四十五話 迷い道ハプニング①
それから十分後。
「あれ……?」
シャーロットは、ついにその区画にたどり着いてしまった。
通りは狭く、あちこちに空き瓶が転がっている。
窓ガラスが割れたままになっている建物も多い。空気はどんよりと淀んでいて、晴れた空から降り注ぐ光もどこかくすんでしまっている。
一見してわかる、治安の悪さだ。
「ここ、いったいどこなんでしょう……」
シャーロットは不安そうに地図を胸に抱き、きょろきょろと辺りを見回す。
区画はがらんとしていて人の気配はない。
しかし、恐る恐る足を踏み出したその瞬間――。
ばんっ!
通りに面した建物から、ぞろぞろと人影が現れ出でた。そのほとんどは人相の悪い男で、どいつもこいつも重装備をまとった冒険者だ。中には人狼族や魚人族など、人間以外の種族もいる。
「ひっ……!」
おかげでシャーロットは息を飲んで後ずさる。
陰からこっそり見ていたエルーカたちも、もちろん慌てふためいた。
「ちょっ、これはマズイってば……!」
「四の五の言ってる場合じゃないですにゃ!」
ふたりが意を決して物陰から飛び出そうとしたそのとき、事件は起きた。
突然現れたゴロツキたちが――一斉に頭を下げたのだ。
「らっしゃーせー!!」
「遠路はるばるご苦労様でございましたー!!」
「ようこそ俺たちのホームへ!!」
「歓迎いたしますっっ!!」
「えっ、えっ……えっ?」
シャーロットは戸惑うしかない。
しかし男たちは口々に歓迎の言葉を叫び、椅子とテーブルを運んでくる。
そこにシャーロットを座らせて紅茶を振る舞い、ギターやハープを奏でる者も出る始末。王侯貴族もかくやあらん、といった歓迎ぶりだった。
おかげでエルーカとミアハは顔を見合わせるしかない。
「……なにあれ」
「……さあ?」
「ふっ、間に合ったか」
「あっ! おにい!」
そこにアレンが戻ってきた。
「どこ行ってたのよ。ってか、間に合ったって何?」
「なに、簡単な話だ」
アレンは鷹揚に言ってのけ、物陰からシャーロットの様子を見やる。
急な歓待にかなり戸惑っているようだが、表情はかすかに柔らかい。これまで長い距離を歩いてきたため、椅子で休めてすこしホッとしているらしい。
うむ、狙い通りである。
アレンは目を細めて、満足げに笑う。
「先回りして、この一帯を治めていたパーティ……毒蛇の蛇だったか? そいつらをひねり上げたんだ。そのついで、もうすぐここに来る少女を丁重にもてなすように言いつけた」
「モンスターペアレントも真っ青だよ!?」
「あー、だからどいつもこいつもボロボロなんですにゃ」
ミアハが言うように、ゴロツキたちは流血こそしていないものの、満身創痍の出で立ちだ。鎧はヒビだらけでボロボロで、あちこちにアザやたんこぶなんかを作っている。
ふたりともドン引きの模様。だがアレンはきちんと配慮したので弁明しておく。
「一応、流血沙汰は避けたぞ。血まみれのゴロツキどもが現れては、シャーロットが怖がるだろうからな」
「ねえ、おにい。人道って言葉、聞いたことある?」
「もちろん知っているとも。俺の行く先にできる道のことだな」
「ま、まあ、やつらもいいお灸になったはずですにゃー」





