九十話 花畑での逡巡②
昨日の夜、シャーロットをピクニックに誘ったところまではよかった。
だがしかし自室にこもって、いざ告白の言葉やプレゼントを考えたところ……猛烈に不安になったのだ。
気の利いた言葉は浮かばない。
ロマンチックなプレゼントも思い当たらない。
おかげでアレンは焦りに焦った。
そうなってくると当然、告白の成否も不安になるというものだ。
たとえこの感情を受け入れてもらえなくても、シャーロットが幸せなら満足だ。メーガスたちに語った、その思いに嘘はない。
だがフラれたら……間違いなくショックを受ける。
へたをすると再起不能になるかもしれない。
そんな確信めいた予感が浮かんだ途端にもうダメだった。
結局昨夜は一睡もできず、朝から何も喉を通らない。
二十一年も生きてきて、緊張で吐きそうになった経験はこれが初めてだ。
「め、女々しいにもほどがあるぞ、俺ぇ……いつもの調子はどこにいったんだ……」
アレンは頭を抱えて呻くしかない。こんなことでは完璧な告白など夢のまた夢だ。
「やはりここは先延ばしに……む」
挫けかけた、そのときだ。
鈴を転がすような笑い声が聞こえてきて、アレンはふと顔を上げる。
丘を少し下った先で、ルゥがぴょんぴょん跳ね回っていた。その首には昨日つけてもらったスカーフと、花輪が飾られている。どうやらシャーロットに作ってもらったらしい。
「ふふ。気に入ってくださいましたか、ルゥちゃん」
「がうがう!」
「やっぱりルゥちゃんも女の子ですし、おめかししたいですよねえ」
「わう!」
「あはは、くすぐったいですよ」
ルゥに頰を舐められながら、シャーロットはくすくすと笑う。
その笑顔は太陽の輝きすら霞むほど、アレンの目に強く焼きついた。
しばし呆然とその光景を眺めて……アレンはぼやく。
「……やっぱり、好きだな」
照れも恥じらいも何もない。
その思いは単なる事実としてアレンの胸にストンと落ちた。
ため息混じりにぼりぼりと頭をかく。
「こうなってくると早急に言うしかないな……でないと締まりのないタイミングで言ってしまいかねん」
先ほどのように、少し距離が近くなっただけで想いが溢れてしまうのだ。意図せずぽろっと告白してしまう可能性は十分に考えられた。
たとえば朝の挨拶をしたときに。
『おはようございます、アレンさん』
『ああ、おはよう。好きだ』
『……はい?』
たとえば街で買い物をしているときに。
『うーん、どうしましょう。アレンさんはリンゴとオレンジ、どっちが好きですか?』
『どちらかといえばシャーロットが好きかな……』
『えっ……?』
たとえば夜に。
『それじゃ、おやすみなさ――』
『好きだ!』
『えええええっ!?』
もうどんなシチュエーションでも、やらかす未来しか見えなかった。アレンとしてはそんな事故めいた告白などごめんだし、シャーロットを困惑させることも避けたかった。
そうなれば……今日この場で、なんとしても告白するしかない。
アレンはぐっと拳をにぎって意気込んで――。
「いやでも、何て言えばいいんだ……気の利いたセリフなんて俺には無理だぞ……」
そのまま、また頭を抱えて悩み始めるのだった。





