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17 暴露する

あっという間に年の暮れですね。……って、連載開始から約一週間なんだから当たり前か。

皆さま良いお年を。

「いやはや、読んでみてびっくりしたよ。本当に今回の事件と瓜二つの展開だったからね」


 舞台を現在の生誕の地に戻しまして。動揺する悪魔フェルペを前に元ネタにしただろう本、『野薔薇姫物語 外伝ー卑劣なる罠の章ー』との類似点をつぶさに語ってやる。

 そのストーリーは、都で暗躍する謎の男が張り巡らせた策略を打ち破り、隣国との戦争を回避するため野薔薇姫こと王女アンリが奮闘する、というものだ。


 なお、ネタバレ防止のために作中の黒幕が誰だったのかは伏せさせていただきます。


 フェルペの策は作中に登場する敵のものと酷似、というか丸ごとパクっていた。

 例えば、ママンによって発覚のきっかけとなった『ドラゴン至上主義』は『ロザリアン至上主義』だったし、(そそのか)されるのは、将来を有望視されながらも増長した騎士見習いの若者たちに、素行不良で軍を除隊させられた暴れん坊どもと、こちらも完全に一致している。

 まあ、本の方では主戦派貴族という内憂が彼らの後ろ盾になって加わることで処罰することができなくなり、より事態が深刻化していくことになるのだけれど。


「それと、民衆に恨みや怒りを植え付けるために重要な土地を狙うのも同じだよね」


 こちらでは生誕の地だったが、作中では半神の大英雄として(あが)められ王国民の精神的支柱となっていた初代国王の霊廟(れいびょう)が目標とされていた。

 不穏な噂を聞き駆け付けたアンリたちだったが、目の前で隣国の間者(スパイ)に扮した黒幕一味が発射したバリスタの巨大な矢によって門の一部が破壊されてしまう。これによって主戦派の勢いは増し、甘い汁を吸えなくなっては大変とその他軍閥貴族たちも同調、更にアンリにも政略結婚の話が持ち上がり絶体絶命!

 ……となってからの華麗な逆転劇が痛快で、外伝シリーズの中でも五本の指に入るほどの出来栄えだと評価の高い一冊となっております。


 話をこちらの襲撃に戻そう。フェルペが隣国のスパイの代わりにドワーフをチョイスしたのは、ハルバードの逸話――ボクが借りたままになっているアレのこと――を知っていたからではなく、山脈を越えることができるのは彼らくらいのものだと考えたからだろう。

 要はどの種族でもよく、ドラゴンたちに外の世界の人間種に敵対心を抱かせればそれでよかったのだ。とはいえ、身代わりにオーガを使うのはサイズ的にどうかと思うの。


「でも、その巨体のお陰で見つけられたんだから結果オーライかな」


 ここまで忠実に再現していたならば攻撃方法もバリスタを用いたものになるだろう、と予測はしていたものの、いかんせん生誕の地を狙えるような場所はいくつもあったので、探索を開始してから発見するまでに思っていた以上の時間がかかってしまったのだった。

 岩陰にオーガの姿を見つけたのが二日前で、布やら何やらで巧妙に隠されていたバリスタを確認できたのは昨日のことだったからね。実は結構ギリギリでした。


 余談だけど、クレナさんたちが生誕の地に到着したとほぼ同時に、オーガはハルバードの一振りで首チョンパされており、バリスタもアイテムボックスの中へのお片付けが完了していたよ。


 フェルペの一番の失敗は、主戦派貴族に相当する内憂存在を作り出すことができなかったことだろうね。いや、それ以前にドラゴンたちの怠惰というか面倒くさがりな気質を理解していなかったことの方が問題かも。

 多分、外の世界で他種族の人たちに迷惑をかけまくっている粗暴なはぐれドラゴンたちだけを見て、これならいけると思い込んでしまったというところか。


「え!?私たちあいつらと同じだと思われているの!?」

「それはとても心外なのですが……」


 そんな想定を伝えたところ、アオイさんもクレナさんも憤慨していた。でもさあ、集落から追放しただけでその以降は完全に放置だからね。暴れても何のお咎めもないとなれば、認められた行動なのだと勘違いしてもおかしくはないというものだよ。

 そもそもの話、外界と隔てられた山脈の奥にある集落の存在を知る者は少なく、外の世界の人々にとって『ドラゴン』とは凶悪なはぐれドラゴンたちのことなのだ。


 事情の一切も知らされずに見たことのないものを想像しろなど無茶振りもいいところだよ。

 外の世界への関心が薄かった罰だとでも思って、ドラゴンは粗野で凶暴だというイメージを持たれていることは甘んじて受け入れるべきでしょうよ。それが嫌ならもっと他の種族たち、特に人間種との交流を行っていくべきだろう。

 まあ、それはそれで様々な面倒事や問題があるだろうけれど。


 おっとっと、いけないいけない。ついつい思考が別方向へと進んでしまうところだった。

 さてさて、ボクの説明によって策が見破られていたことに気がついたフェルペは、ついに動揺よりも悔しさや怒りが勝ったようで、般若(はんにゃ)なお顔で「ウギギギギギ……!」と唸り声をあげていた。

 おー、青白かった肌に血色が戻ったようで健康的に見えるよ。まあ、どこからどう聞いても煽り文句にしかならないだろうから言わないけれど。


「フヌヌヌヌ!……お前が現れるまではすべて順調に進んでいたというのに!お前さえ、お前さえいなければぁ!!」

「うわっと!?」


 言わなかったのにブチ切れられた!?

 鋭い踏み込みからの腕の振りを大きく距離を取って避ける。脳裏に走った嫌な予感に従ってみて正解だった。フェルペの指先からは禍々しい色合いの爪が伸びているし、手首の外側辺りからも刃物状の突起が飛び出していた。


「チッ!『ドラコロの毒』を持つ私の爪を避けるとは運の良いやつめ!」

「ど、ドラコロ?」

「ふん!『ドラゴンも一瞬でコロリ』の略よ!」


 略称の可愛らしさに反比例した物騒な効果だった!?


「やはりお前は危険だわ。我ら悪魔の悲願、そして悪魔王様のためにもお前だけは必ずここで殺す!」

「悪魔王ですって!?」


 アオイさんが何やらビックリしているけれど、再度襲い掛かってくるフェルペを相手取ることになったボクにその理由を問いかける暇はなかった。後でちゃんと教えてよね!


「えいっ!このっ!ちょこまかと逃げ回りやがって!この卑怯者が!」

「ヤバい毒を使ってくる人に言われたくないなあ!」


 その危険度が分からない以上、掠っただけでもアウトだと考えておくべきだろう。


「エルネ様!ただ今加勢を――」

「二人とも近付いて来ちゃダメ!」


 別にここはボク一人でやる!、なんて格好をつけるつもりはないよ。

 ただ、ドラゴンという巨体は素早く動くことには適していない。毒の形状によっては鱗の隙間から侵入することだってあり得るから、クレナさんたちとの相性は最悪に近いのだ。

 そういう点も加味した上でフェルペがドラゴンの集落に派遣されたのだとすれば、悪魔たちはなかなかに侮れない存在だと言えそうだよね。


次話は年明け0時に投稿予定です。

その後でいつも通り二話投稿します。

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