五十四話 遠出の計画①
「あの、読み終わりました」
「ほう?」
ある日の午後。
ともにリビングで読書していると、シャーロットがおずおずと声をかけてきた。
読んでいた本を閉じてアレンは笑う。
「早いな、もう読んだのか」
「は、はい。面白かったので、あっという間でした」
分厚い本を胸に抱いたまま、シャーロットはこくりとうなずく。
彼女が読んでいたのは、この国のことを書いた本だ。
歴史に文化、主な産業に観光名所。おもに外国客に向けたガイドブックのようなもので、フランクな文体で書かれているが、それでも内容は重厚そのもの。
シャーロットは隣国、ニールズ王国出身だ。聞けば国外に出たのはこれが初めてだというし、この国のことを知っておいた方がいいだろうとアレンが見繕ったものだ。
時間を忘れて読書に浸る。
ささやかながら、忙しい現代においてはなかなかに贅沢なひと時だ。つまりはイケナイことである。たぶん。
放っておけば屋敷中掃除して回ろうとするシャーロットを休ませるという重大な目的もあった。
そんなわけで本を与えたのだが、ここまで早く読破されるとは思いもしなかった。
シャーロットは楽しげに本を開いてみせる。
「アレンさんやエルーカさんのおっしゃっていた、アテナ魔法学園のことも載っていましたよ。大きい学校なんですねえ」
「まあな」
見覚えのある校舎のモノクロ写真に、アレンはスッと目を細める。
アテナ魔法学園はとてつもなく巨大な学園だ。生徒や教員、その他職員を合わせると小さな島国くらいの規模になる。
三年ほど前に追い出された場所ではあるものの、人生の大半を過ごした学び舎だ。それなりの愛着はあるというもの。
久方ぶりに様子を見に行きたいなあ、などと考えて、ふと思いつくことがあった。
ニヤリと笑ってシャーロットに問いかける。
「学園が一番気になる場所なのか? ほかにはあるか?」
「そうですねえ、いっぱいありますけど、ひとつ挙げるとするなら……あっ」
そこで、ページをめくっていたシャーロットの手がふと止まった。
アレンが首をかしげていると、じーっと怯えたような視線を向けてくる。
「もし私が気になる場所を言ったら……どうなりますか?」
「明日のお出かけ先が決定する」
「やっぱり!」
シャーロットはそう叫び、神妙な顔をする。不思議な反応にアレンは肩をすくめてみせる。
「遠出は嫌か? まあ、女性はなにかと荷物が多くなるからなあ」
かつてクロフォード家で暮らしていたときは、年一くらいの頻度で家族旅行に連れまわされた。そのときの光景を思い出し、アレンは笑いかける。
「荷物くらい俺が持つぞ。これでもよく義母やエルーカのスーツケースを、叔父上と一緒に運ばされたからな」
「い、いえ、そういうことじゃなくってですね……」
シャーロットは申し訳なさそうに縮こまり、上目遣いでぽつぽつと話す。
「お世話になっている身の上ですし……遠出に連れて行っていただくなんて、やっぱり悪いです」
「遠慮しなくてもいいんだぞ」
「でも、私はこのお屋敷でアレンさんと過ごす時間が、大好きですから」
そう言って、シャーロットは屈託無く笑ってみせた。どの言葉にも嘘はなさそうだが……アレンはちょっとした不満を覚える。





