45 回収部隊、到着
カウティオスの面々を見送りその背中が見えなくなると、ボクは一体のソードテイルレオの亡骸へと近付いていく。
「脅威に敏感な魔物とはいえ、三体が三体ともついてきたのはおかしくないかな?」
矢を射かけられていたから?だけど彼らの話では足止めや威嚇、追い払うことが主目的だったように思う。砦から延々と追いかけ続けるのは不自然な気がする。
余談だけど、この追いかけっこの時の攻防があったせいで、アーチャーの彼が一番に狙われたのだろうという話だった。
「怪しい。……だけどボクはそういうところを探し出す能力も技能も持ち合わせてないんだよねえ」
前世でもそういうのは基本的にお母さんたちの役割だったからなあ。まあ、たまに直感的なものが閃くこともあったのだけれど、それは例外ということで。
「でも、ユウハさんの遮断結界を感じ取ることができたし、魔力を感知する的な能力が使えたりしないかな?」
思いついたら即座に挑戦!果たして結果は!?
……ダメでした。どうやらあれはドラゴンが保有する膨大な魔力があって初めて察知できたものだったみたい。
仕方がない。とりあえずこの場で解体となった時でもすぐに取り掛かれるように、草でも刈って開けた空間を作っておきますか。ああ、ついでに集めた草を燃やせば回収に来る人たちの目印になるかもね。
ハルバードを使ってザクザクと草を刈っていく。なんだか煌龍爪牙が黄昏ているというかすすけているような気がしないでもないけれど、お仕事を選んではいけませんのことよ。
それにこれはこれで風圧等で葉っぱが揺れ動いてしまい意外と難しい。刃筋を立てたりして効果的に武器を扱う訓練にもなりそうだ。ボクはどうしても膂力に任せてぶん回してしまいがちだからね。
無心で振るい続けることしばらく、気が付けばそこそこ広い範囲の草が刈れていた。
少しばかり禿げ、もとい地面がむき出しになった場所が多い気がしないでもないけれど、多分大丈夫でしょう。これから火をつけるし、延焼する危険がなくなったと思えば悪くはない、はず!
わっせわっせとかき集めてみれば、こんもりとした小山に。やっぱりちょっとやり過ぎた?
ええい!こうなれば街道に繋がる道も作ってしまえ!
基礎魔法の【ファイア】で火をつければモクモクと煙が上がっていく。
これなら目印にもってこいだろう。
「ついでに倒したソードテイルレオも移動させておこうかな」
一般人では数人がかりでなければ到底持ち上げることすらできない巨大な骸だけれど、アイテムボックス持ちのボクにかかれば、サッと収納、パッと取り出しのわずか二工程ですむので楽々完了だ。
それにしてもまさか三体とも同時に収納してしまえるとは思わなかったよ。こちらの世界で目覚めた時に比べて、容量が増えていませんかね?
まあ、便利なので文句はないのだけれど。
周囲への延焼に気をつけながら火の番をしていると、遠くからガラガラと車輪の回る音が聞こえてくる。どうやら回収カウティオスからの依頼を受けた回収部隊がやって来たようだ。
太陽はすっかり西の空へと移動を終えていたが、地平線からはまだまだ遠い。想定していた時間よりも随分と早い。もしかすると急ぎの依頼として手続きをしてくれたのかもしれないね。
目玉である尻尾の剣はなくても、草原地帯に生息する魔物の貴重な素材が大量に取れるとあっては、ギルドも冒険者も力の入りようが変わってくるというものかしらね。
街道に出て待っていると、三台の荷馬車が列をなして近付いて来ているのが見える。見落とすとは思えないけれど、一応手を振ってアピールしておきましょうか。
「カウティオスから依頼を受けて来たんだが、彼らと一緒にソードテイルレオを倒したというのはあんたなのか?」
先頭の馬車の御者を務めていたひょろりとした男性が怪訝そうに問うてくる。ついでに言えば荷馬車に乗っている他の面々も無遠慮な視線を向けてきていた。更にそこまであからさまではないにしても、残る二台に乗っている人たちも似たり寄ったりな反応だ。
やれやれ。いくらボクが可憐な美少女だからといって、一目見ただけで侮るとはねえ。カウティオスがどういった説明をしたのかは分からないけれど、運良くその場に鉢合わせただけだとでも思っているのかな?だとすれば、こいつらの実力はお察し程度でしかなさそうだ。
「そうだよ。ボクが倒したものも含めて三体全てこの先に置いてあるから」
「ふんっ!」
事実を告げたのに鼻で笑われてしまった。うわー、割とイラっとする態度だわね。後ろのやつらに至っては嘲った表情を取り繕おうともしていない。これはもう何を言っても無駄そう。さっさと積み込むなり解体するなりしてもらおうか。
「うおっ!」
「こ、これが……」
「すげえ……」
即席の広場へと案内すると、並んだ巨躯に一同が感嘆の声を上げる。
「……言われた通り尻尾が斬り取られている。これで間違いないようだ。回収を始めてくれ」
一番後ろの荷馬車に乗っていた一人が素早く見分を終えて指示を出す。なんだ、機敏に動ける人もいるじゃないですか。その調子でさっさと終わらせちゃって。
「しかし、カウティオスは倒した魔物を運んでおくともこんな広場を作ってあるとも言っていなかったんだがなあ……。砦の件の報告もあったし、単なる伝え忘れか?」
作業を始めた冒険者たちを横目に、ぶつぶつと呟いておられます。動きが機敏だったことに加えて洞察力も高いとはね。よく見ていれば魔物がうろつく街の外に出てくるには似つかわしくない軽装だ。
「あの、もしかしてギルドの職員さんですか?」
「うん?ああ、その通りだ。今回は運ぶモノがモノだからな、一応立ち合いのために同行してきたんだよ。……そういう君は、運悪く居合わせたという冒険者だな?」
「居合わせたというか助けに入ったっていうのが本当だよ。……え?あの人たちそんな滅茶苦茶な報告をしたの?」
誠実そうだったし、そんな様子は全くなかっただけに意外だわ。
「いや、ちょっと待ってくれ!助けに入っただと!?……どういうことだ?」
詳しく話を聞いてみると、カウティオスからの報告や回収依頼の応対をしたのは別の人物で、この職員さんはちょうど外出していた最中だったそうだ。
そして戻って来てみればいきなり「急ぎの仕事ができた」と依頼だと押し付けられてしまい、今に至るという流れらしい。
「つまり、その職員が勝手に依頼の内容を書き換えているってこと?」
「カウティオスはくそが付くほど真面目で有名なんだ。助けられた恩を仇で返す真似をするなんてことはあり得ねえ。身内の恥を晒すようで情けない限りだがそうとしか考えられん」
ほうほう、それなら一安心だ……、とも言えないよねえ。
その職員は一体何の目的があってそんな勝手なことをしたのやら。




