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19 悪魔来りて

あけおめです。0時に一話投稿しております。読み飛ばしがないかご注意ください。


前半はエルネ視点 → 後半は第三者語りでの彼女の話となります。

「うーん……」

「どうしたの、エルネ様?」

「改めて思い返すと、結構乗せられた部分も大きかったのかなあ、とね」


 もしかするとフェルペは、ボクの妨害によって生誕の地の破壊が失敗したと気が付いた時点で、こちらの情報を集めることに作戦を転換していたのかもしれない。


「いや、それはないでしょ。ネタばらしをされているときのあいつの態度は間違いなく本当に動揺していたものだったわ」

「私もそう思います。ですがその後の戦闘は、言われてみれば手を抜いていた可能性はありますね。噂に伝え聞く悪魔というのは、一国の軍隊を相手にそれを軽々と滅ぼし尽くせる存在ばかりですから」


 なんですと!?

 ……誇張されているところもあるだろうけれど、悪魔の中にはそれくらいの力を持つ者がいると考えておくべきかしらね。

 フェルペだって例えば、飲み水や食料に毒を混入させる、上から順番に指揮官を暗殺して混乱しているところに毒を散布する等々、やり方次第ではそのくらいの損害は出せるだろうし。


「キレたような態度も本気を出していないことを隠すための演技だったのかな?」

「最初はそう見せかけるつもりだったのかもしれないわね。だけどエルネ様に煽られた辺りからは割と素でキレていた気もするわ」


 ああ、確かにあの頃の動きは本当に単調で分かりやすかった。

 だけど、最後の攻撃を受けたふりをして逃亡する流れを考えると、ある程度で正気に戻っていたような気がする。どういう理由があって逃げることを選択したのかは分からないけれど、生き延びたというのはこちらも同じだったのかもしれない。


「ところでさ。悪魔と、あとアオイさんがやけにびっくりしていた悪魔王ってなんなの?」


 そういえばと思い出したので問いかけてみれば、二人は互いに顔を見合わせる。が、いつもの常識を知らなかったことへの反応とは違うような?


「悪魔に関してはよく分かっていない、としか言い様がありません。ただ、初めからいた訳でもこの世界で生まれた訳でもなく、何処(いずこ)からかやって来たのだと言われています」


 そしてある意味一番肝心な、他種族にちょっかいを出してくる理由も良く分かっていないらしい。

 意思疎通はできても、それ系の質問は全てはぐらかされてしまうのだとか。


「さっきも言ったように悪魔はとてつもない強さを持っていて、悪魔王はそんな悪魔たちを束ねていると言われているわ。ただし、こちらは噂ばかりだったの」


 悪魔のフェルペが悪魔王のことに触れたから、「やっぱり実在していたのか!?」と驚いてしまったとのことだった。


「だけど冷静になってみると、こちらもエルネ様が言ったようにブラフだった可能性もありそうだわ」

「策が失敗したことで逆に反撃を受けるかもしれないと危機感を抱いたのかもしれませんね。悪魔王ともなればどれだけ強大な力を持っていたとしてもおかしくはない。我々ドラゴンでも安易に手を出すことは躊躇してしまいますね」


 なるほど。こちらの出鼻をくじくには絶好の(ハッタリ)だったという訳ね。


「とりあえず、この世界は面倒で厄介なやつらに目をつけられた、とでも思っておくよ」

「……まあ、その認識で(おおむ)ね問題ないでしょう」



 〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆  〇 ◇ △ ☆   



 エルネたちが悪魔について話していたのとちょうど同じ頃、ドラゴンの集落がある大陸中央からは遠く離れた僻地に、とある人物が転移していた。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……」


 荒い息を吐きながら蹲る彼女の額からは大量の汗が噴き出しており、ポタリポタリと垂れ落ちては地面黒い染みを作っていた。


「生きてるぅ?私ぃ、生きているわよねぇ?」


 ベタベタと顔や体に触れて回りながら神経質な声を張り上げる。そのたびに土埃にまみれていくのだが、まるで気にした様子はない。否、気にかける余裕すらないという方が正確か。

 普段の彼女を知るものが見れば、本当に同一人物なのかと二度見どころか三度見してしまったことだろう。

 生誕の地での一件、特にエルネとの戦闘はそれほどまで悪魔フェルペに恐怖を刻み込んでいたのだった。


「なんなの!?本当に何なのよあいつぅ!!……この私の攻撃がまるで通用しなかったですってぇ!?」


 反省会で考察されていた通り、確かにフェルペは本気ではなかった。しかしそれは全力を振り絞ってはいなかったということであり、決して意図的に力をセーブしていたというものではない。そもそもの話、エルネは手を抜いて対応できるほど生易しい相手ではなかった。


「確かに私はまともに戦うのは得意じゃないわよぅ。ええ、ええ。どちらかと言えば暗殺や奇襲が専門だものぉ。でもねぇ、悪魔相手に互角どころか圧倒するとかあり得ないでしょう!?」


 馬鹿力なのはあの姿でもドラゴンなのだから理解できないでもない。そこは素直に負けを認めようではないか。しかし、自信のあったスピードにまで追いついてくるのはどういうことなのか。

 その上毒による攻撃の対応にもやけに慣れている風だった。これではもう完全に打つ手なしである。最後に一瞬隙を見せたかと思い攻勢に出てみたが、とんでもない隠し玉によって危うく仕留められてしまうところだった。


咄嗟(とっさ)に防げたのは幸運だったわねぇ。だけど、ウグッ!」


 見た目こそいつも通りだが、衝撃波を無理矢理抑え込んだ両腕は相応のダメージを受けており、芯からズキズキと鈍い痛みを放っていた。


「……しばらくの間戦いでは使い物にならなさそうだわぁ」


 言うまでもなく彼女のメインウェポンは毒爪だ。それが使えないとなれば活動を休止するしかない。

 もっとも、今の状態でも人間種相手であれば後れを取ることはそうそうないのであるが、エルネへの敗北によってフェルペは、こと戦いにおいては完全に悲観的な思考に陥っていたのだった。


「……そうねぇ。これを機に本格的に策謀に手を付けるのもいいかしらぁ」


 最終的に引っ繰り返されてはしまったが、それまではドラゴンたちを絡めとることに成功していたのだ。ならばそちらの方面を鍛えていけば、直接戦うことなく相手を追い詰める手札となるだろう。

 ……後ろ向きなのだか前向きなのだか、微妙に判断に困る考えである。


「そうと決まればぁ……、まずは大都市をめぐって『野薔薇姫物語』のコレクションを増やさないと!」


 突然な話題転換のように感じるかもしれないがそうではない。彼女にとって策謀の最大の指南書は歴史書でもなければ軍略本でもなく、『野薔薇姫物語』シリーズなのだ。

 もちろんお話の方もしっかりと堪能しており、既に所有しているものに関しては重要な台詞を(そら)んじることもできれば、展開を順に追って話すことだってできてしまう。

 色々な意味で「違う、そうじゃない……」とツッコミどころが満載なのだが、幸か不幸かこの場には悪魔が一人たたずんでいるだけなのだった。


「……そ、そろそろ外伝シリーズ以外の非公認本にも手を出してみるべきかしら?」


 不意に、赤い顔でソワソワし始めるフェルペ。

 彼女が偽書や偽典シリーズに手を出してしまい、新たな沼に堕ちてしまうのか否か。それは誰にも分らない……。


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