九十一話 花畑の罠①
ふつうに『好き』と言うだけでは芸がない。
かといってこんな場合に使えるボキャブラリーなど皆無だ。慣れないなりに、アレンは必死になって頭を絞る。
必ず幸せにする。
……それはもう、会ったその日に言ってある。
俺と一生を添い遂げてほしい。
……一発目でこれは重いのでは?
おまえにこの世のすべてを捧げよう!
……完全に悪役のセリフだし、やっぱり重い。
ろくなセリフが浮かばず、ああでもないこうでもないと悩み続けていると――。
「アレンさん!」
「うおっ」
そこで慌てたような声がかかった。
顔を上げれば、シャーロットが慌てた様子で駆け寄ってくるところだった。
そのそばにルゥの姿はなく、ただ事でない様子が見て取れる。おかげで浮ついた気分が一瞬で吹き飛んだ。
「お、お休み中のところすみません……! でも、大変なんです!」
「いったいどうした。ルゥに何かあったのか?」
「ルゥちゃんは見てくれているんです……でも、あの、私じゃどうにもできなくて……」
シャーロットは肩で息を切らせて、途切れ途切れに言葉をつむぐ。
その顔色はアレン以上に真っ青だ。花畑の向こうを震える指で示し、彼女は悲痛な面持ちで叫ぶ。
「向こうの方に、怪我をしたドラゴンさんがいるんです!」
シャーロットの案内のもと、アレンは花畑を突っ切った。
すると小高い丘のただ中――すこしだけ窪地になった場所にルゥがいて、その視線の先に小さなドラゴンがうずくまっていた。
小さいと言っても、ドラゴンの平均サイズに比べれば……の話だ。
身の丈およそ三メートル。薄緑色の鱗に覆われたその身を丸め、か細い声で鳴いている。
その姿を目の当たりにして、アレンは小さく感嘆の声を上げた。
「おお……法竜の子供か。これはまた珍しいな」
「そうなんですか?」
「うむ。平たく言うと、魔法をはねのけてしまう種族でな」
ゆえに、アレンのような魔法使いにとっては天敵である。
普段は洞窟のような穴蔵で静かに暮らす種族なので、外で見かけることはきわめて稀だ。近くにあるというダンジョンから出てきて、怪我をして帰れなくなったのかもしれない。
(……しかし外傷は見当たらないな?)
見る限り、ノーブルドラゴンは傷ひとつ負っていなかった。
しかし数メートルの距離まで接近しても動かないとなると……不調以外には考えられない。
「ひとまず……《治癒》」
アレンは簡単な治療魔法をドラゴンにかけてみる。淡い光がその体を包み込むものの――。
「グルァっ……!」
ドラゴンが低い声で唸ると同時、治癒の光は霧散してしまった。
アレンは肩をすくめてみせる。
「ほらな。こうなると家から魔法薬を持ってきた方が早いはずだ」
「だったら、私がお話ししてみましょうか……?」
「む……たしかにそれも悪くはないが」
ルゥのときのように、シャーロットが説得すれば大人しく治療を受けてくれるかもしれない。
「だが相手は野生の魔物だし……って、うわっ!」
「アレンさん!?」
背後から強い衝撃を受けてアレンはその場ですっ転ぶ。
すわドラゴンの攻撃か……と思いきや、そこにいたのはルゥだった。容赦なく体当たりをかましたらしい。
「いたた……なんだ、どうした。ルゥ」
「がぅ……!」
ルゥは鋭い目でアレンをねめつけ、ノーブルドラゴンを顎で示す。
それはまるで『気をつけろ』と忠告しているようで……。





