24 ドワーフの長老たち
二人でひとしきり悩んでみたが、妙案がそう簡単に浮かぶはずもなく。そもそも「ドワーフの村にいる職人たちなら修復できるかも」くらいな安易な考えで、伝手も何もなかったからねえ。
ユウハさんもここを一番の根城にしているとはいえ、ドワーフの住人たちや職人たちと蜜に関わっている訳ではないとのことだった。ドラゴンの生息域に近いから、調子に乗ったはぐれドラゴンがやらかさないように目を光らせている、といった感じかな。
結局、長老たちに相談に向かうこととなった。
のですが……。
「ふぉおおおおお!!こ、これが『武器破壊者』と謳われたリグラウ様が愛用していたというハルバードっ!!」
「すうっげえええええええええええええ!!」
「ひぃやっはああああああ!!こいつはどえらいものが飛び出してきたぜえええええ!!」
テンションの振り切れた長老たちがハッスルしまくるという光景が繰り広げられることに。しかも興奮して気力が漲っちゃったからなのか、若返っているようにも見えるのですが?
さっきまで少し動くのも億劫そうなヨボヨボのお爺ちゃんたちだったよね?ボクもドラゴンだと紹介されて、ビックリし過ぎて死にそうになっていたよね?
「はあ……。やっぱりこうなったわね」
ゆるゆるとユウハさんが首を小さく横に振る。意外と言ってはなんだけど、結構苦労性だよねこの人。
ところで英雄さんの二つ名が物騒なのはどうして?しかも破壊者だなんて、クリエイターの人に捧げる称号だとは思えないのですが?
「ほら、いい加減に落ち着きなさい。あまり騒いでいると何事なのかと世話役たちが押し寄せてくるわよ」
「……はっ!?こ、これはとんだ失態を」
「恥ずかしいところをお見せいたして申し訳ありません」
「あばばばば……。ユウハ様の説教だけは勘弁してくだされえ!」
一人だけ反応がおかしくない?
なになに?故郷でやれ神童だの、やれ天才だのと持ち上げられて天狗になっていた彼は、ドワーフの村にやって来てからもそれはそれは騒ぎを巻き起こしてくれたと。で、当時の長老たちですら持て余してしまい、ついにはユウハさんから直々にお説教――物理的な――を受けることになったのね。
「その後に改めて先達の作品を拝見させてもらえば、己の腕の未熟さなど一目瞭然でしてなあ……」
「よくある若さゆえの過ちというやつですわい」
「こやつは特別意固地になっておりましたが、誰しも大なり小なりそういった恥ずかしい思いはしておるものですじゃ」
事情は人によりけりだけれど、場合によっては故郷や一門の名を背負ってやってきたという人もいるだろうからねえ。簡単には受け入れられないこともあったのだろうさ。まあ、改心できたのなら良かったというところだよね。
お説教の内容?……どうして好き好んで地獄の扉を開けるような真似をしなくちゃいけないのですか!絶対に聞かないからね!
