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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
106/108

106 後始末が始まる

 物事を始めるよりも終わらせる方が大変、というのはよく聞かれることでして。その例にもれず、霊体悪魔を退治してから後はとてもとても大変だった。


 あの場にいた近衛騎士の面々は王や近侍たちを保護したことで最低限の面目こそ保たれたとはいえ、悪魔という超特大の危険物が宮殿内に入り込んでいたことに気が付かず、あまつさえ王を操られていたという事実は覆らない。上から下まで厳しい処罰が下されることになるでしょう。

 ……普段ならば、ね。


 今も述べたように、王様は精神を操られるという一等の被害者であり、同時に一番の大失態を犯してしまった戦犯でもあるのだ。それをさておき騎士たちばかりを非難し処罰を行っていけば、ただでさえ地に落ちている求心力が完全に消滅してしまうだろうことは目に見えていた。


 株を落としたと言えば、現場にいたにもかかわらず右往左往することしかできなかった側近や貴族――全員悪魔に踊らされた好戦派の連中だったそうです――たちも同じくだね。王を助けることもせず悪魔に抵抗することもできなかった彼らは、王国貴族としての在り方を大いに問われることになるだろう。

 ライザさんの実家であるサバント侯爵家が早々に今回の事件の責任を重く受け止め爵位の返上を申し出たからね。成りすまされたけれど誘拐された被害者でもある彼らが処罰を望んでいるのに、他の貴族たちはのうのうとしているとなれば批判は免れないはずだ。きっと多くの家で代替わりが進むのではないかしらん。


 その一方で影響力を増大させた人たちもいた。王妃と王太后の二人だ。

 前にも少し説明したけれど、ライザさんと王妃は姉妹のように育った間柄だ。寵姫となったモノが偽物だとすぐに見抜いたものの、既に王は精神操作を受けて悪魔の傀儡となっていた。

 そこで次善の策として王の急な心変わりに心を痛めたという振りで表舞台から距離を置き、裏でサバント侯爵家や非戦派や穏健派の人たちと連絡を取り合い、王や好戦派の暴走を抑え込むことに尽力していたのだそうだ。

 同じく先代国王崩御の際に一線を退いていた王太后も、懐妊しており無理のできない王妃を手助けしていたのだとか。


 悪魔そのものは倒れたが王には精神操作の後遺症がどれだけ残っているのか分からない。加えてその側近たちも影響を受けていたかもしれない。

 いち早く危機を察知して距離を取るという判断をした王妃と、その後ろ盾となっている王太后の一派が国の舵取りをすることになるのは当然の流れだった。まあ、しばらくは後始末に追われる日々になりそうとのことだったのだけれど。


「ふむふむ。状況は分かったよ。……ところで、どうしてそんな国の重大情報をボクがいる前で話しているのかな?」


 王城の貴賓室に集められていたのはアルスタイン君とシュネージュルちゃんに実務のリーダーである交渉担当官殿、に加えてなぜかボクも含まれていた。こちとら根無し草の冒険者なのですが?

 ああ、隊長はじめ護衛のための騎士たちや世話係の侍女たちも数名ずつ控えているので念のため。ただし、こういう時には彼らや彼女たちは参加人数にカウントされないのよねえ。


「エルネ師匠は悪魔を倒したのだから説明を受けるのは当然ですよ。むしろ他国の人間であるボクたちの方が場違いな気がしますが……」

「そのエルネ殿を連れて来てくださったのですから、皆さまにもお話を聞いていただきませんとね」


 アルスタイン君に続いてそう言ったのは、年齢不詳な美女の王太后様だった。にっこり微笑まれて少年が真っ赤になっております。そしてシュネージュルちゃん――だけではなく侍女の皆も――は憧れの眼差しを向けているね。どんなに高く見積もっても二十代後半にしか見えないからさもありなん。

 本当は王妃様も同席する予定だったらしいのだけれど、悪魔が倒れたことで気が緩んだのか微熱が続いているらしい。懐妊中だから無理してはいけないと、ライザさんが付いて静養しているそうだ。


「情けない話ですが、あのままであればいずれ好戦派の者たちを抑えることができなくなり、他国へと攻め込むことになっていたでしょう。そして大敗を喫することとなったはずです……」


 彼女の言葉に子どもたちは目を見開き驚いている。まあ、普通は勝算があって初めて攻め込むものだからね。敗北を確信しているなど理解できない態度だろう。


「二人とも、扇動者が悪魔だったということが頭から抜け落ちているよ。戦禍さえ拡大するならその場所はどこだっていいんだよ」


 むしろ騙されていたと知って絶望が大きくなるから、ディナル国内に大きな被害が出るように仕向けていたかもしれない。


「加えて、現在の我が国の兵や騎士の練度は、他国に比べて大きく劣ってしまっているのです」


 魔物の脅威もなければ、国境を接しているのは元を辿れば同胞の西方諸国のみだ。更に大量の食物を輸出していることで急所を掴んでいるつもりになっていたために、訓練は徐々にぬるいものへとなっていったようだ。


「冒険者との協力体制を確立させたあなた方ドコープ連合国、そして建国当初から武を第一に掲げるチェスター武王国とはまるで相手にならないでしょう」


 そのため国土も小さく保有戦力の少ないローズ宗主国が狙い目だと考えていたようだが、あそこには大王国時代から受け継いだ危険なマジックアイテムが存在している、という噂がまことしやかに囁かれているのだ。

 たとえそれが侵略をためらわせるためのブラフだとしても、あの地には長い歴史を誇る学園があり西方諸国中――たまにそれ以外からも――から優秀な人材が多く集まっている。切り札に足るマジックアイテムが開発されている可能性は高いとみるべきだと思う。


「多少は独自に情報を集めていた者もいたようですが、そもそもの見通しが甘ければどれほどの役にも立たなかったでしょう」


 王太后様の言葉は辛辣ながらも核心を突いていた。あのまま悪魔に扇動され続けていれば、好戦派の貴族たちはどんどん増長していたことだろう。

 いくら正確な情報がもたらされたとしても、活用できなければ意味がないからねえ。


 ドコープには大きな借りを作ってしまったが、これを機に大胆な改革を行えればそれ以外の国が付け入る大きな隙とならずにすむかもしれない。


〇王太后と王家の裏設定その一

 先々代の唯一の実子であり、血筋的には王太后の彼女の方が本流となる。

 ディナル農耕国では男性にのみ王位が与えられるため、婿となった先代が王配ではなく王位を継いだ。


 先代国王は放蕩者だったとされる先々代との対比もあって堅実で優秀な王だとされており、その治世に期待がされていたのだが早逝してしまう。そのため子どもは現国王の一人きりだった。

 こうした直系王族が少ない世代が続いたため、今代では正妃だけではなく側室を早期に決定しようとしていた。


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