができやすくなってしまうためだ。特に今のように全方位から狙われている時には致命的な隙になってしまう。


「それなら!」


 二組の間に飛び込むように前に出る。こうすることで彼らを矢狭間からの射線上に置き、一時的にでも飛んでくる矢の数を減らそうという作戦です。ついでに「邪魔をされた」と思ってくれればなお良しなのだけれど、あまり高望みはすべきではないかもね。後々の禍根になっても困るし。

 元々残数が少なくなっていたこともあって、射かけられる矢の数は大きく減少することになった。


「ちいっ!どんだけ老獪な判断力だい!?」

「誉め言葉として受け取っておくよ。とりゃっ!」


 多分場慣れしているとかいった意味合いだったのだろう、苦情じみた文句に対して軽口で返しながら左手から向かってくる二人にハルバードを振るう。要は接近を阻止できればいい訳で、あちらに脅威を感じさせて受け止めさせれればミッションコンプリートだ。


「【ブロック】!ぐうっ!?」

「ザリーン!?くそっ、【シールドバッシュ】!」


 と、ここで想定外の事態が。つい斧刃を向けて振ってしまったので装備を壊さないように無意識に加減をしてしまったのか、一人の闘技によって食い止められてしまったのだ。手が空いたままのもう一人はすぐに頭を切り替えたのか攻撃に転じ、目の前に壁のような大盾が突進してくる。

 やれやれ。とっさの判断力に優れているのはそちらもでしょうに。


「でも、残念」


 左足を軸に身体を回転させて、地面スレスレの尻尾(テイル)あたーっく!


鱗持ち(スケイルグループ)!?しまっ――」


 最後まで言い切れずに足を刈られた彼はドンガラガッシャンと転倒する。おっと、狙ったものではなかったけれど、幸運にも土埃で一時的に視界が悪くなったよ。ちゃーんす!


 そのまま体を反転させて、残る二人に向き合う。続けざまに仲間がやられる様子を見ためか、それともこの砂煙のなかに有効打になる矢を撃ち込むことができないと判断したのか、無理に接近する素振りはなくなっていた。

 いやはや、本当に臨機応変に立ち回れる人たちだね。

 

「視界が晴れるまで長々と付き合うつもりはないよ。それとも、大声を出して一か八か矢を撃ち込ませてみる?」

「こっちが取れる手まで把握ずみかよ……。一体どれほどの戦場を渡り歩けばそれほどの勝負勘を身に着けることができるのやら。だが、俺たちの最後まで付き合ってもらうぞ!【挑発(トァーント)】!!」


 刹那、ぎゅいんと目の前が真っ赤に染まり、怒りや焦りで身体の奥底から熱が湧き出してくる。辛うじて思考はできるけれど薄もやがかかったようだし、身体の方は今にも勝手に動き出してしまいそう。

 一方で、なにか――精神攻撃的なものの一種だとは思われます――を仕掛けてきたあちらも尋常ではない気配にのまれたのか、それ以上動けなくなっている。


 やっばい!?

 このままだととんでもないことをやらかしちゃう!?とにかく胸の内で渦巻いているものを全部吐き出してしまわないと!!


「すうぅぅ……、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 大きく息を吸い込み、大・絶・叫!!

 舞っていた土埃など一瞬で消し飛ばされてしまい、音の圧で塀の上の何人かが転びそうになっていた。

 ドラゴニュートのフルパワーで声を出したので、近くにいたゴンザレスメンバーの鼓膜が大変なことになっているかもしれないが、ドラゴン大暴走になるよりは余程マシなはずなので我慢して欲しい。


「あ、あ、あ、あ、あ…………。はふう……」


 あ、あぶなかった。もう少しで無差別にブレスを撃ちまくるところだったよ……。

 精神攻撃こっわ!?主にボクが破壊神になりかけるという意味で!


 ……まあ、今の時点で既に大惨事となってしまっている訳ですが。

 人が上に乗ったりするからしっかり頑丈に作っていたのだろう、陣地自体は無事だったのだが、人の方はそうもいかない。

 塀の上に矢狭間の向こうの弓使い(アーチャー)たちは戦意を喪失しており、ぐったりと座り込む人も多々いるといった有様だし、すぐそばにいたゴンザレスなんて完全に失神してしまっていた。


 奥の一際高い櫓から観戦していた兵士長たちにも衝撃が届いたのか、頭をくらくらさせている。他の兵士や冒険者たちも無事とは言い切れない可能性が高そう。

 これはいったん模擬戦自体を中止にするしかないかな?とか思っていたら……。


 ペキ。


 なんと勝敗の決め手となる旗を掲げていた柱が折れてしまったではありませんか!?……しかもなんかこっちに向かって倒れてきてる?


 ベキベキバターン!


 気が付けば柱の破片と一緒に、旗がボクの足元に落ちていた。

 え?これ拾っていいの?ボクの勝ちになっちゃうの!?


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