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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第3章  西方諸国1 ドコープ連合国
48/108

48 行ってらっしゃいのはずが?

 ペカトの街に到着したボクたちは、入り口で砦へと救援に向かう集団とすれ違うことになった。ベテラン勢らしく古強者な貫禄が感じられるよ。

 心なしか後ろのチンピラ冒険者たちも緊張しているように見える。


 それもそのはずでソードテイルレオ回収に同行してきた職員のおじさんの話によれば、彼らは先日七等級になった、つまりようやく一人前に足を踏み入れたばかりだったからだ。態度がよろしくなかったのはほとんどがスラムやストリート育ちのためらしい。

 まあ、貧困層の子どもたちに仕事を与えるのも冒険者ギルドの役割の一つだからね。十等級向けの街の中だけで完結する依頼なんて、完全にそういった子ども向けのものだったりするので。


 対して、砦へと出陣する熟練冒険者たちは四等級以上のハイランク相当の(・・・)実力者ばかりだった。これは国との規定で定められていて、戦力として砦に派遣されるにはそれだけの強さが求められる、ということだ。

 まあ、砦やお城に匹敵するサイズの巨大な魔物と戦うのだから、生半可な強さでは邪魔にしかならないわよね。


 なお、ハイランクに匹敵する強さだと認定されればよいので、厳密には四等級以上ばかりという訳ではないとのこと。どちらかと言うと五等級どまりの冒険者の方が多いらしい。

 それというのも、ハイランクになると貴族や有力者からの指名依頼を受ける義務が発生するためだ。貴族のお抱えともなれば箔が付く上に、引退後には私兵と召し抱えられることもあるので先々も安泰となる。

 が、その一方でどうしてもそちらからの依頼を優先せねばならなくなるし、更には貴人を相手にした交流会なども必須となる。要は依頼以外のあれやこれやが増えてしまうのだ。

 それらを苦にしたり面倒に感じる冒険者も多く、あえてハイランクには昇級しないという冒険者も相当数いるのでした。


 余談だけど、ギルド側もこうした対応を暗黙の了解として認めている。無礼な連中のせいで大口依頼者となったり貴重な情報源となってくれたりする貴族や有力者と軋轢ができるよりは余程マシというものだろう。

 数が絞られればそれだけハイクラスの価値や品位を高く維持しやすくなる訳で、一方で腕っぷし自慢な連中には率先して魔物討伐等の得意な方面の依頼を振ることができるのだから、認めない理由がないというものでしょう。


 話を戻すと、チンピラ冒険者どもにとっては、憧れだったり頭が上がらない人たちだということだ。


「……あら?良かった。ギリギリだけど夕暮れには間に合ったのね!」


 なんと、そんな中の一人が気安くボクに声をかけてくるではありませんか。誰であろうカウティオスのサブリーダーっぽい(あね)さんです。


「見ての通り、何とかね。……ええと?」

「ああ、さっきは慌てていて名前も言わないままになっていたわね。私はウナ。こっちのテオと一緒にサブリーダーを務めているわ。それにリーダーのカロと、あなたが助けてくれたスンとクルーね」


 いや姐さん、いっぺんに紹介されても覚えきれないってば!?


「ウナ、落ち着け。一度に言っても混乱するだけだぞ」


 アワアワしていたら、リーダーことカロさん――だったよね?――が割って入ってくれた。その後ろで残りのメンバーたちも小さく頭を下げてくれている。

 それを見たチンピラ冒険者たちは飛び出てしまいそうなほど大きく目を見開いていたり、顎が外れたんじゃないかと思うほどパカーンと口を開いていたりした。正直かなりの間抜け面なのだが、指摘するのは勘弁してあげましょう。


「はあー……。本当にこの子に助けられたんだな」

「なによ、私たちの報告が信じられないかったの?」


 思わずこぼれた職員のおじさんの言葉に、ウナ(ねえ)さんが噛みつく。


「まあ、色々あってな。詳しくはまた今度話してやるよ。しかし、砦に向かうのはお前たち冒険者だけなのか?街の兵士たちはどうした?」


 おじさんがキョロキョロと周囲を見回すも、いるのは統一感のない装備を身につけた冒険者ばかりだ。ところで出立が遅れてしまっているのだけれど大丈夫なのかな?


「折悪く周辺の村や町に巡視に出ている最中だそうで……。残っているのはペカトの警備で手一杯なんだとか」

「そうだった!兵士がいなくなるから調子の乗ったバカが悪さをしないようにしっかり見張っていろと通達があったんだった!」

「緊急事態なんで領都を含め各地に連絡が走っているっすけど、集まるのはいつになるか分かったもんじゃないから、冒険者(おれたち)だけでも先に救援に向かってくれと言われたんすよ」


 手持ち無沙汰になったのか他の人たちも会話に入ってくる。


「それは……、大丈夫なのか?」

「カウティオスの話の通りならかなりヤバいと思うぜ。だが、砦が落ちたらどうしようもなくなる。助けに行かない訳にはいかねえさ」


 命を落とすかもしれない、その覚悟を決めた悲壮な顔で一人の冒険者が言う。

 ペカトの街付近までの追いかけっこで疲弊していたとはいえ、五等級パーティーと上位戦力のはずのカウティオスがたった三体のソードテイルレオに苦戦を強いられていたのだ。そして砦は同等の強さの魔物どもに包囲されている。己の分や力量が分かっている人ほど悲観的になってしまうのだろうね。


「……リーダー、提案があるんだが」


 垂れこめ始めた重苦しい空気へ抗うように声を上げたのは、一足早くペカトへの報告に向かったクルーさんだった。


「どうした?」

「彼女にも砦の救援を手伝ってもらうべきだと思う」

「え?ボク?」


 なんとクルーさんの提案とは、砦救援ミッションにボクを同行させるというものだった。


「リーダーたちとは違って俺は彼女の戦いぶりをつぶさに見ることができた。あれほどまで完璧にソードテイルレオを圧倒できる人間を俺は見たことがない」

「俺も賛成だ。もちろん彼女が引き受けてくれるのならだけど」


 更に盾持ちのスンさんまで後押しをし始める始末だ。一体目は不意打ちの一発とトドメの一発、合計二回の攻撃だけで倒しちゃったからねえ。圧倒という意味ではクルーさんを追いかけ回していた二体目を退治した時よりもインパクトは大きかっただろう。

 あの時も一切脅威には感じなかったし、砦を包囲している魔物どもがどれだけいようとボクが本気を出せば物の数ではないと思う。


 問題は街のお宿でのぐっすり休眠が遠のいてしまうことかしらん。


「……今日会ったばかりだけど、見知った人が死ぬかもしれない時にのほほんとはしていられないか」


 やれやれ、我ながら損な性分だわね。


 なお、頼まれなければ普通に見送っていたもよう。

 エルネは別に困っている人と助けたいと思って旅をしている訳ではないので、自分から協力を申し出ることはありません。


 ただし、身内判定や知り合い判定が広くて緩いので、もしもカウティオスだけが砦に向かっていたならば、心配になってついていった可能性はあります。

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