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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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107 子どもたちの交流と王太后様との会話

 さてさて、なんだかいろいろな事件に巻き込まれてしまったけれども、今回の表敬訪問の目的はアルスタイン君とシュネージュルちゃんの二人がローズ宗主国にあるローズ国立学園へと入学するに先立って、同年代の貴族の子どもたちとの交流を行うことだ。

 それがたとえ表向きのお題目だとしても、行わない訳にはいかない。


 ということで始まった交流会だったのだけれど……。


「どうしてこうなった……」


 掛け声に合わせて模擬剣を振ったり杖を手に魔法発動の訓練を行ったりしている子どもたちを前に、ボクは呆然と(うめ)いていた。


 事の発端は二時間ほど前に遡る。王太后様たちの御厚意で学園に入る前の同年代の子どもたちが集められて交流が始まったのだけれど、中にはその意味が理解できておらず上から目線だったり喧嘩上等な態度だったりする子どもたちもいた訳ですよ。

 あ、ボクは二人の護衛役に駆り出されていました。

 もっとも、あの謁見の間で実戦を体験してその上悪魔まで目の当たりにしてしまった二人からすれば、そんなものは小鳥のさえずりに等しいものでしかなかった。あっさりと受け流され、時にはガツンと言い返されてしまい、涙目になっていましたとさ。


 と、これで終わっていれば微笑ましい子ども同士のじゃれ合い?ですんだところだったのだが、なにをとち狂ったのかその口撃の矛先をボクに向けてきたのだ。

 まあ、アルスタイン君がなぜかやたらと自慢げにボクに指示していることを語ったことが原因なのだけれど……。なんと言いますか、そういうところはまだまだお子ちゃまだよね。


 話を戻しますと、彼の口撃の仕方もまた不味かった。なんと冒険者全体を貶めるような言い方をしてしまったのだ。ボク個人への誹謗中傷であれば適当にあしらうだけで良かったのだが、冒険者そのものに対する無礼であればそうもいかない。

 魔物との戦いは常に死の危険が付きまとっているからね。舐められたままでは終われないのだ。


 なので「その下賤な冒険者の実力を味わわせてあげようか?」と挑発して、乗ってきたお坊ちゃんたちを片っ端から転がしてやりました。笑顔で毒を吐き合うのが貴族の常態――個人の感想です――なのに、そんな煽り耐性の低さで大丈夫なの?と不安に思ったのは内緒です。

 ともかく、これで少しは大人しくなるでしょうと思っていたところにアルスタイン君が爆弾を投下してしまう。


「負けたことを気にすることはないさ。なぜならエルネ師匠は一人でソードテイルレオを倒す実力者なのだからね!」


 悔しそうにしていた子どもたちの瞳がキラッキラと輝くものへと変化した瞬間でした。

 いや、尻尾の剣が貴族たちに大評判だという話は聞いていたし、少年たちは強いものに憧れるお年頃なのだろうと理解できたのだけれど、見ていただけの御令嬢たちまで同じく感激した様子なのはなぜ!?……ばったばったと次々になぎ倒していく様子がアンリ姫のようだった?

 ああ、『野薔薇姫物語』は西方諸国の貴族たちの間では必須教養みたいになっているのね……。


「うふふ。エルネ様の御指導は実戦的なものが多いですから、とてもためになるのです」


 シュネージュルちゃんの一言が止めとなりました。まあ、いざという時のために戦闘や魔法の訓練をしておくことは悪いことではないか、と半ば無理矢理納得させることにする。現実逃避とか言わないで。

 ただし蛮勇にならないように言い聞かせておく必要はありそう。中には次男三男と家を継ぐことができずに騎士になる道を進む子もいるかもしれないが、基本的に彼ら彼女たちは守られる側の人間だからね。


 こうして予想外の方向に突き進んでしまったが、子どもたちが仲良くなれたのだから当初の目的は果たせていた、はず……。報告を受けた王太后様から後日個人的に呼び出されることになり、詳しい話をする羽目になったのは予想外だったけれども。

 なお、よくやったと褒めてもらえました。なんで?


「カール王家が元々ロザルォド大王国時代の大貴族であり、重鎮たちも初代に見いだされた有力貴族たちだったという経緯もあって、この国では身分差や階級差が大きかったのですが、近年では特権意識に固執して民を虐げる者が増えていました。エルネ殿の行いはそこに風穴を開けるきっかけとなったのかもしれないのですよ」

「もしかして、先々代のシャルルへの遷都もそのことに関係していたりする?」

「あらあら?そこまで気が付いておりましたのね」

「放蕩王と呼ばれる割に、遷都以外の悪評を聞かなかったから。わざとそういう評判を流しているのかな、とね」


 旧王都の周囲はぐるりと大貴族の領地に取り囲まれていたからね。彼らの力と影響力を削ぎつつ王家の身の安全を確保することがシャルル遷都の目的の一つだったのだろう。

 他にも諸外国、特に軍事力を増大させているという噂のチェスター武王国からの侵略に備えるという面もありそうね。


「……ほんにエルネ殿は博識であらせられますこと。どちらも正解ですわ。聖神教のホーリーベルトが確立して以来チェスターは拳を振り下ろす先を探っている節があります。そしてまるでそれに呼応するかのように我が国でも好戦的な一派が台頭し始めたのです」


 その中核にいたのが旧王都周辺に所領を持つ大貴族たちだったそうだ。


「今にして思えば、それも悪魔の策だったのかもしれません」


 なるほど、確かにそう見えなくもないね。とはいえ寵姫に化けていた霊体悪魔もライザさんを誘拐した少女悪魔も杜撰な部分が多かった。複数の国をまたにかけての大規模な策謀を主導できるほどの実力はなかった気がする。

 現にドコープ連合国での一件、ウデイア領の砦への魔物大群の襲撃についてはどちらも一切知らなかったようであるし。


「エルネ殿は別の存在がどこかに潜んでいると考えておられるのですか?」

「まあ、勘だけれどね」


 色々と黒幕気取りで策を練っているやからがいるような気がするよ。

 まあ、見えないどこかの誰かについてはこのくらいにして。せっかくの機会だから遷都の理由についてもう少し突っ込んで尋ねてみるとしますか。


「あと外海に近いこの場所を選んだのは、船を使った輸送とその先に交易を見据えていたからだと予想したのだけど、どうかな?」


 その瞬間、王太后様の顔から一切の表情が消えた。


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