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竜姫の冒険 ~前世はVRゲームのテイムモンスター?~  作者: 京 高
第4章  西方諸国2 ディナル農耕国
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101 子どもたちの成長

 玉座とは王を象徴するものの一つであり、王以外に座ることは許されない。

 そんな場所に、しかも王の膝の上に座っている女がいる?あり得ない光景にボクは無意識に声を漏らしてしまっていた。

 だが、今回に限ってはその失敗がプラスに働くことになる。


「こら!」

「し、失礼いたしました!」


 慌てて振り返り注意をしてきたアルスタイン君に促される形で、深々と頭を下げる。

 更にシュネージュルちゃんが一歩前に出ると、惚れ惚れしそうな美しいカーテシーを披露すしたのだ。


「我が国の者がお見苦しいところをお見せいたしました。まさかこのような素晴らしい場に案内していただけるとは想像もしていなかったもので……。わたくしもあまりの荘厳さに呆けてしまうところでしたわ」

「まったくその通りです。僕などはほら、ご覧の通り手が震えて止まらなくなっています!」


 シュネージュルちゃんの謝罪に続いてアルスタイン君が冗談めかして言うと、あちらこちらからクスクスと笑い声が聞こえてくる。

 おおう!?まさかボクの失敗を上手くフォローするだけでなく、場の空気まで掴んでしまうとは!


 一方で不快反応も増大していた。しかし、それはボクたちに向けられているようでいて、その実こちらを素通りした先、ボクの失態の原因へと向けられていた。

 どうやら意外にも玉座の状況を苦々しく感じている人たちは多いらしい。だから当然そうではない輩もいる訳で……。


「ふん!南部の田舎者が。床に跪いて平伏して許しを請うべきであろう!そもそも陛下の御前に従者を連れて現れるなど不敬の極み!」


 突然居並んでいた貴族の一人が叫び出す。ボクは頭を下げたままなのでその顔は見えなかったのだけれど、聞こえてくる言葉の端々から「誰も言えなかったことを言ってやったゼ!」風な得意げな雰囲気が感じられるので、忠臣を演じようとした単なる存在感アピールの可能性が大かしらね。


 なお、例え本当に義憤に駆られての衝動的なものであったとしても、許可を受けずに勝手に発言している時点で一発アウトなレベルでの不敬さだったりします。

 不快感情を漏らしていた人たちに至っては、完全にそれがあらわになってしまっているよ。きっと内心では「恥の上塗りをしてんじゃねえよ、この大馬鹿野郎!」的な台詞を叫んでいることでしょう、


 対してうちの子たちは、事前にとある筋から情報を得ていたこともあって冷静だった。


「そちらの方が(おっしゃ)られる通りですわ。いくら陛下の御厚意により特別に許可を頂いたとはいえ、甘えるべきではありませんでしたわね」


 左手で右肘に触れるように組み、右手を頬に添えながらシュネージュルちゃんがほうと息を吐く。美少女の憂い気な仕草に同情と緊迫が走るのが分かる。

 なぜなら、「は?お前のところの王様が許可したことに文句付けるの?ところであんた誰?」とやり返したからだ。


 うーむ……。この大舞台(じっせん)でレディの能力が一気に開花しちゃったみたい。

 そして成長著しいのは彼女だけではなかった。


「ですがこれでも僕たちは国として正式な使者としての役割を持たされておりますので、平伏させるのはご勘弁を。その代わりではありませんが、こちらの品々をご笑納ください」

「はっ!」


 おや?予定とは違うようだけれど、切り札(カード)の一枚をきることにしたようだ。アルスタイン君からの視線に促され、交渉担当官殿が懐から書状を取り出すと一歩前に進みでて頭を垂れた。

 それを近侍の一人が受け取り、王の側に立っている老齢の男性へと手渡す。(しわぶ)き一つない謁見の間にカサカサと文を開く音だけがやけに大きく響く。


「!?!?……う、おほん!り、両国の変わらぬ友好の証として、以下の物を贈答する。一、ソードテイルレオの毛皮一体分。一、ファングサーベルの毛皮一体分。一、ライトステップの毛皮一体分。一、ソードテイルレオの尾剣さ、三本!?」


 老獪なお人ですら動揺を押し隠しきれなかったようだね。そんな状態で読み上げたものだから、終わった瞬間に謁見の間が大きくざわつき始めた。


 それもそのはず、これまでドコープの国内にまで侵入してくるのはフォートライノスやキャスライノスといった巨大魔物ばかりだった。よって、その他の魔物の素材は相当腕の立つ冒険者たちが草原地帯に潜入――これがまず大変――して狩る――こっちはもっと大変――ことでようやく手に入れることができる超貴重品なのだ。

 それが今回、大盤振る舞いと言えるほど大量に持ち込まれたのだ。驚くなという方が無理だろうねえ。


「もう一ヵ月以上も前のことになるのですが、五十体にも及ぶ草原地帯の魔物たちが我が国に押し寄せたのです。……あ、ご安心ください。精強な我らが騎士や兵たち、それに冒険者たちが一丸となって殲滅していますので。こちらはその記念の品といったところです」


 ほうほう。アルスタイン君ときたらこちらの戦力の大きさを垣間見せつつ、これまでの政策の成果を喧伝までするとはやるね。

 ローズ宗主国やチェスター武王国ほどではないにせよ、ディナル農耕国もドコープ連合国の冒険者優遇政策には批判的な態度だったらしいからねえ。加えて彼我の戦力差、力量差を思い知らせるきっかけにもなったはずだ。


 先に情報を入手することができたお陰で様々なシミュレーションを行うことができていたとはいえ、ここでそれを披露できたのはお見事と言う外ない。二人の成長と堂々とした立ち回りに、ついつい親戚のお姉さん的な目線になってしまうよ。

 まあ、身体年齢だけならボクはまだゼロ歳児だったする訳ですが。


 子どもたちの機転によって初手の攻防は優位で切り抜けることができた。

 しかしながら、まだまだ気は抜けない。なにせ敵の総大将である王様は玉座に着いたまま、一切口を挟んできていないからだ。

 おバカが勝手にしゃしゃり出てきて、二人からの返り討ちにあっただけとすら言える。いや、他国からの要人を招いての場であることを考えれば、処罰されて当然の行いなのだけれど。

 それらを含めて執り成すとか、なにかしらの対応をしなくてはいけないはずなのだ。


 気になって頭を下げたままチラリと覗いてみれば、玉座の二人は周りの様子など何するものぞと見つめ合っていた。

 ……おい、もしかしてこいつら自分たちだけの世界に入り込んでいないかな?


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