七十九話 強制ラブコメ大作戦③
ドロテアはひとしきりメモ帳に書き殴ったあと、アレンを見てニヤリと笑う。
「で、シャーロット氏は問題なさそうっすよ。アレン氏はどうなんすか?」
「どう、って」
「恋人のふり。お嫌なんで?」
ニヤニヤと放たれた問いかけに、アレンはぐうっと息を詰まらせる。
あまりにも卑劣な質問だ。『嫌』だと言った瞬間にシャーロットが傷つくことは手に取るように分かる。
だがしかし『恋人のふりをしたい』と断言することも憚られた。言った瞬間に何かが終わる。
アレンは逡巡に逡巡を重ねて……。
「ふっ、そういうことなら……」
覚悟とともに、シャーロットへ爽やかに笑いかける。
「こういう童心に返るようなごっこ遊びも……イケナイことの範疇だな!」
「そ、そうなんですか?」
「そうだとも! だからひとまずやってやろう! 遊び故に他意はないからどんと来るがいい! なあ!」
「……なんかわかんねーですけど、逃げられた気がするっす」
ドロテアはちっ、と舌打ちしてみせる。
だが、ひとまずこれで乗り切った。アレンはほっと胸をなで下ろす。
(もうあとは適当にやろう……俺たちに恋人のふりなど無理な話だし……)
シャーロットもごっこ遊び自体は嫌ではないようだが、先ほどの固まり具合はアレンとほとんど同じだった。
いざ恋人のふりをしようとしても、何も行動できないだろう。万が一積極的にアプローチされたら……自分がどうなるのか、アレンはまったく予想がつかなかった。
ともかくいつものような態度を心がけよう。
そう決意したところで、ドロテアが軽い調子で言い出した。
「そんじゃ話がまとまったよーですし。これからはボクが指導するとーりにイチャついてくださいね」
「は!?」
まさに青天の霹靂だった。
しかしドロテアはあっさりと言ってのける。
「だって当然でしょーよ。おたくらが自発的にイチャつくのを待ってちゃ、エルフのボクでも老衰死します」
「そこまでか!? おまえにそこまで言わせるほどか!?」
さすがに年月をかけたら、多少はどうにかなる……と思いたかった。
しかしこの展開は非常にまずい。自発的にお互い何もできないだろうから安心していたのだ。
それなのに第三者の、しかもこのドロテアの指示があるとなるとロクなことにはならないだろう。
震撼するアレンをよそに、ドロテアはにこにこ笑う。
「まーまー、これでもボクは何万人もの読者をキュン死にさせてきた百戦錬磨の恋愛マスターっすからね! すぐにおふたりをその気にさせてみせるっすよ!」
「マスターなら俺たちを巻き込むなよ……自分の体験で書けるだろ」
「あいにくボク自身は恋愛経験ゼロなもんで」
「そ、それで恋愛小説をお書きになれるんですか……?」
「とーぜんっす。ほんとに体験したことしか書けないなら、歴史小説家なんてどいつもこいつも大量殺人犯っすよ」
ドロテアはそう言って、明後日の方に遠い目を向ける。
「それに……よく知らない世界だからこそ書ける、みたいなところもあるっすね。ボクらみたいなクリエーターは、大きな石の裏にいるようなキモい虫っすから。日向への憧れを原動力にして作品を生み出して、日向に順応できた瞬間に死ぬ……そういう儚い生き物なんすよ」
「それはおまえ、全世界のクリエーターに謝罪するべき発言なのでは?」
「でも、童貞の方がエロい作品を描けるとかも言いません?」
「そんな胡乱な俗説など知らん」
「アレンさん、アレンさん。どう……ってなんですか?」
「今すぐ忘れろ。な?」
「は、はい」
シャーロットの目をまっすぐに見つめて、アレンは誠心誠意諭してみせた。





