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35 狭間での邂逅

先に謝っておきます。こういうのが嫌いな人はゴメンナサイ。

 こちらドワーフの村上空のエルネです。ただいま二体のはぐれドラゴンと接敵中。

 ……なのだけれど、その二体はギャーギャーと絶賛口論中?だったり。放っておいたら喧嘩になって勝手に自滅したりしないかな?


「さすがにそこまで虫がいい展開はなかったかあ……」


 しばらくしたところで、ようやく自分たちの置かれている境遇(きょうぐう)を思い出したのか、ボクを探して慌ててキョロキョロと周囲を見回している。

 だ、ダメダメ過ぎる……!

 この調子だとユウハさんの足止めに残った連中の方もたかが知れていそうだわ。数を頼りにしていても連携とかは一切できなさそうだし、一体がやられればそこから連鎖して崩壊していきそうだ。


 やっぱり彼女が来るまで時間稼ぎに徹するべきかな?

 いや、痺れを切らせて街を攻撃されては元も子もない。血が足りずに完全には程遠い今のボクでは、二体を同時に止めることはできないだろう。積極的に仕掛けていって、意識をこちらに向けさせておかなくては危険だ。


本当(ほんっとう)にタイミングが悪いよね!せめて一日どちらかにずれていればこんな苦労をしなくてもよかったのにさ!」


 悪態を吐くことで気合を入れる。そうでもしないとすぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。そしてあちらもようやくボクのことを発見できたらしい。翼をはためかせてこちらへと向き直る。

 今のボクの体力と思考能力では、灰色のやつに隠れられたら見つけ出すのは不可能だろう。対して敵側は連携した動きはできなくても、隠れた状態からさっきのような不意討ちはできると考えるべきだ。よって優先して倒すべきは灰色ドラゴンとなる。


 体力が危険領域に入っている以上長期戦は不利だ。先んじて仕掛ける!……ためにまずは接近。

 現状ボクには〔ブレス〕と【裂空衝】の二つしか遠距離からの攻撃手段はない。そしてどちらも前世で言うところのMP的なものを消費してしまう。ここが今世の厄介なところで、このMP的なものは魔力だけでなく体力面にまで影響してくるようなのだ。

 要はぶっ倒れかけのエマージェンシーな状態では、とてもではないけれど使えないのだ。


「フラフラな上に手札も限られてくるとか、とんでもない「縛りプレイ」だよ!」


 そういうのは冒険者協会の訓練場での練習だけで十分なのだけれど。愚痴りながら暴風を伴って迫る灰色ドラゴンの左腕を回避する。そのまま二の腕辺りに着地する勢いをそのままに両足で踏みつける(ストンピング)


「グギョオオオオ!」

「まだまだ!乙女の柔肌をあらわにした罪は重いんだから!」


 ダダダダッと駆け上がり肩まで登ると喉を狙って【三連撃】!!


「ガボッホゴオオオオ!?」


 服を噛みちぎられたことはしっかりと根に持っていますが、なにか?もう少しでシャツまでやられてお胸様がポロリするところだったのだから、これくらいやり返しても当然なのです。

 激痛と息ができない苦しさに咳き込むように体を震わせる灰色ドラゴン。一方の淀み沼色の方はたった一度の攻防による激変についていけず、その場で棒立ちならぬ棒浮きしていた。


「その一瞬が命取りに、うわわっ!?」

「グガアアアアアアアアア!!グルラアアアアアアアアアア!!」


 絶好の攻撃チャンスに、肩を足場にしようと力を込めたところで灰色ドラゴンが暴れ出す。

 想定していたよりも回復が早い!?……くっ、体力が激減しているから威力が足りていないのか。せっかく詰めた距離だけれど、暴れる動きに巻き込まれるだけでも残り少ない体力が全損しかねない。一度ここから離脱しないと。


「っとヤバ、ぎゃうっ!?」


 が、判断が少しばかり遅かった。大きく身動ぎされた拍子に浮いてしまったボクの身体は、翼を羽ばたかせる動きにもろに巻き込まれてしまい弾き飛ばされていた。


「うぐ、あ……。っつう」


 正面ではなく背面に近い横方向に飛ばされたことで、敵の目を掻い潜れたのが唯一の救いかな。もっとも、現在絶賛落下中なのだよね。碌に体に力も入らなくなっているし、このままだと墜落死一直線だわ。


 ……息ができない。

 ……目が霞んで今にも見えなくなりそう。

 ……身体が、自分のものとは思えないほど重いよ。




「最後のそれはきっとその大きなお胸様のせいだね!」


 ほっといてよ!というか僻みは良くないと思うよ、お母さん。


「おおう!?まさか驚かれるよりも先に言い返されるとは……。でも、それだけ元気があるなら大丈夫かな?」


 これが大丈夫に見えるならお母さんの目は節穴だと思う。


「どうせ穴ならちくわの穴の方がいいなと思うリュカリュカちゃんですよ」


 いやいや、意味が分からないから。それにちくわって何さ?


「あれ?食べさせたことなかった?ちくわの磯部揚げとかうどんと一緒に食べると美味しいよお」


 ぐぬぬ。謎のマウントを取りおって。


「ふっふっふー。まあでも、欲しければ探してみればいいんじゃない。ニポンのような場所があるのは異世界ものの定番だし、意外な所にうどんやちくわがあるかもしれないよ」


 そうなのかな?

 ……でももう無理だよ。体痛いよ。疲れてしんどいよ。


「あらら。甘えん坊のエッ君になっちゃったかあ。まあでも、頑張っていたものね。仕方がないにゃあ。一度だけとっておきのものを貸してあげようじゃないの」


 なんか押しつけがましいのが微妙に腹立つね。


「うっさい。ほら、アイテムボックスを開いてごらん」


 アイテムボックス?アオイさんからもらった服が入っているだけのはず……、うえっ!?


「ちょっとだけ未来から借りてきたよ。銘は『煌龍爪牙(こうりゅうそうが)』。君の、君だけのための武器(ちから)


 これが、ボクの武器。


「さあ、目を開けて。君はもう卵のエッ君じゃない。ドラゴニュートのエルネ。自分の羽でどこへだって飛んでいけるはずだから」


 お母さん。


「いつでも見守っているから……、ってちょっと待ったあ!ミルファはカレー入れ過ぎ!そんなに入れたらお出汁の風味も何もなくなっちゃうでしょうが!……ネイトもかっ!トンカツ三枚乗せとか肉々しいね!?」


 お母さん……。

 もう、色々と、台無しだよ……。




「うあー!もう!起きればいいんでしょうが起きれば!!というか絶対美味しいもの食べてたし!?うおにょれ、絶対にうどんもカレーも見つけてお腹いっぱいになるまで食べ尽くしてやるんだからあ!!」


 自棄(やけ)気味に叫んだ瞬間、目の前がクリアになる。羽に力を込めながらくるりと上下を入れ替えて、雪と氷に覆われた地面に無事着地完了。

 そして右手には、いつの間にか太陽の光を受けて輝くハルバードが握られていた。


〇作者の戯言

 今回の彼女の登場は私的にも本当に予想外でした。二話目のあれはともかく、以前の作品のキャラクターを出しゃばらすつもりは全くなかったはずなんですけど……。お母さん、恐るべし……!

 ちなみに、ハルバードは煌龍爪牙という名前ですが火属性ではありません。この名前もいきなりおりてきたんですよ。ただ、こういう時がお話を書いていて一番ゾクゾクして楽しい瞬間でもあります。

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