四十話 アレンの苦悩とシャーロットの挑戦①
初夏のある朝のこと。
曇天が見下ろすアレンの屋敷に、ミアハがいつものように訪ねてきた。
「おっはよーございま……あにゃ?」
手にしているのは小包と新聞紙。
いつも通りの荷物を手にした彼女だが、この日は目を丸くしてぽかんとしてしまう。
それもそうだろう。なにしろ玄関先でアレンが体育座りして、頭を抱えていたからだ。
「ど、どうしたのですにゃ、魔王さん。こんな場所で」
「……ミアハか」
気遣わしげな声に、アレンは青白い顔を上げる。
目の下には深いクマが刻まれており、自分でわかるくらいに憔悴していた。声も掠れて今にもぶっ倒れそうなほど。ほぼ徹夜で悩み続けたため、仕方ないといえば仕方ない。
「何度言ったらわかるんだ……俺は魔王ではなく、大魔王だというのに……」
「いやだって、魔王さんは魔王さんって感じなのですにゃ」
「わけがわからん……」
「ツッコミにも覇気がないですにゃー。いったい何があったのですにゃ」
「やっほー、おにい! 可愛い妹が遊びに来たよ!」
「あにゃ」
そこにエルーカも騒がしくやってきた。
ミアハは耳をぴくりとさせて、にこやかにお辞儀をする。
「おはようござますにゃ、エルーカさん」
「おはよ、ミアハさん! 今日もナイスな猫耳だよ☆」
「いやはや照れますにゃー」
アレンを通してすっかり顔見知りになった女子二人だ。街でもちょくちょく会っているらしい。
きゃっきゃしつつも、話題は自然とアレンのことに移っていく。
「てか、どうしたの。これ」
「さあー? ミアハが来たときには、もうこの状態でしたにゃ」
「ふーん……さては、おにい」
エルーカはキランと目を光らせて、人差し指を突きつける。
「ずばり、シャーロットちゃんと何かあったんでしょ!」
「ぐっ……な、なぜわかった!?」
「いや、逆に聞くけど、おにいがそれ以外で狼狽えることってある?」
「たいていは自力で強引に解決してしまうでしょうからにゃー」
慌てふためくアレンをよそに、女子ふたりはしれっとした反応だった。
ともあれ彼女らの指摘は正解だ。
アレンがここまで頭を抱えることなど、シャーロット以外にありえない。しかも、今回は非常に厄介なことになっていた。
「シャーロットさんと喧嘩でもしたのですかにゃ?」
「それならまだいい方だ……」
ミアハの問いかけに、アレンは自嘲気味な笑みをこぼす。
そうして彼はぽつぽつと、昨夜起こった事件のあらましを語り始めた。
昨夜。ふたりで夕飯を食べてから、アレンはシャーロットに切り出した。
『なあ、シャーロット。おまえがここに来てから、もう一ヶ月だ』
『もう……そんなに経つんですか』
紅茶を飲んでいたシャーロットが、感慨深げに吐息をこぼす。
たった一ヶ月。されど、もう一ヶ月だ。
長いようで短い時間だった。シャーロットはこれまでの日々を思い出してか、どこかぼんやりとした様子で黙り込む。
そこに……アレンはにやりと笑う。
『というわけで……本日は給料日だ!』
『……へ!?』





