五十五話 遠出の計画②
「それに、イケナイことはたまにするからいいんですよ。いっつもイケナイことをしていたら、イケナイ子になっちゃいます」
「むう……たしかにその言葉は一理あるだろうが」
アレンはシャーロットを堕落させたいわけではない。
ただ、これまで経験したことのないような喜びを楽しんでもらいたいだけだ。
貧すれば鈍するとは言うものの、満たされ過ぎても人はダメになる。イケナイことは節度を守って行うべきだ。
それにはアレンも異論がない。
だがしかし……ここで折れるわけにはいかなかった。そっと不安げな顔を作って、シャーロットの顔をうかがう。
「旅行に連れて行ったら……間違いなく、おまえは喜んでくれるだろ? 俺はそれが見たいんだ」
「うっ……そ、それはそうかもしれませんけど……」
シャーロットがさっと目をそらす。
手応えがあった。アレンは嬉々として畳み掛ける。
「きっと楽しい旅行になるぞー。地方の郷土料理に舌鼓を打つもよし、観光地を巡るもよし、宿でだらだら昼寝をするもよし。ああ、温泉に入ってもいいだろうな」
「お、温泉……!」
シャーロットの肩がびくりと跳ねる。
クロフォード家の家族旅行の行き先は、当然ながらヒエラルキー上位の義母が握っていた。そのため、いかに女性が温泉と呼ばれるスポットに魅力を感じるか、アレンはよーく知っていた。
もはや陥落は近い。
アレンはにやりと笑ってシャーロットの顎をすくい上げる。
「そら、行きたい場所を言え。そうすれば……俺がその願い、叶えてみせよう」
「あ、アレンさん……」
空色の瞳がぼんやりとアレンを見つめる。
しかしシャーロットはハッとしたように身を引いてみせた。
「そ、それでもダメです! 絶対に言いませんからね!」
「むう、強情なやつめ……だったら最終手段だな。また死の呪いをかけるか、俺に」
「それはもうやめてくださいって言いましたよね!?」
シャーロットのいつものツッコミが響くと同時。
ちょうど折よく、玄関のチャイムが鳴らされた。
呪いをかけようとしていたアレンだが、ひとまずそれを中断して首をひねる。
「ちっ、こんなときに……悪いが少し出てくる。待っていてくれ」
「た、助かりました……」
あからさまにホッと胸を撫で下ろすシャーロットだった。
この程度でアレンが諦めると思っているところがまだまだ甘い。
それはひとまず置いておいて、アレンは玄関へと向かった。扉を開ければ……いつもの人物がびしっと敬礼してみせる。
「どーもどーも魔王さん。こんにちはですにゃ」
「なんだ、ミアハか。しかし配達は午前中に済ませてくれたはずでは……?」
「今回は特別なお届けものですにゃ」
カバンをごそごそ漁って取り出すのは、一通の封筒。
宛先は『大魔王様へ』ときた。
なんて雑な宛名だ。これで届けてくれる運送社もどうかしている。
おまけに見覚えのない筆跡だったので、アレンは首をかしげるしかない。
「こいつは……?」
「ふっふっふー。聞いて驚いちゃいけませんですにゃ」
ミアハはいたずらっぽく笑って、びしっとその封筒を差し出した。
そうして曰く――。
「ずばり……二名様、二泊三日のご旅行をプレゼントですにゃ!」
「はあ……?」





