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25 修復はできないけれど

 このハルバードではボクの力に耐えられないですと?


「槍の穂の腐食に比べれば細かなことですがの。例えば斧刃のここ、欠けておるでしょう。なんぞ心当たりがおありではございませぬか?」

「斧刃……。ああ!はぐれドラゴンの牙を叩き折ったよ!」

「ほあっ!?」

「予想していた以上にとんでもない逸話が飛び出してきたわ……」


 あらら?なんか反応がおかしい?ユウハさんは頭痛をこらえるように片手で額を抑えているし、長老たちに至っては目が点になっているよ。……息してるよね?


「え、エルネ様。確かにこのハルバードは業物です。だからこそリグラウ様も素材集めの際に持ち歩いておったのですから」

「ですが、傑作と名高い品々に比べればはるかに劣っておりますのじゃ」

「用いた素材からして、一段も二段も下になりますからのう。……おや?よくよく見てみれば軸も歪んでおりますぞい」

「そうなの!?……全然分からなかったし、違和感もなかったよ」


 そうボクが返すと、長老たちは顔を見合わせた。


「恐れながら申し上げますと……」

「あ、不敬だとかそういうのは気にしないで。足りないところだらけだってことは、ボク自身一番よく分かっていることだからね」

「あなた、卵からかえってまだ二カ月だものね……」


 幸いにもユウハさんの呟きは長老たちには届かなかったもようです。それを伝えるとまた一悶着起こりそうなので。


「エルネ様は武具の扱いには長けていない、それどころか、ほとんど手にしたことがなかったのではありませんか?」

「正解。ボクが一番得意なのは蹴り技だね。後はこの尻尾」


 ポンポンと両手で膝辺りを叩きつつ、ぐいんと前に持ってきた尻尾の先端をピコピコ揺らす。


「武具の状態を知るのも、それを扱うのと同じように経験が必要となるのですじゃ。素人同然のエルネ様であれば、致命的ではない傷みには気付けませんでしょうなあ」

「んー、つまり例え修復できたとしても宝の持ち腐れになる?」

「いや。技量はともかく力はありますからのう、早々に使い潰してしまうのがオチですじゃ」


 あいたたた。それは困るね。まあ、アイテムボックスがあるから何本も予備を持ち歩くという裏技が使えないことはないのだけれど。


「職人が精魂込めて作ったものを雑に扱うくらいなら、最初から持たない方がいいよね」


 お母さんたちも装備品は大切にしていたもの。ただ、ねえ……。そうなるとフェルペのように格闘戦では危険な相手との戦いが困ったことになりそう。

 この時長老たちが笑顔で頷き合っていたのだけれど、悩むボクには気付く余裕などなかった。


「エルネ様のお覚悟、しかと拝聴いたしましたぞ」

「このハルバードを修復することはできませぬが、代わりとなるものをご用意してみせましょうぞ!」

「え?本当!?」

「力になるどころか武器が使い手の枷になるなど、製作者の名折れですからのう!……まあ、わしらが作る訳ではないんじゃが」


 うおい、長老さん!?見事なオチにガクっと膝から崩れ落ちそうになってしまったよ。


「ターホルの工房を訪ねなさるといい」

「ターホル?……確か現役の中では一番の腕だと評判の職人ね」

「え?そんなすごい人にお願いしていいの?」

「むしろあやつほどの腕がなければ無理でしょう。まあ、面白い素材を手に入れたと言っておりましたからな。きっとエルネ様の期待に沿うものが出来上がるはずですじゃ」

「もちろんわしらからも話は通しておきますし、紹介状もご用意しますぞ」


 ふおお……。とっても大事になってきたよ。お金ないんだけどな……。


「それなのですが、このリグラウ様のハルバードを譲っていただけませぬか?その代わりエルネ様の新作の代金はわしらが持ちましょうぞ」

「え?それはボクとしては願ったり叶ったりだけど……」


 こっちの方が随分得してないかな?


「この村の者にとってリグラウ様はどんな物語の主人公にも負けない英雄なのです。しかし、彼の方が作られた作品は一つも残されていない。我らにとってこのハルバードは喉から手が出るほどの一品なのです」

「それ、ボクが使ったことで台無しになったんじゃ……」

「とんでもない!エルネ様が使用してはぐれドラゴンどもを討ち倒し、しかもあの悪魔フェルペまで撃退したとなればその価値は上がりこそすれ、下がることなど考えれませんぞ!」

「あ、はい」


 長老さんたちの迫力の前に、ボクは頷くことしかできなくなっていたのでした。


「私が案内できるのもここまでね」

「え?」

「うわっはっは。確かに工房を訪ねるのはエルネ様おひとりの方が良いかもしれませんなあ」

「あやつらときたらユウハ様にお会いしたが最後、舞い上がって槌が持てなくなるどころか話もできなくなりそうですからのう」


 戸惑うボクを残して、長老たちは大きな声で笑い始めた。

 うひひと笑いをこらえながら話してくれた内容によると、工房主のターホル氏を始め主だった職人たちは皆このドワーフの村で生まれ育ったのだとか。幼い頃から時折見かける超絶綺麗なお姉さんことユウハさんに恋をしない子どもはいないそうで。

 大人になっても初恋の人への憧れは消えることなく、話しかけられたりすると緊張でガチガチになってしまうらしい。


 うっひゃあ、甘酸っぱいねえ!

 髭もじゃで樽体形なドワーフのおじさんだということは思い出してはいけない。いいね。


「村育ちとはいえ全員外で修業を行った者ばかりですから、腕の方は心配いりません」

「帰郷するためにはその地で一番の名声を得ることが条件ですからの」


 スパルタだなあと思ったけれど、元々のドワーフの村への移住条件がそれに近いものだものね。身内に甘いなんて噂が出てしまえば権威も何もかもが失われかねない。余計に厳しくなるのも当然か。


 ユウハさんと長老たちに礼を告げて建物の外へ。と言っても長老たちが住む家があるのは洞窟に手を加えた地下部分に当たるので、外という感じはほとんどしないのだけれど。

 うーん。夜になるまではまだ時間がありそうだなあ。寝泊まりに関しては、ユウハさんや他のドラゴン――それぞれどこか別の場所へ行っているらしい――が暮らしている区画にある部屋を貸し出してくれたのでお宿を探す必要もない。


 これは本格的に手持ち無沙汰になってしまったなあ。まあ、いいか。たまには特に行先も決めず、ブラブラと歩き回るのも楽しいかもしれない。

 とりあえず洞窟の奥側に向かってテクテクと歩き始めたのだった。


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