四十八話 成り行き任せの大進軍①
「あっ、それじゃあそろそろ失礼しますね。お世話になりました」
ぺこりと頭を下げて、シャーロットは先を急ぐ。
ならず者たちはそれを黙って見送った。というよりも、シャーロットの発言で完全に凍りついてしまっているようだった。
「ふう。ひとまずは何とかなったな」
「あっ、あんた……!」
アレンが物陰から姿を見せれば、グローたちがギョッとする。
そのまま全員から上がるのはむさ苦しいブーイングだ。
「あんた俺らの女神様に何をしてくれてんだ!」
「正直、あんたともう一回戦うなんざ死んでもごめんだが……女神様のためとあらば玉砕覚悟で特攻かけるぞゴルァ!」
「シャーーっ!」
「ええい、誤解だ! 誤解!」
グローの蛇ですら、アレンに敵意剥き出しで威嚇する始末。
そのためアレンはざっくりと状況を説明せざるを得なくなった。
「そういうわけで、ひとまずは協力ご苦労だった。俺はシャーロットの見守りに戻るゆえ、お前たちは好きにしろ」
「あんた、本当に女神様のためだけに俺らをボコったのかよ……信じられねえ……」
「まあでも、たしかにあの子のためなら、何かしてやりたいって思うよな……」
「わかる……」
語彙力少なめで頷きあう、毒蛇の牙のメンバーたち。
そんな彼らに、アレンは爽やかな笑みを向けてやるのだ。
「あいつに手を出したら……どうなるかわかるよな?」
「くっ……すみません、女神様……!」
「俺らでは大魔王の手から、あなたを救い出すことはできません……!」
「ふはははは! 百年早いわ!」
アレンは高笑いをしてみせる。
どちらが悪者なのだか、ちょっと分からなくなってきた。
「さて、くだらない話は置いておこう。先を急ぐぞ、エルーカ! ミアハ!」
「はーい。でも、シャーロットちゃん、どっちに行ったっけ?」
「ああ、この先を左に曲がったのを見ましたにゃ」
ミアハが軽く言った途端。
「なっ……!?」
ゴロツキたちのたちの顔色がさっと青ざめた。何事かと首をひねるアレンに、グローが詰め寄る。
「まずい、大魔王さん! この先は危険だ!」
「……どういうことだ?」
「この先を牛耳っているのは、俺たちなんざ足元にも及ばねえ……傀儡一家っつーヤバいパーティなんだよ!」
グローが語ることによると、この一帯はさまざまなパーティが縄張りを主張し、日々ぶつかり合いを重ねているらしい。
中でも傀儡一家というのは、五本の指に入るほどの危険極まりない一団だという。噂では暗殺業も請け負っているとか、いないとか。
それを聞いて、エルーカが悲鳴を上げる。
「な、なんでそんな方向に行かせちゃったのよ!」
「無茶言うなよ! あんな衝撃発言を聞かされたんだぞ! フリーズして当然だろうが!」
グローはシャーロットが向かった方角をにらみつける。
「くそっ……俺が女神様を連れ戻して――」
「いや待て」
駆け出しかけたグローの肩を、アレンががしっと掴む。
そうして……やんわりと首を横に振った。
「その必要はない」
「まさか、おにい……」
「ああ。やはりこれもまた、簡単な話だ」
アレンはかすかに口角を持ち上げて笑う。
それがかなり凶悪だったらしく、見ていたゴロツキどもから絹を裂くような悲鳴が上がるが、構うことはない。
この先が、シャーロットのようなか弱い婦女子が出歩くには危険な場所だというのなら……アレンがやるべきことなどひとつだけだ。
ぐっと拳を突き出して、高らかに宣言する。
「俺がこの地域一帯を……傘下に収めればいいだけだぁ!」
「あんたバカなのか!?」
「一応有能ではあるんだけどねえ」
「なおのこと始末が悪いパターンなのですにゃ」
勢いよくドン引くグローと、やれやれと顔を見合わせるエルーカとミアハだった。





