八十四話 イケナイ告白のために①
その日、アレンたちは街の冒険者ギルドを訪れていた。
広い屋内にはダンジョン帰りの者や、依頼を探す者、モンスターから剥ぎ取った素材などを査定してもらっている者などでごった返している。
奥の方には酒場も併設されており、冒険者の稼ぎを吸い上げることにも余念がない。
おかげで中はワイワイガヤガヤと、独特の活気に満ちていた。
「わあ……強そうなひとがいっぱいですね」
「……がう」
シャーロットは興味深そうに、ルゥは警戒するようにあたりを見回す。アレンは何度か訪れた場所だが、ふたりを連れてくるのは初めてだ。
初々しい反応が微笑ましく、アレンはついついそのまま眺めてしまう。
そんな折。
「あれ、大魔王さんじゃねーか」
「む……なんだ、お前たちか」
酒場の方から声がかかった。
見れば隅の方で、見知った顔が雁首を揃えている。
メーガス率いる岩窟組と、グロー率いる毒蛇の牙の一行……合わせて三十名ほどだ。
岩人族のメーガスは人間よりも体が大きいせいか床に直座りで片手を上げて、グローもそれにならう。
その他のゴロツキ連中はアレンの顔を見て、一斉にがたっと席を立って頭を下げた。
「ちーっす! 本日もお疲れ様っす!」
「女神様もごきげんいかがっすか!」
「今日もまた一段とお美し……ってその魔物、まさかフェンリル……!?」
そのうちのひとりがルゥに気付き、大声を上げる。
おかげで室内の注目が一気に集まった。シャーロットは視線に怯えてアレンの背中に隠れてしまうし、ルゥは低い唸りを上げる。
アレンはルゥの頭をぽんぽん撫でて、肩をすくめる。
「こいつはシャーロットの友達でな。今日は同伴許可を取りに来たんだ」
魔物使いは、従えた魔物を何でもかんでも街に連れて来られるわけではない。
生半可に躾けられた魔物が街に入っては、最悪の事態を招きかねないからだ。
ゆえに冒険者ギルドに魔物を連れてきて、危険性がないか、主人の命令に必ず従うか等々の審査を受ける。そうしてようやく連れ歩く許可を得ることができるのだ。
「い、いつの間にそんなやべー魔物を……」
「さすがは女神様っす!」
「そ、そんなことはないですよ」
シャーロットは困ったように眉を下げて笑う。すこしは落ち着いたらしい。
アレンはそのまま奥の窓口を指し示す。
「ほら、あっちが窓口だ。話はつけてあるから行ってくるといい」
「は、はい。頑張りますね。行きましょう、ルゥちゃん」
「がうがうー!」
かくしてふたりは周囲の注目を浴びたまま、意気込んで窓口へと向かって行った。審査は一時間くらいかかる本格的なものだが、シャーロットとルゥなら問題なく突破するだろう。
それを見送って、アレンは外に出ようとするのだが……メーガスたちが引き止めた。
「待てよ、それなら大魔王さんは暇なんだろ」
「たまには一緒に飲もうぜ!」
「こんな昼間からか……?」
おもわずアレンは苦笑してしまう。
シャーロットたちを待つ間、書店を覗くつもりだったのだが……ふと考え直すのだ。
「まあ、おまえたちに意見を聞いてみるのも悪くはないか」
「ええー、なんすか? 珍しいっすね」
「なに。大した話じゃない」
メーガスの隣に座れば、一行は何だ何だとアレンに詰め寄ってくる。
これまで雑用を言いつけたり、稽古と称してしごいたり等々はあったが、アレンが意見を聞くようなことは一度もなかった。だから彼らも興味を惹かれたのだろう。
注いでもらった安酒に少し口をつけ、アレンは軽い調子で尋ねてみる。
「実はそろそろシャーロットに告白しようと思うんだが、どんなシチュエーションがいいだろうか」
どんがらがっしゃーーーーーーん!!
テーブルが砕け、酒瓶が宙を舞い、並み居るゴロツキたちが全員そろってすっ転んだ。