「おっほん!して、これをお持ちいただけたのはどういったご用件ですかのう?」
少々無理矢理な話題転換だけれど、気になる点もあるから乗ってあげましょうか。
「その前に一つ聞かせて。どうしてその人は『武器破壊者』なんて呼ばれることになったの?」
「ああ。それはですな、リグラウ様は大層な凝り性というか妥協の一切も許せないお人でした」
その辺りの見解はボクも一致している。それどころか無謀の領域に一歩踏み込んでしまっていたとすら思えるよ。だって素材を求めて大山脈を越えてしまうくらいだからねえ。そのお陰で迷子になって死にかけた訳で、ドラゴンの集落に保護されたのは幸運以外の何物でもなかったよね。
「そのためか、作り上げた物に少しでも納得のいかない部分があれば、容赦なく破壊しておったそうなのです」
「一説によれば、商品として店の棚に並んだり客の手に渡った数よりも百倍以上の武器がリグラウ様自身によって破壊されたということですじゃ」
どこぞの陶芸家な巨匠ですか!?……あ、英雄視されているくらいだから巨匠には間違いないのか。
それでもよくもまあ、生活が成り立っていたものだよ。周囲の人たちなんて、それはそれはやきもきしていたのだろうなあ。
「呆れる気持ちも分かるけど、そういう人物が作ったものだからこそ、こうして形が残っているともいえるわよ」
「なるほど。そういう考え方もあるね」
ユウハさんに諭されて、長老たちが持つハルバードへと目を向ける。
「お願いしたいのはそのハルバードの修復だよ。実はね……」
と、ドワーフの村へと至った経緯を改めて説明する。
「なんと!もしや猛毒使いの悪魔とはフェルペのことではありませんかな!?」
「そうだよ。有名な悪魔なの?」
「有名どころではございませんぞ!大山脈の南東には荒涼とした砂漠地帯が広がっておるのはご存じでしょうか?そこでは水の湧く泉のほとりに町が作られ、それらを繋ぐようにして南北の交易がおこなわれているそうです。……そして今から三十年ほど前になりましょうか。交易の中核を担っていたある町が一夜にして壊滅したのです」
たった一晩で壊滅?……まさか!?
その予想が正しいと告げるように大きく頭を縦に動かすのを見て、別の長老が続ける。
「水源である泉が毒に汚染されていたという話ですぞ。その毒は見たことも聞いたこともない強いもので、砂漠にはびこり隊商の大敵である大蠍すら、泉に触れた状態で死に絶えておったと伝わっておりますな」
「……フェルペはドラコロ、ドラゴンも一撃でコロリの毒だなんて言ってたよ」
「ドラゴンすら殺す毒。恐ろしい……」
ハッタリかもしれないけれど、それでも大型の狼サイズが精々の大蠍なら抵抗もできずに即死だっただろうね。
そして、中継点がつぶれたことで砂漠経由での南北の交易は大きく衰退してしまったのだとか。なお、砂漠地帯の西側には草原地域が広がっているのだが、ここは大型魔物の巣窟となっているので砂漠越えよりも危険とのこと。
「砦犀に城犀などは大きさだけならばドラゴンに匹敵すると言われておりますですじゃ」
大きさはそれだけでも脅威になるからねえ。他にも剣状の刃物になった尻尾を持つ尾剣獅子といった肉食系の魔物もたくさんいるそうだ。単なる大蠍の方がまだマシだと思えるはずだわ。
「そういうことなら尚更だね。また悪魔と出会ってしまっても撃退できるように、ハルバードを修復して欲しいんだ」
「ふうむ……。ご要望は分かりましたじゃ。しかし……」
「問題でもあるのかしら?」
「このハルバードではそちらのお嬢さん、エルネ様の力には耐えきれませんぞ」
なんですと!?
〇大陸について
・中央 … 最高峰の山々が円環状に連なっている。
内側はドラゴンのテリトリー。
『ドワーフの村』の位置は山脈の外側の中腹、方角は西北西。人間種が生活できる範囲ギリギリの厳しい環境。
・南東部 … 砂漠地帯。
オアシスによる町が点在しており、それらを結ぶことで南北の交易路となっていた。要はシ〇クロード。
フェルペによって中核の町が滅ぼされたため、交易は現在下火となっている。
・南西部 … 草原地帯。
ただし、巨大だったり凶暴だったりする魔物たちの巣窟。ここを通るくらいなら砂漠を抜ける方がマシだというほど危険。
逆に言えば魔物素材の宝庫でもあるのだが、身の程知らずの者たちがヒャッハー!と突撃していった結果、キャスライノスにプチッとされるのが定番になっている。
・南方 … 独自文化が栄える隔離された桃源郷。
豊かな海と大地の恵みに富む。立地上外敵がおらず、傑物とその仲間たちによって大国が興っては内部からの腐敗によって滅びて戦乱の世になる、というサイクルを繰り返している。
南の海上には更にもう一つ独自の文化を持つ島国がある。
いつからチューカやニホンが東にあると錯覚していた?創作の世界だもの。南にあったっていいじゃない!(なお変更される可能性もあります)




