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13 ドラゴンの集落にて

「うっうんん!今日もいい天気だねえ。寒いけど」


 盆地とはいえ平地に比べると随分と標高が高いらしいからね。生誕の地が重宝される訳ですよ。

 しかしそれ以上に問題なのが、周囲を取り囲んでいるのが大陸最高峰の山々のため日照時間が短いということだ。ようやく太陽の光を浴びることができるようになったばかりだけれど、実はもう午前中の半分が終わろうとしている時間だったりする。


 さて、はぐれドラゴンたちを撃退してから早くも一月が経っていた。クレナさんたちによる若手ドラゴンへの再訓練という名のしごきは順調のようで、毎日のように聞こえていた悲鳴も今では絶叫に代わっているという……、あれ?もしかして悪化してる?


 まあ、彼らのことはともかくとして、ボクはと言いますと、


「エルネ様、おはようですじゃ」

「はーい。おはよー」

「エルネ様!また冒険の話を聞かせて欲しいのですが!?」

「はいはい。今度は闘技場で二百連勝した話でもしようかな」

「ぎゅおっ!ぎゅおお!」

「ほいほい。遊ぶのはまた後でね」


 すっかりドラゴンの集落に馴染んでいた。旅立つ準備以外には特にやることがなかったのをいいことに、あちこちに顔を出して回っていた甲斐があったというものだよ。

 長の子どもということもあって受け入れてくれる雰囲気が最初からあったのも確かなのだけど、一番の理由は前世の記憶がウケたことにあった。


 実は集落のほぼ全てのドラゴンたちが、冒険譚の大好きな夢見るお年頃だったのだ!長であるパパンからして『南海覇王伝説』が愛読書だと言えば、その熱狂ぶりの一端くらいは理解してもらえると思う。

 なお、自分たちが圧倒的強者という自覚があるためか、知恵と勇気と友情で、困難な出来事や凶悪な敵を打ち破っていく展開に胸が熱くなってグッとくるとのこと。くれぐれもブレスで発散することがないようにして欲しい。


 で、それならとパパンやママンそれにお祖母ちゃんには伝えていた前世の記憶を、冒険メインの物語風にお話してみたところ、熱狂的なファンたちが生まれてしまうまでになったのだった。

 今ではボクが話した内容を文章に起こす作業をしている人たちまでいる始末だ。まあ、何をするでもなくダラダラと日々を過ごすよりは、熱中できることがある方が良いのかもしれない。


 ああ、それと自分が構ってもらっていたことをやってあげたら、パピーたちにも懐かれることになったよ。でも、ドラゴンだけあってデカいのよね……。

 力はこちらの方が上だから潰されるようなことはないのとはいえ、自分よりも大きい相手から圧し掛かられるのはどうにも落ち着かない気分になってしまうのでした。


 それでもあのつぶらな瞳で見つめられると、多少のやんちゃくらいは許してしまうのだよねえ。ボクが甘えるのを笑って許してくれていたお母さんたちも、同じような気持ちだったのかな?

 まあ、あの頃は目どころか顔もなかったのだけれど。今更ながら前世のボクって色々と謎生態過ぎないかな?ツルスベ卵ボディって何さ!?


 そんな風に集落では平和な時間が流れる一方で例の黒幕探しも続けられていた。のだけれど、こちらはどうにも難航していた。聞き取り自体は簡単だったらしいよ。若手連中はもちろん、はぐれドラゴンたちも拍子抜けするぐらいあっさりと話したのだそうだ。


「エルネ様がガツンとやってくれたおかげで楽ができたわあ。特にあのブレスと牙折りがトラウマになったみたいでね、あいつらこの前のことをちょっと(ほの)めかせただけでぺらぺらと喋ってくれたのよ」


 ……うん。まあ、アオイさんたちのお役に立てたなら良かったよ。

 それなのになぜ黒幕探しが難航していたのかと言うと……。


「若手たちはそうでもなかったんだけど、はぐれドラゴンたちの話を繋ぎ合わせていくと整合性が取れなくなるのよ。だけど、どいつもこいつも嘘を吐いているような様子ではないの」


 例えば、はぐれドラゴンA、B、C三体の話をまとめると「黒幕ははぐれドラゴンDらしい」ということになるのに、いざDから話を聞いてみれば「お、俺っちはAとBからドラゴン至上主義のことを聞いたっす!?」と返ってきてしまうのだとか。

 当然、アオイさんたちは「誰かが嘘を吐いているのではないか?」と考えたようなのだが、先の言葉にもあったようにそんな様子は見られなかったそうだ。


「アオイさんたちが気付かないくらい上手く騙したとか?」

「あいつらが?ないない!そんな腹芸ができるなら、あんな所で燻ってなんていないわよ」


 どういうことか説明すると、実は先日集落にやってきた連中は、はぐれドラゴンの中でもヘッポコな部類とのことだった。言われてみれば確かに追い出された集落のすぐ近くで暮らしているなんて、普通なら気まずくてできはしないだろう。


「あいつらは外の世界に飛び出していく気概もなければ、外の世界でやっていける自信も持ち合わせていない小心者のおバカどもなのよ」


 それでいて集落の皆にはルールを守らず暴れたりして迷惑をかけていたのだというのだから、おバカ呼ばわりされるのも仕方がないというものか。

 とはいえ、長く生きていれば腹芸の一つくらいはできるようになっていても……、無理かな。心の仮面(ペルソナ)というものは良くも悪くも他者と関わることで形成されていくものだからねえ。自分本位なまま単独で暮らしていては成長するはずもない。


 ちなみに、はぐれドラゴンの中でも気骨のある者、とりわけ集落から自分で出て言った連中の多くはそのまま周囲を取り囲む山脈を飛び越えて外の世界へと旅立っていくらしい。

 ここで終わりであれば、自らの運命を切り開いていく無謀なれども勇気ある若者たち、とも言えなくはないのだろう。が、これには続きがありまして……。


 世間知らずで社会性も協調性もないが、力だけは強い彼らが行き着いた先々で問題を起こさないはずがなく。荒ぶるドラゴンとして畏れ敬われるくらいならまだマシな方で、邪竜や魔竜として忌み嫌われた上に長年他種族と争い続けているような個体もいるらしい。

 絶対数が少なくてしかも生活圏がまるで違うにもかかわらず、人間種にドラゴンが恐れられているのは、外の世界に飛び出したはぐれドラゴンが周囲に無自覚なまま迷惑をまき散らしているから、なのでした。


 やんちゃで調子に乗っている連中の(しつけ)くらいしっかりしてよ!と言いたい。

 でも、無理だろうなあ……。集落での社会的集団生活をしているドラゴンたちだけれど、弱肉強食の自然の摂理が根底にはあるようなのだよねえ……。

 逆に言えば、だからこそ世界を支配しようとはしない、とも言えるのだけれどね。


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