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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
56/108

56 なんということでしょう!?

 暇つぶしついでにボクの強さを実体験させるためペカトの兵士たちとの模擬戦を提案したら、なぜだか砦の全員――非戦闘員を除く――と戦うことになりました。

 まあ、元凶は分かっているんですけどね。……はい!そこのウナ姐さん!リーダーの後ろに隠れようとしても無駄だから!全くもう、あの人段々とお茶目度合いが強くなっているよね。


「あまり彼女を責めないでやってくれないか」


 と苦笑いをしながら割って入ってきたのは砦の兵士長だった。


「我々としても現時点で君とどれくらい張り合えるのかを確認しておきたいのだ」


 どこかの誰かが黒幕として糸を引いていた可能性がある以上、今後も同じような危機に見舞われないとは言い切れないものね。どのような対応を取るべきかを考える上でも、自分たちの力量を把握しておくことは大事だ。

 ただ……、ボク相手にそれが測れるものなのかしらん?


「まあ、いいや。やる気になっているところに水を差すような野暮はしたくないからね。でも、どうやるの?戦場の設定次第ではボクが一方的に蹂躙することになるよ?」


 そう言った瞬間、ペカト組からぶわっと怒気やら敵意やらが吹きあがる。失敗しっぱい。単に事実を言っただけのつもりだったのだが、あの殲滅戦を見ていない彼らからすれば、挑発されたように感じてしまうよねえ。


「どうしよう?まずは一回彼らとだけ戦った方がいい?このままだと連携も何もできなくならない?」

「……いや。いくら味方同士でも部隊間で完全に情報の共有や意思の疎通ができていることは稀だ。このまま行おう」


 おおう!?兵士長、なかなか思い切ったね。せめてこれ以上は挑発しないように注意しよう。

 そして模擬戦の内容は、即席の陣地を作っての防衛戦ということになった。なお、準備に時間がかかりそうなので、模擬戦の開始は明朝ということになった。


「壁とかの障害物の破壊は禁止もつけておこうか。これをアリにしちゃうと陣地の外からの大技で終わりになっちゃいそうだし」

「む?そうだな。少々現実味は薄れるが、君が相手の時点で今更の話か」


 魔物はそんなこと気にしてはくれないものね。特に大型の魔物なんてその体の大きさを活かして突撃してきそうだ。その意味では確かに現実味は薄れることになるだろう。

 ところでその納得の仕方はどうなのよ?と思わないでもないけれど、問い詰めたところで何がどうなる訳でもないから気にしないことにしましょう。


 互いの勝利条件といった大まかなところを決めてから、ボクは砦の中に用意された部屋へと戻る。さすがに陣地を作っているところを見てしまうと有利過ぎるからね。

 これまでは他の女性の冒険者と同じく女性兵士の部屋に間借りさせてもらっていたのだけれど、明日は敵味方に分かれるので個室を準備してくれたのだった。まあ、ベッド以外の場所には解体した魔物素材――主に毛皮です――がみっちりと詰め込まれていたのだけれど……。


 食事の際に喧嘩を売られるようなこともなければ、嫌がらせをされることもなく平穏無事に迎えた翌日のこと。天気は本日も快晴で絶好の模擬戦日和となっていた。


「まさかここまでのものが出来上がっているとは思わなかった……」


 砦から出てみれば、そこにはもう一つ砦ができているではありませんか!?


「立派なのは見た目だけ、それもこちら側からだけだがな」


 最終確認を行っていたのか、コンコンと壁を叩いて回っていたカウティオスのリーダー、カロさんが朗らかに笑いながら言う。


「いやいや、それでも半日でこれを作ったのだから十分凄いよ」

「アースウォールの魔法を使える連中はおろか、俺たちまで総出で手伝わされたからなあ」


 基礎魔法で使えるようになる【アース】は少しだけ土を盛り上げたり、逆に凹ませたりすることができるのだけれど、その応用で作り上げた壁を頑丈にする作業をさせられていたらしい。


「ボクが思っていた以上に、皆やる気になってるよね?」

「まあな。懸念があるとすればペカトの兵士たちが君の強さを甘く見ているということか」

「砦の兵士長はそうしたマイナス要因も込みで考えていたけどね。不慮の事態とか思いがけない展開が発生することで、より臨場感のある模擬戦になると思ってるみたいだよ」

「一理あるな。ただ、君を相手にして立て直す余裕があるとは思えないんだが……?」

「その辺りはまあ、上手く手加減させてもらうつもり。せっかくやるのだから、こちらとしても有意義なものにしたいからね」


 最初は思いっきりコテンパンにして、それから再度やり直すというのもアリといえばアリだ。が、ここまで本格的なものを作り上げたとなると、罠なども仕込んであるかもしれない。中には初見でなければ効果が薄いものだってあるだろう。それらが無駄になるのはもったいない。


「おっと、これ以上話し込んでいるとお互いついつい余計なことを話してしまいそうだ」

「だね。それじゃあ、ボクはあっちに行くから、また後でね」


 そう言ってから昨日話し合ったスタート位置に向かう。模擬戦用の砦からおよそ五十メートル離れた場所で、周囲に何もない開けた空間だ。


「んー……。本当に何もないや。落とし穴の一つか二つは準備しているかと思ったのだけど。こっちにまで罠を仕掛けるのは卑怯だと思っちゃったのかな?」


 だとすれば甘い。できることは全部やっておく気概でいないと、いざという時に後悔することになりかねない。ああ、でも逆に四つ足の魔物だと多少の穴くらいでは足を取られても体勢を崩すことはないから、意味がないと考えたのかもしれないね。

 単純に、こちらにまでは労力が回せなかっただけかもしれないし、詳しい話は終わったとの反省会で聞いてみることにしましょうか。


 しばらく待っていると砦の兵士長がカロさんとエルガートさんを伴ってやって来た。それぞれ冒険者とペカトの塀の代表者ということかしらね。


「準備はできた?」

「ああ。最後にもう一度ルールを確認しておきたい。武器は自由だが殺したり重症になるような怪我をさせるのは禁止だ。まず、これは徹底してもらいたい」


 兵士長の言葉にコクリと頷くボクたち。あくまでも模擬戦なのだから熱くなり過ぎるな、ということだ。


「次に勝敗の条件だが、模擬戦陣地の上に旗がなびいているのが見えるか?制限時間内にあれを取られれば我らの負け、逆に守り切れれば我らの勝ちだ」


 時間は二時間で、三十分ごとに鐘を鳴らして教えてくれるとのことだった。


「異論なしだよ」

「こちらも了解です」

「問題ありませんな」


 こうして、エルネちゃん対ウデイア領兵士アンド冒険者連合軍による戦いの火ぶたが切って落とされたのだった!

 ……模擬戦ですよ。


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>元凶は分かっているんですけどね。……はい!そこのウナ姐さん!リーダーの後ろに隠れようとしても無駄だから!全くもう、あの人段々とお茶目度合いが強くなっているよね。  ぶっちゃけ調子に乗りだしてるから…
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