10 はぐれドラゴンをやっつけろ!
集落を包囲したドラゴンたちだったが、三体を続け様にノックアウトしたことで唆されていたらしい若手たちが戦意を喪失することになった。
白旗を上げているような連中にまで噛みつくほど見境なしじゃないからね。後はパパンたちにお任せしましょうか。きっと、一面的なものの見方しかできていない考えの浅さや短絡的な行動をきっちり反省させてくれることだろう。
それに、本人たちにとってはこの情けない態度を含めて若さゆえの過ちな黒歴史になるだろうからねえ。ふっふっふ。後から思い返しては精々身悶えするがいいさ。
という訳で、残るは素行不良で集落から追い出されたという黒歴史持ちのはぐれドラゴンどものみ。数にして八体……、かな。パッと見て目に入る範囲に居るのは七体なのだけれど、一体距離を取って隠れ潜んでいるのがいるようなのよねえ。
「なあんか不愉快だね」
ハルバードをくるりと回して穂先を地面に突き刺して立てる。両手をまっすぐ前に伸ばし、掌の付け根から手首にかけてを触れ合わせて上下に開いた。更にぐっと大きく左足を下げて腰を落とす。
「……【ブレス】!!」
開いた掌から魔力を凝縮して生み出した純粋な破壊の力が迸る!
ぐうう……!これ、やっぱりきっつい!発射の衝撃で身体がじりじりと後方へと押されていく。尻尾で支えることでなんとか体勢を維持する。尻尾があったから我慢できたけど、両脚だけだったら耐えられなかった。
「外れた!?」
誰かが叫んだように撃ち出されたそれは、はぐれドラゴンたちに当たることなく虚空へと吸い込まれていく。……でも、それでいいのだ。
「ギョアアアアアアアアアア!?!?」
「!?!?!?!?」
突然何もなかったはずの空間に灰色のドラゴンが浮かび上がる。ブレスの直撃を受けたそいつが意識を失い墜落していく様を、他のはぐれドラゴンたちは呆然と見ているしかなかったのだった。
「ふふん。隠れるつもりなら、まずはその不快な視線をどうにかするべきだったね」
じっくりと観察してこっそりと奇襲を仕掛けてくるつもりだったのだろうが、あれだけ粘りつくように見られていたなら、嫌でも気が付くっていうものだよ。
「視線を感じ取って姿を消した相手の居場所を特定しただと?歴戦の戦士並みの感覚ではないか!?」
「凄いわエルネちゃん!やったわー!」
まあ、戦いの経験は豊富にありますから。そのくらいの感覚は身についていますとも。ところでママン、その両手に持っているポンポンはどこから出したの?
それにしても、ステータスにも技能として記されていたのでできるという確信はあったのだけれど、本当にブレスが出せちゃったわねえ……。しかも口からではなく、両掌からというある意味離れ業です。他の闘技に比べると遥かに心身の消耗が激しいから多用はできないね。
だけど、そんなことは言わなければ分からないものだ。
「あれ?まさか今のが奥の手の切り札だったとか?だったら残念だったねえ。もう諦めてそっちの子たちみたいに降参しちゃえば。そしたらブレスで撃ち落とすのだけは許してあげるよ」
ここは押しの一手で、煽りとハッタリの波状口撃です。怒って冷静さを失うようならばそこに付け入ればいいし、ブレスを過剰に警戒すればそれだけ動きに精彩を欠くことになる。
それこそ戦いの経験が豊富で駆け引きが得意であれば勘付かれるかもしれないが、さっきおばあちゃんがこぼしていた話の通りであれば、はぐれドラゴンたちはどうやらそういったタイプではなさそうで。
案の定、目を吊り上げてはグルグルと唸り声をあげて威嚇を始めている。もっとも、パパンたちは誰一人として慄くことはなかった。全員ボクよりも格上なのだからさもありなん。まあ、唆された若手ドラゴンやギャラリーの中には体を震わせる人もいたけれどさ。
それでは彼らが後々不安に苛まれないように、全員しっかりと潰しておくことにしましょうか。
服の下でピンと羽を伸ばすと、ハルバードを掴んで飛び上がる。そのまま一番近くにいたはぐれドラゴンへと急接近だ。
「どっせい!」
「ギュオ……」
空を飛べないと高をくくっていたのか驚きで固まった顔に、ハルバードの側面をゴイン!と叩き付ける。更にその頭を足場に見立て、思いっきり踏んづけてから跳ぶ!
「【流星脚】!」
勢いのままに次なる敵に防御無視の闘技を放つ。ドゴッ!と横っ腹にめり込み、何番目かのはぐれドラゴンはくの字になったまま落下していった。
それを自前の羽でパタパタ飛びながら見送っていれば、
「グラアアッ!!」
「後ろからという着眼点は良かったけど、できれば無言で近づくべきだったね」
せっかくすぐそばにまで近づいても、最後に吠えてしまっては「攻撃するぞ」と相手に知らせているようなものだ。
浮力を消して自動落下することで背後からの噛みつきを回避する。しかしそこに大木のような尻尾がうなりを上げて迫ってきていた。
「即席の連携としては悪くないかな。だけど、力で押し負けてちゃ話にならない」
微動だにせず片手だけで受け止めてやる。ついでにその尻尾をギュッと掴むと、ぐるりんとその場で一回転しながら巨体を振り回して、
「お返しだよ!」
先のドラゴンへとぶつけてやった。衝突したダメージで意識が飛んだのか、二頭は絡み合ったまま地面に激突する。
んー……、どちらも指の先がピクピク動いているから死んではいないね。ヨシ!
別に死んでも構いはしないのだけれどね。ただ、ほら、殺さずに圧倒する方がより強者っぽいじゃないですか。
残るは四体、……あ、ハルバードとストンピングで目を回しているやつがいるから、三体とちょっとかな。
それならとっとと退場させて、と思っていたら三体のはぐれドラゴンが一気に攻めかかってくる。爪に牙や尻尾、ついには体当たりとその巨大さもあってどれも一撃必殺の危険なものだ。が、
「はっはっはー。当たらなければどうということなないのだよー」
小柄であることを最大限に活かして、ひらりひらりと躱していく。仮にもっと緻密な連携ができていたならば追い詰められていたかもしれないね。しかし、戦いに「たられば」はないのだよ。
「うおっと!?今のは危なかったあ……」
真下という死角からの尻尾のかち上げを斧刃で弾く。というかこのハルバードも大概頑丈だよね。ボクが本気で振るったのに刃こぼれどころか歪み一つないよ。
これは良い武器に出会えたのかもしれない。戦いの最中だというのに、込み上げてくる微笑みを止められないボクなのでした。
か〇は〇波? ド〇オーラ? し、知らない子ですねえ……。ぴー、ひひゅるー。




