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五十九話 温泉でしかできないイケナイこと②

 かくして三十分後。

 

「マジかー……」

 

 アレンは海パン姿で、呆然と温泉を眺めていた。

 宿の温泉は本当に広かった。巨大なドーム状になった中には、さまざまな湯船が並んでいる。

 おまけにサウナ部屋やマッサージルーム、ジューススタンド、スライダー付きの温水プールなどもあって、一大テーマパークといった様相だ。

 

 その中ではさまざまな客が、水着のまま温泉を楽しんでいた。

 種族や、老若男女の区別もない。中には岩人族専用のマグマ風呂なんかもあるらしい。人魚のコンシェルジュは、今は空いていると言っていたが……それでもけっこうな(にぎ)わいだ。


 たしかに女湯、男湯に分けてしまうより、こちらの方が広々と楽しめることができるだろう。家族連れも一緒に湯に浸かれるし、一石二鳥というわけだ。

 

「いやでも……水着って……なあ」

 

 アレンは頭を抱えるしかない。

 郷に入れば郷に従え、とは言うものの……。


『それでは、女性のお客様は私がご案内いたしましょうね♪ レンタルでは可愛い水着を多数取り揃えておりますので、じっくりゆっくりお選び下さいませ♪』

『えっ、えっ、えええ!?』

『ああうん。ゆっくり支度してこいよー』


 シャーロットが女子更衣室へ連行されていくのを、アレンはぼんやり見送ることしかできなかった。

 あれからずっと『水着』という単語が脳内を占拠している。

 目の前には水着姿の客が大勢いた。中にはもちろん若い女性もいて、湯船の中で瑞々(みずみず)しい肌を撫でさする。


 だがそんなものよりも、まだ見ぬシャーロットの水着姿の方が、よっぽどアレンの心をかき乱した。

 それを実際に目の当たりにしてしまったら、どうなるか。

 正直、自分でも予想がつかなかった。

 

(よし。もしもの時は心臓を止めよう。止めまくろう)

 

 そうあっさり覚悟を決めて、アレンは平常心を保とうとした。

 そんな折――。

 

「あ、あの……お待たせしました」

「っ……!」

 

 背後からおずおずと声がかかった。

 おもわず肩が跳ねそうになるが、アレンは鉄の意志でそれを耐えた。

 深呼吸をしてから、不自然にならない程度にゆっくりと振り返る。爽やかな笑顔を作ることも忘れない。覚悟も準備も万全だった。

 

「いや、俺も今来た……とこ、ろ……」

「あ、アレンさん?」


 その瞬間、アレンは言葉を失った。

 シャーロットが不安そうに小首をかしげても、一切反応できなかった。


 (ひも)で首から吊すタイプのビキニスタイルだ。

 とはいえ露出は控えめで、上はふんだんなフリルで守られており、下はパレオが巻かれている。だがそれで油断することはできなかった。ビキニとなると当然おへそ周りが丸見えだし、パレオの下から覗く素足も眩しい。スタイルの良さが際立っている。


 水に反射した光のせいばかりではない。

 水着姿のシャーロットは、まばゆいばかりに輝いていた。


 心臓を止める必要などなかった。なぜなら勝手に止まったからだ。

 黙り込んだアレンをどう思ったのか、シャーロットは眉を寄せる。


「や、やっぱりこんな格好……似合いません、よね……?」

「…………い、いや」


 アレンはなんとかかぶりを振って、言うべき言葉を絞り出す。

 

「よく、似合っているぞ」

「そ、そうですか……?」


 シャーロットはぱっと顔を輝かせる。

 しかしすぐにハッとして目をそらすのだ。不思議な反応に首をかしげるが、その頰がほんのり赤くなっていることに気付く。


「あ、アレンさんも……お、お似合いだと思います」

「ああ、うん、なるほど。お互い様か」

 

 おかげでちょっと冷静さが戻った。

 

「……なにがですか?」

「いや、なんでもない。それより早く行こう」

 

 恥ずかしがるシャーロットの手を取って、いざ湯船を目指す。

 水着はおいおい慣れるとして……大事なのはシャーロットを楽しませることだ。そのための計画はもちろん立ててきた。


「さあ、温泉でしかできないイケナイことを楽しもうじゃないか」

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