43 新技お披露目
一体は倒したがソードテイルレオはまだ二体残っている。しかも片方は持ち前の敏捷さを駆使して逃げ回ることで、たった一人が引きつけ続けている。
気絶した仲間を守るために盾で攻撃を受け続けていた彼よりはマシかもしれないが、それでも体力は時期に限界を迎えるはずだ。急いで加勢に向かった方がいいのは間違いない。
「気絶してる人に使う薬はある?」
「あ、ああ。手持ちがあるから大丈夫だ。それより向こうの手助けをしてやってくれないか」
「了解」
既にあちらの彼は気が付いていたようで、ボクが駆けだすと同時に誘導の進路をこちらへと変更していた。
「三つ数えたら横に逃げて!」
「おう!」
逃げ回りながらも一体目が倒されたところを見ていたのかな。ボクの要求を疑うことなく即答で受け容れてくれる。その身のこなしといい判断力といい、相当腕利きの探索者みたいだ。
「一、二――」
「三!」
カウントと同時に彼の身体が左へとそれていく。さすがに急な方向転換は無理がたたったのか、ゴロゴロと地面を転がることになっていたけれど。
とはいえ、射線がひらいた。
「【裂空衝】!」
回し蹴りの要領でで大きく右脚を振って、正面から突進してくるソードテイルレオに衝撃波を放つ。
「ギャン!」
互いに接近している最中での不意を突いた攻撃に、なすすべなく突っ込みダメージを受ける大型魔物。
一方のボクも思いっきり足を振り切った勢いに体勢が崩れ……、などということはなく。尻尾で支えつつ動きに合わせてくるりと横に一回転してから着地、そのままダッシュを再開。
「ガアアアア!」
あちらもやられ放題ではいられるかと一吠えすると、接近したボクに向かって裂空衝のダメージなどなかったかのように右前足を大きく振るい、更には尻尾の剣で薙ぎ払おうとする。
「よっ!たっ!ほいっ!」
しかし、それもこれも腰が引けていてはねえ。フェイントがあるでもなし、ハルバードで簡単に受け流すことができてしまった。不意打ち気味の一撃を受けたショックは本人が思っている以上に大きかったもよう。
「ゴア!グアア!」
思うようにいかない焦りからなのか、それとも単に気が短いだけなのか。噛みつきまでもが加わってひたすら攻撃を繰り返して暴れ回るが、やはり無計画な手当たり次第では猛攻というには及ばない。受ける時に斧刃や槍穂、鉤を合わせてやるようにすれば逆に傷が増えていくという有様だ。
「このままでも自滅しそうだけど、素材価値が下がっちゃいそうだわね」
どんな魔物にでも言えることだが、基本的に傷が少ない方が素材の買取金額は高くなりやすい。例えば毛皮。穴だらけのものだと用途が限られてくるのは明白だよね。よって腕の良い冒険者になればなるほど、最小の傷で魔物を倒すことに特化していく場合が多い。
まあ、中には脅威度が高過ぎて何はともあれ討伐優先!という魔物もいるから、絶対にこうだという訳でもないのだけれど。
本来超危険区域である草原地帯に生息しているはずのソードテイルレオも、どちらかといえばそれに該当する魔物なのだろう。数人が連携を取りながら戦っているもう一体などは、全身から血を流して真っ赤になっているほどだ。
だけど、あちらに合わせてわざわざ価値が下がるような倒し方する必要はないよね。
「新技初公開といこうか。【顎砕撃】!」
吠えたてながら迫りくる牙を受けることなく大きく避ける動きで頭の下へと潜り込むと、ぐんっ!と飛びあがって右膝を打ちつける!
ゴギグシャ!!
強制的に口を閉じさせられたせいで自慢の牙は折れ、顎の骨も砕け散っていた。更に衝撃は直上の頭蓋の中にまで伝わったようで、どさりと崩れ落ちたソードテイルレオは血の混じった赤い泡を吹きながら白目をむいていた。
すかさず喉をかき切って止めを刺す。頭部だけでもボクの背丈近い大きさがあるだけあってか、その身を包む毛皮は相当な頑丈さを持っていたようだが、煌龍爪牙の切れ味には敵わない。血と一緒に獅子の命はその体から流れ出ていったのだった。
「あっちは……、なんとかなりそうだね」
残る最後の一体は冒険者の一団と激闘を繰り広げていたのだが、こちらも血を流し過ぎたのか目に見えて動きが悪くなっている。このままのペースを維持できるなら問題なく押しきってしまえるだろう。
肉食系の魔物の肉は基本不味くて食べられたものではないので解体も後回しでいい。となればやることは一つ。情報収集だ。都合良く二体目を引き寄せて時間稼ぎをしていた彼が近付いて来てくれたことだしね。
「すまない。助かった」
「気にしないで。そうそう、報酬の分配はギルドの規定通りでいいからさ」
こういうお金に関係することはさっさと決めておくのに限るのですよ。ちなみに、途中参戦でもらえる報酬は最大でも三分の一までになっている。
命を助けた上に二体も倒しているのだから、はっきり言って割に合わない。とはいえ、あまり欲張るのもねえ。気絶している人への回復薬の使用は確定だし、魔物を引き付けておくためにアイテムをばらまいたりしていたようだし、最初の彼に至っては盾の整備は必須になるはずだ。
対してボクは損耗ゼロ。ここまでの道中でも旅に必要な金額は十分に稼げている。ここは譲っておくのがベストでしょう。
「そちらも助かる。代わりと言っては何だが、困ったことがあれば言ってくれ。力になる」
とか言いながらも、時間を掛けたくないのかソワソワしている。
「それなら情報を、と言いたいところだけど、もしかして急ぎの用があるの?」
「ああ。こいつらにもかかわることなんだが、急いでペカトの街に知らせなくちゃいけないことがある」
「了解。詳しいことは他の人に聞くから、お兄さんはそちらを優先して。他の人たちへ伝言があるなら、そっちも聞いておくけど?」
「重ね重ねすまない。それなら俺、クルーは先に街へ向かったと伝えてくれ」
「分かったよ」
最後にもう一度お礼の言葉を述べると、クルーさんはあっという間に走り去ってしまったのだった。
「本当に急いでいたんだねえ。もう後ろ姿も見えなくなっちゃったよ。……んー、あっちは薬が間に合ったようだし、そっちも戦い終わったみたいだね」
さすがにまだ起き上がれないのか盾持ちの人しか見えないが、焦った様子もないから無事なのだと思われます。
一方、最後のソードテイルレオとの戦いは、側面に回り込んだ一人が槍を心臓に突き込んだことで終わりを迎えていた。
……ふう。犠牲者が出なくて一安心だよ。
〇【顎砕撃】
今回は跳び膝蹴りだったが、膝蹴り全般で発動可能。
魔力を用いることで衝撃を浸透させる防御力を無効化させることもできる。
なお、エルネは当初対人戦で頭を掴んで膝を叩き込む『額砕撃』を想定していたのだが、相談したドワーフたちに「エグすぎる!?」と言われたため、主に大型の対魔物用の技として開発され直された。




