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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
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57 模擬戦 その一

 ゴワアアアン!

 ついに模擬戦開始の合図を告げる鐘が鳴り響く。


 まずは敵の陣地にまで移動……、ってそうきたか!?

 屋根の上にずらりと矢をつがえた弓兵が並び、一斉に構えていたのだ。


「全員一斉発射!ってー!!」


 号令に合わせて躊躇(ちゅうちょ)なく発射してくる。先端には鏃ではなく丸めた布が取り付けられているとはいえ容赦ないな!?

 でも、距離を活かして先手を打つのは定石ではあるよね。あえて一斉射による面攻撃をすることで逃げ場をなくしているのもポイントが高い。あえて言うなら分厚く頑丈な毛皮を持つ草原地帯の魔物相手では効果が薄かったことか。本格的に運用を検討するならば、もっと威力が高くかつ遠くまで射ることができるものを導入するべきだと思う。


「だから当然ボクには通用しないのさ!ってえええい!!」


 ブオン!と風切り音を残して煌龍爪牙を振るう。それだけで飛来してきた矢は全て失速して地面へと落下していった。


「あと、これはお返し!」


 更にその勢いのまま身体をくるりと回し、再度大きく横なぎに振るい衝撃波を発生させる。もっとも、距離がある上に【裂空衝】のようにしっかりと練られたものではないから風圧を感じる程度にしかならないだろうけれどね。

 それでもいきなりの反撃、それも予想だにしない形でのものに動揺を誘うことはできたようだ。「わわっ!?」とか「ひゃあ!?」といった悲鳴が聞こえてくる。


 さて、ここが攻め込むまたとない好機!……なのだけれど、あえて進む足を止める。


「そろそろボクと自分たちの強さの差を思い知ることができた?ここからは本気で行くから、油断していると何もできずに終わっちゃうよ」

「総員気を引き締めろ!相手はキャスライノスを超える怪力とライトステップ以上に素早い身のこなしを併せ持つ正真正銘の絶対強者だ!」


 言い終える瞬間を見計らったように兵士長が怒鳴り声をあげる。


「だが、我々に引くことは許されない!この砦が落ちれば街や村が襲われるのだ!故郷を、そして我らが返る場所を守るためにも何としても、なんとしてもここで食い止めるのだ!!」


 ……空気が変わるというのはこういうことを言うのだね。その鼓舞によって浮足立っていた雰囲気が完全に消え失せてしまった。代わりに感じられるようになったのは、命を懸けてでも守り通すという覚悟。

 開始前の雑談でのことをカロさんが上手く伝えてくれたのだろう、それまでのどこか侮るような様子は完全に消えていて、全員戦士の顔へと切り替わっている。


 バッチリ狙い通りになったという訳、なのですが……。

 模擬戦だよね?と今更ツッコムのは野暮なのだろうなあ……。


 まあ、怪我にだけは気をつけるとしますか。ニヤリと悪役っぽく笑って駆けだし、第二射がくる前に陣地への接近を完了させる。とはいえ、魔法で作られた外壁はボクの背丈の軽く三倍以上はありそうだ。

 そしてこれ見よがしに垂れ幕で目隠しされた入口が一つ。うん。突撃するしかないよね。


「ていっ」


 とはいえ、さすがに目隠しは外させてもらいますよ。スパッと垂れ幕を切り落とせば、槍を構えていた数名の兵士が丸見えになる。


「やはりばれたか」

「魔物ならそのまま突っ込んだかもしれないけどね」


 一歩飛び退って突き出される槍先をかわす。合図もなしに全員がきれいに狙いとタイミングを合わせてくるのだから、常日頃から相当の訓練を積んでいるのだろう。


「このまま押し返すぞ!」

「おおっ!」


 勢いに乗った彼らは前進しながらも二撃目のために槍を引く。……今!


「よいしょ」

「んなあっ!?」


 統率が取れているのは素晴らしいけれど、逆を言えば見切る機会が一度ですむということであり、せっかくの数の多さを活かせていないとも言える。

 それと、同じように後ろに逃げるだろうと考えたのも減点だ。ハルバードの石突と尻尾で支えながら膝頭をお胸様にくっつけるように曲げることで、その場から移動することなく突き出された槍の上を取る。そしてそこから槍先を踏みつけてやれば、簡易ながらも武装解除の完了となる。


「くっ。我らの負けだ」

「練度の高さはうかがえたけど、実戦慣れしていない感があったかな」


 相手に合わせてもう少し狙いを分散するとか、突き入れるタイミングをずらすといった工夫も必要だろう。他にも塀の上の見張りの人と連携して、ボクが垂れ幕の前に立った時点で奇襲するとかもできたはずだ。

 まあ、あとは反省会でだね。軽く一言交わして、いよいよ陣地の中へ。


 そこはちょっとした広間であり、奥へと続く通路の前には全身鎧の重装備な上に大盾を構えた冒険者たちが立ちはだかっていた。

 彼らは確か、盾役ばかりの四人が組んだ『鉄壁のゴンザレス』という名の五等級パーティーだったはず。ただし彼らも昇給を固辞しているので、実質的な強さはハイランク相当だと言われていた。


 と、正面だけでもなかなかに厄介そうだというのに、側面の壁にはいくつもの矢狭間があり、その壁の上にも弓兵が並んでいる。

 ゴンザレスのメンバーが食い止めている間に、無数の矢で射抜くという作戦かな。なるほど、分かりやすくてシンプル、更に実用性も高いときている。


「当てられればの話だけど!」

「うわっ!?」

「速い!?」


 服の下で翼を羽ばたかせることで一段速度を上げて、一気にゴンザレスメンバーに接近する。ふっふっふ。これぞひっさつ『こっそりブースト』なり。なにが必殺なのかは聞いてはいけない、いいね?

 さあさあ、このスピードに乗った一撃に耐えられるかな?


「でえい!」


 ぐんっと左足が地面を蹴るのに合わせて、右脚を真っ直ぐ前へと伸ばす。格好も何もあったものではない単なる前蹴りだが、その勢いは本物だよ。


「【ブロック】!!」


 がいん!

 ……うっそでしょ!?蹴り飛ばした流れでそのまま奥へと雪崩れ込むつもりだったから、全体重をかけていたのに数十センチ後退させただけで止められちゃったんですけど!?

 見れば、ボクをの蹴りと受けた人を左右斜め後方と真後ろから三人がかりで押し止めることで受けきったらしい。


 無茶するなあ……。

 三人で一人を支えると言えば聞こえはいいが、中心の人は衝撃を逃がすことができなくなるから大怪我をする恐れが高くなるのだ。

 動きが止まったことで次々と狙い撃ちしてくる矢を避けながら、もっと体に負担のないやりようがないものかと、頭を巡らせてしまうのでした。


〇『鉄壁のゴンザレス』

 その昔、たった一人で百の魔物の進行を食い止めたという英雄ゴンザレスにあやかって名付けた。

 と言っているが、本当はゴンド、ザリーン、レッヅ、スボウの名前からとっている。

 全員盾役なのにハイクラス相当の実力者揃いという稀有なパーティー。その真価は多数による集団戦で発揮される。かたくてつおい。

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