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20 旅立ち

あけおめ三回目!

本日は全部で三話更新しています。読み飛ばしがないか注意してくださいね。

 その日、屋敷前の広場には大勢の人――ドラゴンだけど――が集まっていた。


「エルネちゃん、忘れ物はない?お弁当は持った?水筒は?それからそれから……」

「ママン、落ち着いて。全部持ったよ」


 あたふたと落ち着きがないママンに、ちょっぴり呆れながらもニコリと微笑みかけるボク。そんな様子を集まっていた連中は微笑ましげに見ていた。

 ママンは若い頃――今でも十分に若いけどさ――は先代の長だったお祖母ちゃんの一人娘な上に歴代トップクラスの力を持っていたこともあって、近寄り難い孤高のお嬢さまという雰囲気だったらしい。それが過保護気味で心配性な母親になってしまったということで、集落の皆からは人気急上昇中なのだ。


 ちなみにパパンの幼少期は落ちこぼれだったらしいよ。だけど卵の頃から一緒だったママンが孤立していくのを見かねて頑張っていたら時空の力に目覚めて、いつの間にか長になるほどの実力となっていたとか。……どこの物語の主人公なんでしょうねえ。


「………………………………」

「いや、パパンは何か言ってよ」


 この世の終わりがきたかのように絶望しているパパンに苦笑しながら言う。

 出発の日が目前に迫って来るにつれて、徐々にこんな風になってしまったのだよねえ。どうやらボクの旅立ちに関してはママンと同じかそれ以上の葛藤があったようで。


「やれやれ。こっちもやることが山積みなんだけどね」


 頭痛をこらえるように額に手を添えながら、ため息を吐くお祖母ちゃん。フェルペの件で集落の防衛に色々と穴があることが判明してしまったからね。現在はその対策や組織の立て直しが行われている真っ最中なのだ。

 まだ朝一と呼べるくらいの時間だから聞こえないけれど、もう少ししたら今日も若手ドラゴンたちの元気な悲鳴が轟いてくることでしょう。


「お祖母ちゃんには面倒な役目を押し付けちゃってごめんね」

「今までおろそかにしてきたことのツケが表に出てきただけのことだからね、エルネが気にすることじゃないさ。先代の長としてそれくらいの後始末はしてやらないと。それに、孫が帰ってくるための場所を守るんだ、これほどやりがいのある仕事はないよ」


 そう言ってニカッと笑う。

 ふおお……。堂に入った仕草がまさに女傑!って感じでカッコイイ!


「ロウイさんも、みんなのことよろしくお願いします」

「ふふ。任せてくだされ。ですから、いつでも顔を見せにお戻りになってください」


 最初の顔合わせとなった会談の間にも同席してくれていたロウイさん、実はパパンやママン、そしてお祖母ちゃんに次ぐ集落でも四番目の強さの豪のお人なのだ。それでいてお祖母ちゃんの時代から長のサポートをしてきたという宰相的な立場もこなせるマルチな才能を持っていた。

 パパンたちいわく、もしも今いきなりロウイさんがいなくなると、割と本気で集落がヤバいらしい。


「おーい、エルネ様ー!」

「ごめんなさい、通してもらえますか」


 人垣をかき分けて現れたのは紅色髪と蒼色髪の美女コンビ、クレナさんとアオイさんの二人だった。

 おやおや?何かを大量に抱えている?というか明らかに顔よりも高いところまで積み上がっているのですが?

 絶対前見えないよね?どうやって歩いてるの?


「二人とも、なにそれ?」

「餞別よ、餞別。着る物は何着あっても困らないでしょ」」

「それにここと違って外の世界ではお金が必要になります。その点服ならそれほど嵩張らないので換金するにはちょうどいいだろうとアオイが言い出しまして」

「そういうこと。アイテムボックスだっけ?エルネ様なら大量に物を持ち運べるでしょうけど、できればあの能力は隠しておいた方が良さそうだもの」


 言われてみれば確かに、重さも大きさも無視して運べるなんて便利過ぎる能力だ。

 隠しておくべきだという二人の意見はもっともだわね。


「ありがたいんだけど、勝手に持ち出しちゃって大丈夫なの?」


 全部衣料品倉庫に置かれていたやつだよね?歴史的な価値のある物が紛れていないかしらん?


「倉庫の隅に置かれたままになっていたから問題ないわよ。そうですよね、ハハムート様」

「もちろんよ!エルネちゃんの役に立つ方がいいに決まっているわ!」


 親バカ満点のママンの言葉に、皆が頬を引きつらせているのですが?


「一応、同じ意匠がある物ばかりを選んでいますので、問題はないかと」


 クレナさんの補足に、まあ、それならいいかという雰囲気が広がっていく。


「そういうことなら活用させてもらうね。……あ、棘付き肩パッドはいらない」

「なんで!?」


 いや、絶対に似合わないもの。

 というか、何がそこまでアオイさんを棘付き肩パッド推しにさせるのか……。謎過ぎるよ。


「ところでエルネ様、最初の目的地はドワーフたちの村に変わりはありませんか?」

「うん。この子を直してあげたいし」


 取り出したのは、はぐれドラゴンに悪魔という強敵との戦いを経たことですっかり手に馴染んだハルバードだ。が、その先端にある槍の穂部分だけは他と違って大きく劣化していた。フェルペとの打ち合いで彼女の毒が付着したことで腐食してしまったようなのだ。

 ドラコロ、ドラゴンも一撃でコロリの毒という、特級危険物に指定されてもおかしくないトンデモ劇薬だったみたいだし、逆によく耐えてくれたものだとも思うよ。


 『ドワーフの村』はドラゴンが暮らす集落がある盆地を取り巻く大陸最高峰の山脈の外側中腹にある巨大な洞窟を利用した半地下都市らしい。

 元々はドワーフが一流の技術者になるために修行するための土地だったそうで、そこに家族や支援者たちが集まるようになり、今ではとてもではないが『村』とは呼べないほどの規模になっているのだとか。

 ここなら業物のハルバードであっても修理できるはずだよね。


 余談だけど、ただでさえ高山で人が住めるかどうかギリギリの立地条件に加え、集落出身のドラゴンで外の世界に出て暮らしている変わり者たちの内の数体が拠点にしていることもあって、一般的には知られることなく、伝説上の都市に近い扱いを受けているそうだ。

 だからこの世界の常識に疎いボクが、様々な情報を仕入れるにも都合が良い場所だと言える訳です。


 さて、名残惜しいけれどそろそろ出発の刻限だ。そろそろ最後の大仕事を始めますか。


「ママン、パパン。こっちに来て」


 呼びかけると、二人とも泣きそうな顔になっている。

 あらら。これじゃあ、どちらが子どもだか分かったものじゃないよ。仕方のない両親だね。


 苦笑しながら近寄ってきた二人の腕をぐいと引き寄せてまとめて抱きしめる。


「こんなボクを娘として受け入れてくれてありがとう。二人の子どもに生まれてくることができて良かった。大好きだよ」

「エルネ……」

「エルネちゃん……」


 きっとここが、この世界でのボクが帰ってくる場所。

 だからね、


「いってきます!」


 バイバイでもさよならでもなく、この言葉で旅立つのだ。


はい。という訳で第一章はここまでとなります。

明日からも引き続き第二章を更新していきますのでよろしくお願いします。もうちょっとは一日に二回更新を続けられそうかしらん。

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