五十八話 温泉でしかできないイケナイこと①
かくしてふたりは宿に到着した。
「ようこそ、我らがユノハ・リゾーツへ! 歓迎いたしますわ♪」
フロントに足を踏み入れるなり、コンシェルジュが丁寧に頭を下げる。
髪にサンゴの髪飾りをつけて、下半身は魚。典型的な人魚族だ。それでも上半身にはぴっしりしたスーツをまとい、いかにも従業員といった出で立ちである。
彼女は尻尾でぴょんぴょん器用に移動して、アレン達の荷物を持ってくれる。
ミアハから受け取ったチケットを渡せば、顔をぱあっと明るくする。
「ご予約のクロフォード様ですね。お部屋の用意はできております。もう向かわれますか?」
「ああ、頼む。温泉ももう開いているのか?」
「もちろんです。今はちょうど空いている時間帯でございますよ♪」
「ふむ、それじゃ先に入りに――」
「は、はい! アレンさんがよろしいなら!」
シャーロットは食い気味にうなずいてみせた。本当に温泉自体は楽しみにしていたらしい。
その反応に、人魚がにこりと微笑む。
「では、お部屋と大浴場へご案内いたしましょう。どうぞこちらです」
「うむ。感謝する」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、私どもも喜ばしいことですから」
人魚のは頰に手を当て、ほうっと熱っぽい吐息をこぼす。
なぜかアレンとシャーロットの顔を微笑ましそうに見つめてみせて――。
「新婚旅行に当ホテルをお選びいただけるなんて、とても光栄でございますわ♪」
「……しんこん?」
「……りょこう?」
思いもよらない単語に、ふたりはぴしりと固まった。
おかげで人魚は「あら?」と小首をかしげるのだ。
「ひょっとしてご夫婦様ではございませんの?」
「あいにく……な」
「では、カップル様ですね!」
「いや…………それも、違う」
痺れる舌をなんとか持ち上げて、アレンは答える。シャーロットは真っ赤になって凍りついているし、この場は自分がなんとかするしかなかった。
「ちなみに……何故そう思ったのかを聞かせてくれないか?」
「いえ、だってこれ……」
先ほどアレンが渡したチケットをかざして、人魚は不思議そうに告げる。
「カップル・ご夫婦様限定のスペシャル宿泊パックですよ?」
「ミアハのやつめ、計ったな……!」
魔王さん達にぴったりなプランを選んでおいた、という彼女の言葉を思い出す。そういえばあのとき妙に楽しそうだった。
アレンの反応に首をかしげつつ、人魚は淡々と告げる。
「プランにご不満なら変更も可能ですが……こちらが一番豪華なものになっておりますので、このままの方がお得ですよ?」
「では……」
アレンはごくりと生唾を飲み込んで、決意を告げる。
「その、カップル・夫婦限定パックで……頼む」
「承知いたしましたー♪」
「か、かっぷる……ふうふ……」
アレンは凍りついたままのシャーロットの手を引いて、ずいずい進む人魚の後を追った。
部屋は海が見渡せる角部屋だった。居心地良さそうな空間にひとまず荷物を置いて、人魚に連れられるまま温泉へと繰り出す。
その間、シャーロットとの会話は少なめで、空気はどこかぎこちない。
さすがのアレンもこんな状況でいつもの調子が出るはずもなかった。
(カップル……もしくは夫婦……か)
それらの浮ついた単語に、どんな感想を抱けばいいのかもわからなかった。
「さあ、到着いたしましたよ♪」
まごまごしているうちに人魚が立ち止まる。
温泉は宿の最奥部に存在しており、入り口は大きく、さまざまな客が出入りしていた。
人魚はアレンたちを見てにっこり笑う。
「こちらが当ホテル自慢の温泉施設になります♪ どれも地下からくみ上げた天然温泉で、中でも露天風呂が一番の人気ですね。海が一望できるんですよ」
「ほう、それはいいな」
ガイドに載るだけのことはありそうだし、景色を眺めて湯に浸かれば、このむずがゆいような心地も落ち着くはず。
そう期待するのだが……それは人魚の問いかけによってあっさり打ち砕かれることになる。
「ところでお客様、水着のご用意はありますか?」
「み、水着……? なんでだ」
「それはもちろん……」
人魚は満面の笑みを浮かべて、温泉の入り口を示す。
曰く――。
「こちらは水着着用でお入りいただく、男女兼用の大浴場となっておりますので!」
「はあ!?」
「はい!?」





