八十八話 一世一代の告白計画②
「しゃ、シャーロット……もう審査は終わったのか……?」
「はい! ルゥちゃん、とってもいい子でしたから」
「わふー」
ルゥは得意げに、首に巻いた白いスカーフを見せつける。魔石のピン留めがされたそれは、ギルドに認められた魔物の証しだ。
「そ、それはよかった。ところで……」
シャーロットの目を覗き込み、アレンは低い声で尋ねる。
「今の話……聞いていたか?」
「いいえ? みなさん楽しそうだなあ、ってことくらいしか」
「そうか! ならいい!」
アレンはほっと胸をなで下ろす。
きちんと準備して告白するつもりなのに、こんな場所でバレてしまっては元も子もない。飲み代として金貨を数枚テーブルに置いて、シャーロットを外へと誘う。
「それじゃお祝いといこう。ルゥにステーキを食わせてやろうじゃないか」
「で、でも、みなさんとお話中なんじゃ……」
「気にしないでくれよ、お嬢ちゃん」
「そうそう。女神様はそっちのフェンリルを労ってやってくれって」
「そうですか……? ふふ、それじゃお言葉に甘えましょうか。ルゥちゃん」
「がうー」
ご機嫌で喉を鳴らすルゥと、それに微笑むシャーロット。アレンはそんなふたりを伴って、冒険者ギルドを後にした。
メーガスとグローたちは、その後ろ姿を生温かい目で見送った。
三人が雑踏の向こうに消えたのを頃合いに、誰からともなくため息をこぼす。
「いや、まさかあの人が決心するとはな……」
「人間の可能性は無限大だなあ……」
しみじみと語り合う彼らの語り口は、弟に向けるものというよりも、父親の再婚を見守る子供のようなそれだった。
どこかほのぼのとした空気が満ちる。
だがしかし……それは突如として物々しい騒動によって切り裂かれた。
ギルドの扉が乱暴に開かれると同時、悲鳴が上がる。
「助けてくれ! 誰か、回復魔法に長けた者はいるか……!」
「うっ、うう……」
重装の女性冒険者と、彼女の肩を借りた男性冒険者がギルドに転がり込んでくる。男性の方は満身創痍で息も絶え絶えだ。まとう鎧も完全に砕けてしまっていて、剣も半ばで折られていた。
回復術士たちがそちらに慌てて駆け寄っていく。
それ以外の者たちは眉をひそめて言葉を交わした。
「またトーア洞窟の怪物か……」
「だろうな……」
「ただでさえ厄介なダンジョンだってのに、最近やたら強いのが住み着いたんだっけ?」
「そうそう。ランクC+からA−に格上げだってよ」
もちろんそのやり取りは、メーガスたちの耳にも届いており。
「……おまえ、知ってたか?」
「……いや」
彼らは沈痛な顔を見合わせ合う。最近はバイトやボランティアに忙しかったので、冒険者稼業がかなり疎かになっていたのだ。
当然、トーア洞窟周りがそんな物騒なことになっているなんて、誰も知らなかった。
しばし全員口をつぐむが……。
「ま、大魔王さんなら大丈夫だろ」
「だな。間違いねえや」
結局はそう結論づけて、あとは普通の酒盛りを再開した。
だからこのとき、ボロボロの男性冒険者がこぼしたうわ言を聞きつけた者はいなかった。
もしも誰かひとりでもその単語を耳に入れていれば、血相を変えてアレンを追いかけ、明日の計画を立て直すように必死に助言したことだろう。
男性冒険者は、懸命な手当てを受けながら呻く。
その頰には犬猫よりも大きな動物の足跡が、くっきりと刻み付けられていた。
「うう、なぜあんな場所に……地獄カピバラが……」





