49 エルネちゃん無双する
前半エルネ視点 → 後半第三者語りの冒険者たち視点になります。
砦に向かう冒険者たちと同行するにあたって、一番の問題点はボクの冒険者ランクだった。
他の冒険者たちからは反対意見が出なかったのか?それがねえ、誰も彼も「カウティオスのやつらが推薦するなら大丈夫だろ」という雰囲気だったのよね。どんだけ信頼が厚いんだか。
死ぬかもしれない状況が少しでも改善されるなら、という想いがあるのかもしれない。
あ、チンピラ冒険者たちがなにか言いたそうにしていたけれど、ギルド職員のおじさんが一睨みして黙らせていました。ロートル呼ばわりされたことを根に持っているみたい。
今後様々な場面で絞られることが確定している連中のことはこれくらいにしまして。
繰り返しになるが現在のボクのランクは八等級だ。対して参戦するために砦に赴けるのは五等級以上と決まっている。うん。全然まったくさっぱり足りていないよね。どないすんねん?
するとここでもおじさんが良い案を出してくれた。
「こう見えてこのエルネは力持ちだ。急いで移動するのに荷運び人が必要だった、とでもしておけばいい。向こうで戦闘に巻き込まれることがあるかもしれねえが、それはそれ不可抗力というやつだろうさ」
規則の隙間を突くような際どい内容だったけれどね。さすがは年の功、ごほんえふん!経験豊富な元冒険者なだけはあるというものだ!
そんなこんなで街へと入ることなく、砦へ向かう一行に合流することになった。これでお預けをくらったのは二回目か。……まさか、このまま二度と街に入れないなんてことにはならないよね?
漠然とした不安を抱えながら皆に合わせて速足で進む。焦り逸る気持ちを抑えきれないのだろうね。
到着した時に疲れきっていては元も子もないと思うのだけれど、多分、そんなことは全員分かっているはずだから、言ったところで聞き入れてはもらえなさそう。
「魔物との戦い方とか方針をすり合わせておきたいのだけど」
ふと、とても大事なことを聞き忘れていたことに気が付く。
砦の救援、と一口に言ってもそのやり方や達成条件は様々だ。取り囲む魔物を徹底的に倒し尽くすのと追い払うだけでは難易度も労力も大きく変わってきてしまう。
いやはや、場の空気にのまれて危うくぶっつけ本番になってしまうところだった。
「そうねえ……。エルネちゃんは自由に動き回って魔物を片っ端から倒してくれればいいわ」
「うん?」
「まあ、それが妥当だろう」
「俺たちとは強さが隔絶している。下手に連携を取ろうとしても足を引っ張り合うことになるだけだ」
ウナ姐さんの言葉に首をひねっていると、カロさんとクルーさんも続けてそんなことを言い出し、結局ぶっつけ本番な出たとこ勝負で動き回ることになったのでした。
……え?本当にそれでいいの!?
〇 ◇ △ ☆ 〇 ◇ △ ☆ 〇 ◇ △ ☆ 〇 ◇ △ ☆
そして夜の帳が降りた中を歩くこと数時間、ついに砦近くの高台にまで辿り着いた救援部隊の一行が目にしたのは、月明かりに照らされたおびただしい数の魔物の群れだった。
ざっと見えるだけでも軽く百は超えている。ただ、その数が逆に仇になっているようで、何重にも取り囲んだだけで何もできずにいる魔物が大半となってしまっているらしい。まあ、砦側からすればなんの気休めにもなっていないかもしれないのだが。
「あーあー、これはまた集まったものだねえ」
場違いに明るい声が響く。今回の功労者でもある五等級冒険者パーティーのカウティオスが、是非にと頼み込んで連れてきた八等級の少女のものだ。そこからは気負いも恐れも感じられず、ただただ素直に目に映ったことへの感想を述べただけ、という様子だった。
「エルネちゃん、大丈夫?連れてきた私たちが言えた立場じゃないけど、無理をすることはないわよ?」
「ん?ああ、これくらいならボク一人でなんとでもなるでしょ。だけどどう頑張ってもさすがに混戦になりそうだから、服は傷んじゃうかもだけどねー」
のほほんと口にした言葉を強がりだと思うものは一人としていなかった。
まあ、理解できなかったという方が適当かもしれないが。
「それじゃあ、先に一当てしに行ってくるよ。皆はその間に息を整えておいて」
誰一人として呼び止める暇もなく少女が走り出す。尋常ではないスピードに、その後ろ姿は見る見るうちに小さくなっていく。
しかし、これから起きることに比べれば些細なものだった。
ドガン!!
砦を包囲する魔物の群れに背後から接近したエルネが接触した瞬間、轟音が響き二桁を優に超える巨体が空へと舞い上がっていた。
「は……?」
と声を漏らした者はいささか気が早かったかもしれない。なぜなら一度だけではなくその後も次々と魔物たちが天高く打ち上げられ続けたためだ。
「い、一体なにが……」
起きているのか?
答えは単純、エルネが力任せにハルバードを振るい、当たるそばから魔物たちをかっ飛ばしているのだ。クルーを始めとした〔遠見〕と〔暗視〕の能力を持つ数名はしっかりとその光景を目撃しているのだが、頭がそれを理解するのを拒んでいた。
それほど大柄でもない少女が自身の数倍の大きさがある魔物どもを一振りで何体も、しかも何度も何度も繰り返し弾き飛ばしているのだ。現実味がないどころか、もはや悪い冗談ではないかとすら思える。
もしも事前にエルネがドラゴン、ドラゴニュートであることを告げていれば万が一くらいの確率で理解してもらえたかもしれないが、何の前情報もない状態では意味不明な出来事の連発に脳がフリーズしてしまうのも当然の話であろう。
瞬く間に犇めいていた魔物の数が減少していく。代わりに加速度的に増殖していたのが、身動き一つしない魔物だったものだった。弾き飛ばされた個体はもちろん、落ちてきた仲間に激突されて深手を負うという二次被害がそこここで頻発していたためだ。
なお、無軌道な動きに見えて一体たりとも砦の中に放り込まれることはなかったことから、かっ飛ばす方向はきちんと見定めていたもよう。
力に振り回されることなく、しっかりと制御できている証なのだが、そのことに冒険者たちが気付くのは日が昇った翌朝、後始末が始まってからのこととなる。
草原地帯に生息する肉食の魔物約三百体。
ウデイア領南部の砦を襲った前代未聞の危機は、たった一人の少女が大暴れしたことで奇跡的に一人の死者を出すこともなく、魔物側の全滅という形で幕を下ろしたのだった。




